2019年12月、コロナ直前に新潟県湯沢町のリゾートマンション「エンゼルリゾート湯沢」が民泊新法施行前に総会で民泊を承認、それによって利用者を増やし、一時一部屋10万円にまで下がっていた価格を200万円程度にまで上げたという例を取材した。
その後、コロナで2020年4月には利用者ゼロという状況を経験しつつも、現在は利用者が戻りつつあることに加え、新たな客層を獲得しており、さらに伸びが期待できる。何が起こっていたのか。
スキーシーズン以外にも利用者
最初にコロナ禍でのエンゼルリゾート湯沢の利用状況を見ておこう。湯沢では冬のスキーシーズンが一番の稼ぎ時であり、コロナ直前の2019年の1月、2月は60%以上の稼働率。この時期には月に1200~1300万円ほどの売り上げとなっていた。
ところが、コロナ襲来の2020年3月には16%と大きく落ち込み、4月には利用者ゼロ。8月になって32%と少し持ち直すものの、2020年は低迷が続いた。
ところが2021年2月に48%と盛り返し始め、以降、少しずつではあるが前年、前々年に比べると毎月の利用率が上昇傾向にある。グラフを見ていただけるとお分かりいただけるが、全体として底上げされつつあるのだ。
特に従来閑散期であった10~11月、8月などに利用者が増えている点には注目したい。冬しか使われなかったリゾートが通年で使われるようになれば、それだけでも利用率は大きく上がることになるからだ。
これについて株式会社エンゼルグループコーポレート本部総務・広報課の冨士岡翔太氏は利用者層の変化を挙げる。
「以前のビジネス利用は工事関係者が工事期間中にマンスリー利用するという形でしたが、コロナ禍ではそうした利用が減り、変わって一般のビジネスマンのテレワーク利用が明らかに増えてきています。たとえばスキーシーズンに滞在、平日は仕事をして、週末はスキーと言ったような使い方です」。
同社ではコロナが始まった頃から利用者に滞在目的についての簡単なアンケートを取っており、それを見ると明らかに利用目的が多様化していることが分かる。初期の回答はスキー、スノーボードが主体なのだが、だんだんと温泉、日本酒、自然散策、周辺観光、川遊びなどが増えているのだ。また、現場で見ているとビジネス+観光、スポーツといった利用が増えていることが分かるとも。
「閑散期では全体の数%ほどはテレワーク利用、スキーシーズンは申告がないので分かりませんが、一定数はいらっしゃるのではないかと推測しています」。
湯沢町はスキーでは有名だが、それ以外の観光については知られているとは言い難い。そのあたりがもう少し知られてくると冬以外の利用者増は大いに見込めるはずだ。
同町は2022年3月に人口が8000人を切り、移住促進、町のPRに力を入れ始めている。それとの相乗効果、また、フジロックフェスティバル、長岡の花火大会など一時中断していたイベントが再開されることでの利用者増も期待できるところである。
2階にコワーキングスペースを産学協同で整備
そこで同社では建物2階のレストランとして運営できるものの、現在は使われていない共用スペースを新潟工科大学と組んでワーケーション可能なコワーキング&シェアダイニングスペースにしようと進めている。
「リゾートマンションの実態調査ということで学生さんたちの調査に協力、それでご縁ができ、今回は一緒にやっていただけないかと声をかけ、産学協同プロジェクトが実現しました。
そのために2022年11月から12月にかけてはクラウドファンディングを実施、102人の支援で295万円弱を集めました。実際のコワーキングスペースは2022年12月24日より運営を開始しました」。
同物件には少人数向けの和室、洋室、最大9人まで利用可能な部屋までさまざまなタイプが揃っているものの、和室が多く、テレワークにはやや不向き。それで今回の改修を決断したという。
「館内施設として大浴場はもちろん、サウナ、ビリヤードや卓球が楽しめる共有スペースがあり、コインランドリーやコンビニエンスストアもありますし、室内には調理器具なども揃えてあります。
それに加えて仕事がしやすい空間が生まれれば新たな利用者獲得、既存の利用者の長期の利用などが想定できるのではないかと考えています」。
民泊利用で、利回りは7~8%
現在、同物件で民泊として稼働しているのは50室。それ以外は大半がスキーシーズンのみのリゾート使用となっており、定住しているのは全体130戸のうち、11戸ほど。
民泊となっている部屋は40人のオーナーが所有しており、現在の価格は180~200万円。
「民泊前の価格は30㎡弱のワンルームで10万円ほどでしたが、民泊を始めたことで価格が急上昇。その後、1階にコンビニエンスストアが入ったことでさらに上がり、コロナで少し下がりましたが、今は比較的安定した状況です」。
2019年8~11月くらいにかけて部屋を分譲、それで新たにオーナーになった人が多く、年代は40代中心で30代もいるとか。200万円前後ならキャッシュで購入できる額でもあり、それがお小遣いになればという感覚だろう。
「現在、売上の良い部屋には年間130~150万円ほどの収入があり、そのうちの30%がオーナーに入ります。管理費や固定資産税などで28万円くらい必要だとして、利回りでは7~8%くらいというところでしょうか。それほど大きく儲かるわけではありませんが、少額から投資できるところが人気なのでしょう。購入された方で売却したいという例は1~2件ほど。あとは保有し続けたいという意向です。
以前から所有していた方であれば、これまでただ持ち出すだけだったものが出費ゼロになり、逆にプラスが出る状況です」。
リゾート地の場合、コロナのような社会の変化があると途端に利用者が減るのがリスクではあるが、それでも投資額が少なく、利用されていない間は自分で利用することもできると考えると面白い投資先かもしれない。
他のリゾートマンションで民泊ができない理由
湯沢界隈にはマンションが58棟あり、部屋数は1万室以上。だが、民泊が可能となっているのはエンゼルリゾート湯沢ともう1棟、ライオンズマンション越後湯沢の2棟のみ。
「民泊ができないのには2つ、理由があります。ひとつは管理規約の問題。56棟は民泊不可を管理規約に織り込む、または総会で民泊禁止を決議してしまっており、それを撤廃するためには管理組合の総会で4分の3以上の賛成が必要です。当時よりも建物内に他者が入ることを敬遠する人達もおり、これは大きなハードルだろうと思います。
もうひとつの理由は消防法によって課せられるスプリンクラー等消防設備の設置です。階数などによって消防設備と民泊として使える面積については一定のルールがあり、ある程度の規模で民泊を行おうとすると消防設備工事等で大きなコストが発生する可能性が高くなってきます。適法の範囲内でとなると面積の制限が出てきてしまいます。収支をきちんと考えてからでないと簡単には始められないわけです」。
稼げないリゾートマンションの末路
一方でエンゼルリゾート湯沢は9階建てで消防法の制限を受けず、3000㎡まで利用が可能。冒頭で書いた通り、総会で民泊の承認も得てある。だから、同物件では年間180日まで民泊が可能だし、それ以外の時期はマンスリーとしての運用もできる。
ところが、他のリゾートマンションではそうした手で稼ぐことはできない。管理規約で自らの手を縛っているためだ。
しかし、将来を考えるとどうだろう。今後の日本でリゾート地のマンションがこれまでより多額で取引される未来は想定できず、そうなると建替えはあり得ない。どうにかして延命、長く使い続けるのが現実的だろうが、そのためには費用が必要だ。
さらにこの先、相続が多発することを考えると、そのまま放置される可能性もある。実際、湯沢でもいくつかのマンションではすでに内部崩壊の予兆が出始めている。
リゾートマンション専門の管理会社であるエンゼルは相続で放置されている、滞納がある物件などについては競売手続きを進め、健全な第三者が所有者となるように努力しているが、滞納が多く売りにくい、どうしても所有者が突き止められないケースなどが出始めているという。
「状況は物件ごとに異なり、滞納のあるマンション、ないマンションが鮮明になりつつあります、100万円を払ってでも買って欲しいという物件も。
今後、さらに所有者不明が増えてくると総会決議などができないことになり、何かを決めようとしても身動きが取れない事態に陥ることもあり得ます。
建替え以外では取り壊しという方法もありますが、この場合には全員の同意がないとできません。そう考えると、そろそろ真剣にリゾートマンションのこれからを考え始めないとまずいのではないでしょうか」。
そのため、同社ではオーナー向けのゲストルームなど、使われていない部屋を民泊向けに運用するなど少しずつ民泊忌避感の軽減に向けて提案をしていきたいとしているが、さて、所有者たちはどう反応するか。
ちなみに伊豆方面のリゾートマンションは湯沢より5~10年早く建てられており、所有者の高齢化は湯沢以上に進んでいる。慎重派で頑固な人たちが中心となって、他者を自分のマンションに入れることを反対しているとも想定され、崩壊はそちらから起こってくるかもしれない。
最後にこの冬のエンゼルリゾート湯沢だが、12月半ば時点で1月が45%、2月が35%の予約が入っており、うち8割がインバウンド。このまま7割くらいまで行ってくれれば過去最高の売り上げにまで戻る。どうなるか、期待したいところである。
健美家編集部(協力:
(なかがわひろこ))