まず上がるのは固定型ローン金利 新たな契約は負担増
変動型金利にもいずれ波及 水準は年に複数回見直し
日本銀行が12月20日の金融政策決定会合で、まさかの金融政策の 修正を決定した。長期と短期の金利を操作する金融緩和策は維持しつつ、長期金利の変動幅を、これまでのプラスマイナス0.25%程度から0.5%程度まで広げたのだ。
つまり、0.5%程度までの長期金利の上昇を認めたことになり、事実上の「利上げ」と言える。不動産投資家にとっては、間違いなく金融機関からの借入金利が上昇に向かうので、返済負担が増す。投資戦略の練り直しを考えたほうがよいだろう。
まず、日銀による長期金利の利上げの影響が、金融機関の金利にどう波及するかを見てみよう。
すぐに響くのが固定型のローン金利だ。長期金利が上がれば、固定型のローン金利の上昇につながる。一度借りてしまえば、返済期間の最初から最後まで金利が変わらないので、最初に低めの金利で契約していたのなら安心だ。
だが、新たにローンを組みたい場合は、当然、契約時点の金利が適用される。水準が上がった金利で契約し、返済の最初から最後までその高い金利で返済し続けることになるので、低い金利で契約した場合より月々の返済負担額は増すし、返済総額も膨らむことになる。
一方、返済期間中、1年のうち複数回、金利水準が見直される変動金利でローンを組んでいる人も多いだろう。
変動金利は短期金利に影響されるので、長期金利が上がったからといって、すぐ上昇するわけではない。
しかし、あるエコノミストは「変動金利もさまざまな市場環境に左右されるので、いずれ長期金利の上昇は変動金利の上昇につながってくる」と解説する。
つまり、変動金利でローンを組んでいて、今は返済金利の水準が低かったとしても、何年後かには跳ね上がり、月々の返済額が膨らむ恐れがあるのだ。
ここで、改めてローン金利上昇の影響を試算してみよう。今後、日銀が金融引き締めを進めたことで、不動産投資向けローンの金利が急騰したとする。
1億円35年ローン固定金利 3%→6%で月返済10万円増
返済総額は1億1800万円に 影響は大きい
たとえば、1億円を返済期間35年の固定ローンで借りるとして、その金利が年3%から6%へ跳ね上がったと仮定しよう。
金利3%の場合、月々の返済額は19万2425円、返済総額は約8081万円だ。
この金利が6%に上昇したとすると、月々の返済額は28万5094円、返済総額は約1億1853万円と、それぞれ、かなり額まで膨れ上がることが分かる。
これはあくまで単純化した試算だが、金利の上昇が不動産投資のローン返済にどれだけ影響が大きいか実感できる。
ここで、なぜ日銀が金融緩和の修正に動いたかを考えてみよう。
一つは、日銀が景気回復やデフレ脱却のため続けてきた大規模な金融緩和が、さまざまな弊害を生んでいるとの批判が強まっているためだ。
日銀が金利を強制的に低水準へ誘導し続けたことで市場の金利が動かなくなった。この結果、債券市場で正常な売買が成立しなくなり、利益を上げられなくなった金融機関から悲鳴が上がっていた。日銀はこれに応えた可能性がある。
さらに最近では、低いままの日本の金利と高騰する米国の金利の水準差が拡大し、運用に有利な米ドルが買われたことで、急激な円安ドル高が進んだ。円安は輸入されるモノの価格の上昇を通じ、日本国内の物価を高騰させる。このため、金融緩和を修正して円安を食い止めるよう求める声が、国内で上がっていた。
加えて来年春には、日銀総裁の交代が予定されている。新総裁が金融緩和からの脱却を進めやすいよう、やめる前の現・黒田東彦総裁が道筋をつけたのではないかともみられている。
なるべく早くローンを組み、自己資金を増やそう
ローンに頼らぬ、現金での少額投資も選択肢
今後も日銀は長期金利の変動幅の拡大や撤廃といった金融緩和の修正を続けていくだろう。場合によっては、より直接的に変動金利に影響する短期金利の引き上げに動くこともありつつ。いずれにしろ、不動産投資のローン金利負担は重くなっていく時代になりつつある。
では、不動産投資家はどんな行動をとればいいのだろうか。
一つ目は、金利が本格的に上がり始める前に、なるべく早くローンを組むことだ。
二つ目は、返済負担を少なくするため、物件購入にあたっては借り入れを抑え、可能な限り現金の自己資金を投入することだ。
三つめは、借り入れの必要な高額物件には手を出さず、手持ちの現金だけで買える築古の戸建て物件などへシフトすることだ。
慎重に行動しなければ、大きな経済的打撃をこうむりかねない日銀の金融緩和修正。損しないよう、その動向を注視し、賢い投資行動をとっていきたい。
取材・文:
(おだぎりたかし)