新型コロナウイルス感染拡大による政府支援を受けて企業の倒産件数は減っている。政府は、資金繰り支援(政策金融)等として、日本政策金融公庫等による実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)制度の融資枠の拡大や、中堅・大企業向けにも危機対応融資の融資枠拡充、資本性のある劣後ローンの創設などで対応した。
このため、不動産関連では競売に掛けられる件数が減少しているが、「おそらくコロナがなくても売り上げが立たなかった事業者までも生き残ってしまっている」との指摘は不動産関係者の中で多く聞かれる。
ある地場不動産事業者は、「私のところに銀行からゼロゼロ融資の話を持ち掛けてきた。私自身は売り上げが落ちているわけではないのだが、『3年間無利子なので借りておいた方がお得ですよ』と銀行の担当者が話した」と語った。
ゼロゼロ融資では金融機関のリスクもゼロだ。利子分は国が保証し、融資が焦げ付いたところで信用保証協会から弁済されるため、他の案件に融資するより確実に利益を確保できる。「同協会の弁済資金の出所が税金であることを踏まえると、貸し手の銀行にモラルハザードの行き過ぎがあった」と指摘する。

速ければ2022年から返済スタート
このゼロゼロ融資は、日本政策金融公庫などの政府系の金融機関が手掛けていたが、申し込みが殺到したことで民間金融機関も融資できるようにしたものである。
時限立法で政府系金融機関は2021年12月末まで中小企業の資金繰り支援として実施し、民間の金融機関は2021年3月末で受付を終了した。
東京商工リサーチによると、2020年度の企業倒産は7163件と30年ぶりに8000件を下回っており、これら資金繰り支援によるものだと見ている。
個人事業主も対象であり、新型コロナウイルス感染症特別貸付として融資枠8000万円、このうち最大6000万円が実質無利子として貸し出された。
これで借りたお金の用途は運転資金と設備投資である。貸付期間は設備資金が20年以内、運転資金が15年以内となっている。要件としては、「新型コロナウイルス感染症の影響により、最近1ヶ月間の売上高が前3年のいずれかの年の同期と比較して一定程度減少すること」とされた。要件を満たせば利子補給を通じて当初3年間、実質無利子・無担保融資を受けられる。
この制度を活用した中小企業と個人事業主も多いと思われるが、これから返済時期が待っていることを忘れてはならない。早ければ2022年から返済(利子を含む)が始まる。
国民1人当たり10万円の支給などの給付金ではなく、あくまで借金で返済する義務がある。返済開始時期を待ってもらう据置期間が最長で5年間あるものの、それまでに事業を正常な軌道に乗せることができるかがカギだ。軌道に乗せられなければ返済できずに破綻に追い込まれる公算が大きくなる。
「貰えるだけ貰っておけ」返済困難か
前述したように借りたお金の用途は「設備資金および運転資金」であるが、経営に差し迫ったものがない中小事業者でもゼロゼロ融資の条件は魅力的で、事情通は「前年同月比の売り上げを減らすなど調整は比較的に簡単だ」とする。安心材料として、貰えるだけ貰っておくという例は珍しくないようだ。
また、個人不動産投資家が投資物件を購入することを目的に融資を受けた例もある。当然ながら融資申し込みの際に「不動産を買うためです」などと言えないので自営業の売上高が減っていることを理由に借りている。
ある個人の不動産投資家は「2000万円ほどコロナ融資を受けたが使わず口座にそのまま眠ったままです。なにも不動産買わないまま返済が始まってしまう。購入していれば物件の賃料から返済できたのに、返済だけが始まってしまう」ということに今年になってハッと気づいたという。
このように借りた資金に手を付けずに預金的にそのまま銀行に寝かせたままならば心配はないが、使ってしまっていればどうなるのか。
本業の業績に問題がなければ返済もできようが、業績が振るわないままで保有資産を手放して返済に充当したり、それもままならずに返済のために別から借り入れるという本末転倒なことになれば倒産という憂き目にあう公算は大きい。
コロナ融資の返済開始という号砲は、歯車が逆回転を始めて倒産が増えるサインとも受け取れる。不良債権化した不動産が出回る時期はそう遠くないかもしれない。
健美家編集部(協力:
(わかまつのぶとし))