「国土形成計画」の目玉 2023年半ばに閣議決定
人口減少などの課題をデジタル技術で解決
国土交通省が、今後10年の国土づくりのめやすとなる「第3次国土形成計画」の策定をすすめている。目玉となるのは、デジタル技術を活用し、医療や福祉、教育、交通といった、暮らしに必要な機能をそろえた、コンパクトな「地域生活圏」を作り出すことだ。人口の減少を見すえ、人口10万人ほどを念頭においている。
簡単にいえば、人口が減った地域でもデジタル技術をつかって暮らしの基盤を維持できるようにするという考え方だ。
生活の利便性が高まることで人が集まる可能性があり、これまでの常識では賃貸需要の生まれなかった地域でも賃貸需要が生まれる公算が大きい。今後の議論の行方から目を離せない。
政府は、「地域生活圏」の制度に関する議論などを国土審議会の部会で進める考えだ。2023年なかばに閣議決定し、具体的に制度化することを目指している。
「地域生活圏」について、国交省は「地域の関係者がデジタルを活用してみずからデザインする地域」と表現する。
地方は人口の減少といった課題を多く抱えているが、デジタル技術をつかってそれぞれの地域の課題を解決し、暮らしの基盤が成り立つようにしていくことをめざす。
その結果、「人々は自分が住みたい地域で健康で文化的な生活を維持しつづけることができるようになる」「全国のさまざまな地域で人々が安心して暮らし続けられる」とする。
いまの地方都市のように、さまざまなサービスの利便性が下がってどんどん人が流出していくという悪循環も食い止められると考えている。
「地域生活圏」を作り上げるにあたっては、これまでの市や町や村どうしの境界にはとらわれないとする。目安となる人口の規模は「10万人」だ。
「5G」を完備、自動運転などの交通手段も普及
「スマート農林水産業」「テレワーク」も可能に
そして、「地域生活圏」を実現するための取り組みに欠かせない要素として、①官民で共につくり上げる②デジタルを徹底的に活用する③生活者や事業者の利便を最適なものにする④横串の発想で考える、の4つをあげた。
具体的に想定されている取り組みの例は、たとえ次のようなものだ。
●大都市と同じように、第5世代(5G)移動通信システムをはじめとした「デジタルインフラ」を確保する
●官民や交通事業者のあいだで、ほかの分野との垣根をこえた「共創」を通じて地域交通をデザインしなおし、住民が移動する手段を確保していく
●自動運転を実際に備えていったり普及させていったりするために必要な都市や地域の構造をつくって実現していく
●デジタルを普及させたり、海外展開をあとおししたり、ロボットなどをつかった「スマート農林水産業」をひろげたりすることで、地域の産業の「稼ぐ力」を強くする
●テレワークによる多様な暮らし方や働き方を実現していく
なお、「地域生活圏」の考え方は、岸田文雄政権が看板の政策として掲げている「デジタル田園都市国家構想」を形にするものでもある。
この構想は、デジタル技術をつかって地方の社会や経済を発展させ、都会との格差をなくすことに主眼がある。
遠隔診療など可能 リアルな商業施設や医療・福祉施設集まる
地方の魅力が高まり賃貸需要が拡大、所有物件の価格上昇も
さて、「地域生活圏」の構想が進めば、不動産投資家にとって、どんなメリットがあるのだろか。
大きいのは、地方の魅力が高まって人や仕事が集まり、これまで人口減少などで賃貸需要がなかった地域にも賃貸需要が生まれることだ。
5Gが完備され、自動運転も含めた交通手段がそろい、通信や移動に困ることはない。ITの普及で遠隔医療も可能になるし、サラリーマンもフリーランスも、在宅勤務をふくむテレワークをしやすい環境が整備される。
雇用を生み出す企業や、病院、福祉施設、スーパー、レストランといった「リアル」の施設もそろうことになる。
単位とされる人口は10万人とコンパクトなので、「地域生活圏」に指定されるエリアは全国に少なからず生まれることになる。すでに所有している物件が「地域生活圏」の中に入れば価格が上がる可能性があり、売却してキャピタルゲインを得るチャンスも生まれることになる。
もちろん、その地域に賃貸需要が高まれば入居者を集めることに苦労しなくなるし、家賃を上げることも可能になるだろう。
不動産投資家にとってはチャンスの広がることは間違いない「地域生活圏」構想。流れに乗り遅れないよう、しっかりアンテナを張っていきたい。
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取材・文:
(おだぎりたかし)