2021年7月に発生、社会に衝撃を与えた静岡県熱海市伊豆山の土石流から1年余。被害の大きさに国は迅速に動いた。
危険な盛り土の規制を強化する改正宅地造成等規制法(通称・盛り土規制法)が5月に成立したのである。2023年5月頃には施行となる見込みだ。それで何が変わるのか、また、危険な盛り土地域を知り、避けるためにはどうすれば良いかをまとめた。
危険な盛り土に関して全国一律の規制
これまで盛り土は宅地造成等規制法、森林法、農地法、自治体の条例などで規制されており、法令によって対象となる区域や規模などに大きな違いがあった。
静岡県熱海市で起きた土石流は規制の隙間をついて行われた盛り土のひとつとされ、こうした盛り土を防ぐためには規制を全国一律にする必要がある。
それが今回の宅地造成等規制法の抜本的な改正に繋がった。新しい法律は宅地造成及び特定盛土等規制法で、土地の用途にかかわらず、危険な盛土等を包括的に規制するとしている。
以下、簡単に概要をご紹介しよう。
例外なく規制、どの用途でも許可が必要
大きな特徴は隙間のない規制。都道府県知事等が、宅地、農地、森林等の土地の用途にかかわらず、盛土等により人家等に被害を及ぼしうる区域を規制区域として指定、農地・森林の造成や土石の一時的な堆積も含め、規制区域内で行う盛土等を許可の対象とすることとなっている。これまでは土地の用途で異なっていた規制に例外を作らないことになったわけである。
安全性の確保については盛土等を行うエリアの地形・地質等に応じて、災害防止のために必要な許可基準を設定。許可基準に沿って安全対策が行われているかどうかを確認するため、①施工状況の定期報告、②施工中の中間検査及び③工事完了時の完了検査を実施することとなった。
責任の明確化に加えて罰則も強化
また、熱海の件では起点となった土地の前所有者である不動産管理会社がすでに清算されており、責任がないと主張しているが、改正法では責任の所在の明確化も行われている。
具体的には盛土等が行われた土地について土地所有者等が安全な状態に維持する責務を有することを明確化、災害防止のため必要なときは、土地所有者等だけでなく、原因行為者に対しても、是正措置等を命令できることとするなどが盛り込まれている。
そして、こうした規制に実効性を持たせるべく、条例による上限(懲役2年以下、罰金100万円以下)よりも高い水準の罰則を科すものとしている。報道によれば無許可造成などをした法人には最高3億円の罰金を科すとも。
既存盛土への対策は3段階で進む
さて、責任が明確になり、罰則もできるとなれば今後、新たに危険な盛り土が造成される懸念は減るわけだが、既存の盛り土についてはどうなっているのか。国は3段階で安全対策を考えている。
その第一段階が大規模盛土造成地の抽出で、これを国は第一次スクリーニングと呼んでいる。これについては当初、なかなか進展が見られなかったが、2020年3月には全国の大規模盛土造成地マップが作成され、公開されている。それによると全国999市区町村に該当する地域があり、数としては約5万1000箇所。
土地の安全性を考える際にはまず、これを参考にすれば良いということになる。では、具体的にはどうすれば良いか。見ていただきたいのは国土交通省のハザードマップポータルサイト。
ここでまずは「地図を見る」をクリック。次の画面の左に出て来る「すべての情報から選択」をクリック、そこに出て来る「土地の特徴・成り立ち」を選択すると「大規模盛土造成地」が表出される。それをクリックすると日本地図上に大規模盛土造成地が黒くあらわされた地図が出て来るので、そこから見たい地域にズームして見れば良い。
盛土とされる地域をクリックすると盛土区分が出て来るが、それについては大規模盛土造成マップの解説からご覧いただきたい。
注意したいのはこのマップは大規模地震発生時において滑動崩落等の被害が発生した盛土造成地の実態を踏まえて安全性を確認すべき盛土を示したものであること。ここに記載されているからといっても直ちに危険性のある盛土造成地というわけではないのだ。
自治体によって対策には温度差
国の対策では続いて造成年代調査、現地踏査などを踏まえて安全性の把握に至る第二段階、さらには地震時の盛土の地滑り的崩落・変形を防止するための地下水除去、盛土の滑動抑止杭、擁壁の補強等の工事を実施する第三段階を想定しており、現状は多くの自治体が第二段階に着手しているところ。
国交省の資料によれば現地踏査等までは約半数の自治体が着手しているものの、安全性把握に至っている自治体は少なく、滑動崩落防止工事を行っている自治体はわずかに3地区。まだまだこれからの作業が多い施策なのである。
また、自治体によってかなりの温度差もある。岩手県、秋田県、栃木県や富山県、岐阜県、滋賀県その他のように現地調査等に100%着手しているという自治体もあれば、沖縄県、大分県、高知県、山口県、奈良県のように0%という自治体も。
それぞれの自治体によって危険地域の数や分布等、優先施策の考え方などに違いがあることを考えると一律には進まないであろうが、住の安全性を考えるのであればこのあたりの自治体の姿勢も気にしたいところである。
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健美家編集部(協力:
(なかがわひろこ))