
これまで必要だった2年以上の実務経験など不要に
国交省令を2025年度に改正して規制緩和へ
政府が、住宅に旅行者などを泊まらせる「民泊」の運営事業に参入する要件を緩和する方針を固めた。具体的には、これまで必要とされてきた資格や実務経験などを不要とし、「通信講座20時間+講義7時間」の講習を受ければ良いとする。
新型コロナウイルス禍が和らぎ、インバウンド(訪日外国人客)が増えることを見越した措置だ。より手軽に民泊事業に参入することが可能になるので、不動産投資戦略の新しい選択肢に加えてみてはいかがだろうか。
政府は2025年度に国土交通省令を改正して規制を緩和する考えだ。

現在、民泊運営を受託するためには、「住宅宿泊管理業者」として国土交通省に登録しなければならない。そのための要件は、国交省令で次のように定められている。
一つは、不動産に関する業務に2年以上、従事した経験があることだ。
この場合の業務とは、住宅の取引や管理についての契約に関する、「依頼者との調整「契約についての事項の説明」「書面の作成や交付」といった仕事をさす。
そして、2年以上の実務経験がなくても、「宅地建物取引士」「マンションの管理業務主任者」「賃貸不動産経営管理士」のいずれかの免許または登録があれば、やはり民泊運営に乗り出すことができるとされている。
ただ、これらはかなりハードルが高い条件で、民泊運営への参入がなかなか加速しない原因とされてきた。
このため政府はこうした要件を撤廃し、講習で不動産に関する知識などをマスターすれば、民泊運営に乗り出せるようにすることとした。
講習で学ぶのは法律の趣旨や業者の役割、書面作成など
国交省が夏にも講習する機関を募集へ
そして3月7日、国交省は関係団体との協議をへて具体的な制度の内容を決め、発表した。講習には、先に通信講座20時間、その後に講義7時間を受け、修了試験に合格すれば参入できることにした。

学ぶ内容は「住宅宿泊事業法の趣旨」「住宅宿泊管理業者の役割・義務」「管理受託契約や書面の作成に関する事柄」についてだ。
講習は、国に登録した機関がおこなう。国交省は7、8月ごろには、講習をおこなう機関の募集を始めたい考えだ。

国交省がこうした取り組みに乗り出す背景には、これからインバウンドが本格的に回復し、とくに地方において、民泊の担い手が足りなくなることが予想されるからだ。
1月のインバウンドは149.7万人、コロナ前の56%に回復
最多は韓国、水際緩和で今後は中国拡大の可能性
日本政府観光局(JNTO)の発表した今年1月の訪日客数は149万7300人で、コロナ禍前の19年1月の55.7%まで回復した。順調にいけば、今年のインバウンドの数は2000万人を超えることも視野に入る。

旧正月の影響もあって、1月は東アジアからの訪日客がとくに多かった。国・地域別でもっとも多かったのは韓国で56万5200人。続いて台湾が25万9300人、香港が15万1900人。中国からは3万1200人、米国からは8万8100人だった。
日本政府は3月から、中国からの入国者への水際対策を緩和しており、今後は、ますます中国からの訪日客は増える可能性が高い。
国交省の資料によれば、昨年9月時点での民泊管理業者の登録者数は2469。しかし、多くが東京、大阪、福岡などの都市部に集中しており、地方は少ない。今後、せっかく日本の地方に来たいという訪日客がいても、民泊施設がなければ、その地方に来ることをあきらめてしまうかもしれない。
地方の民泊については、昨年12月の国交省と関連業界との意見交換会で「地方部で空き家を民泊施設として利活用する場合、委託先の住宅宿泊管理業者(民泊管理業者)が見つからず事業ができない声を聞いてきた。今回の規制緩和を通じて少しでも地方の空き家問題が解消される方向に向かえば良い」という声も出ている。
コロナ禍で旅行ができないフラストレーションがたまった訪日客は、今後、よりどん欲に日本国各地を旅しようと前向きになるだろう。空き家を改造するなどした地方での民泊業務はチャンスが広がるといえるので、不動産投資家はそのチャンスを逃さないよう、賢く戦略を練っていきたい。
取材・文:
(おだぎりたかし)