東京都は長年、街の防災性を高めるための事業を続けてきているが、既存の防災再開発地区に新たに20カ所を新規指定する方針で、2021年秋に資料の縦覧、公聴会等を開催した。
防災再開発促進地区とは「密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律(密集法)」で定めれているもので、具体的には防災的に危険な状態にある、老朽建築物が多くて道路整備が遅れている密集市街地で、特に一体的かつ総合的な市街地の再開発を促進すべき地区のことを意味する。
指定された地区では防災機能の確保及び土地の合理的かつ健全な利用が図られるように再生が進められるものとされており、東京都の場合、阪神・淡路大震災後の平成11年度に19地区を防災再開発促進地区に指定、その後も平成12年度、13年度、16年度、20年度と指定が続けられてきた。
その後、しばらく新規指定が無かったものの、14年ぶりに2021年秋に防災街区整備方針の変更原案の縦覧を東京都庁などで開始した。2021年3月に改定した都の街づくりの上位計画「都市計画区域マスタープラン」の内容を踏まえ、地域の事業の動向などを各区からヒアリング。防災再開発促進地区と同時に防災公共施設(整備すべき道路や公園など)の指定カ所も見直す方針で、公聴会(すでに終了)、都の都市計画審議会などを経て変更を決定する予定だ。
指定された地区は今後、防災を念頭に整備が進むはずで、安全で安心、住みやすい街になっていくはず。では、具体的にどこが指定されるか。以下の20カ所である。
●世田谷区
下高井戸駅周辺(42.7ha) 駅前には闇市由来の駅前広場、活気のある商店街が広がる下高井戸は京王線、東急世田谷線の駅が並んで立地。京王線の踏切が街を分断していることもあり、同線の笹塚から仙川手前までの7キロほどは今後高架化される予定となっており、防災再開発促進地区指定には連続立体交差事業と合わせて街づくりを進めるという意図があるように思われる。鉄道高架化には時間がかかるが、今後、大きく変わるエリアのひとつと言えそうである。
明大前駅周辺(70.2ha) 京王線の下高井戸駅の一駅都心寄りの駅で、京王井の頭線との交差駅でもあるが、駅周辺は非常にコンパクトで路地も多く残されている。明治大学和泉キャンパスの最寄り駅でもあり、乗降客数を考えると周辺も含めてゆとりのある街づくりが望まれるところである。
玉川三丁目(8.3ha) 東急田園都市線・同大井町線の二子玉川駅の玉川高島屋ショッピングセンターの裏手から多摩川にかけてのエリアで、2019年の台風19号で被害を受けた地域なども含む。通り沿だけ見ていると災害には縁がなさそうだが、裏手も含めて安全な街をということだろう。
千歳船橋駅周辺(14.7ha) 小田急線千歳船橋駅周辺は賑やかな商店街が名物。だが、一方で道路は細く、駐輪も多いため、災害時を考えると交通整理が必要でもある。
祖師ケ谷大蔵駅周辺(28.3ha) 小田急線千歳船橋駅の隣が祖師谷大蔵駅。こちらもウルトラマンをキャラクターにした商店街がよく知られているが、事情は千歳船橋に似たところがある。また、千歳船橋、祖師谷大蔵周辺は避難場所となるまとまった敷地のある公園から遠いこともあり、そのあたりも考えるべきポイントではないかと思われる。
大蔵(21.7ha) 砧公園を取り囲む一画で小田急線祖師ヶ谷大蔵駅と東急田園都市線の用賀駅のちょうど間くらいに位置するエリア。大蔵運動公園、国立成育医療研究センターなど大きな区画が多い一方で一部には災害時に逃げにくい場所もあるという想定と思われる。
●杉並区
方南一丁目(33.6ha) 東京メトロ丸の内線方南町駅から神田川を超えた方南一丁目は東京都の地域危険度で見ると総合ランクが危険度がもっとも高いとされる5と評価されており、木造住宅、細街路のある逃げにくい地域。古くから開発されてきた小規模一戸建ての多い地域で高齢化も進んでおり、早急な整備が必要と推察される。
●板橋区
清水町・蓮沼町周辺(55.7ha) 都営三田線本蓮沼駅の東側に広がるのが清水町、蓮沼町。板橋区では前述の危険度評価は多くのところで安全を示す1が増えているのだが、この地域はいずれも3。今後は区内の不安要素を少しずつ解消していくという計画というわけだ。
●練馬区
桜台(50.6ha) 練馬区では都心に近く、古くから開発された地域が中心に指定がされている。桜台の場合、二丁目が危険度評価が4と区内でも高く、その解消が目指されている。古いアパートなども多い地域のため、更新が急がれるとも言える。
田柄(87.2ha) 東武東上線下赤塚駅から南側に広がるエリアで細街路、一方通行や袋小路が多い点が整備の対象となってものと思われる。低層の一戸建ての多い地域で高齢化も進んでおり、住んでいる人たちのことを考えると避難しやすい街とすることが急がれる。
富士見台駅南側(44.2ha) 駅前から広い範囲に渡って小規模な木造アパートなどが点在するエリアであり、駅前整備も必要と思われる。
下石神井(60.2ha) 西武新宿線上井草駅の北側(駅自体は杉並区)に広がるエリアで、危険度評価では2ないし3だが、練馬区内では珍しく石神井川沿いの低地でもあり、長い目で見ると整備を進めておきたいということだろうか。ちなみに隣接する上石神井では石神井団地の建て替えが話題になっている。
●足立区
千住西(60.8ha) 北千住駅東西周辺(118.6ha) 足立区での重点エリアのひとつは北千住駅周辺。近年大学の増加などでイメージが変わり、選ばれる街になりつつあるが、幹線道路を離れると細街路も古い木造住宅も多く、防災面ではまだまだ変化が必要。街の魅力を維持しつつ、安全を考えていく姿勢が求められることになるだろう。
梅田・関原・本木・興野(293.6ha) 東武伊勢崎線の西新井駅から梅島駅にかけての広いエリアで、昔ながらの商店街に低層の住宅街が残る。2000年くらいから2010年前後にかけて西新井駅西口は大規模な再開発が行われて街が一新されたが、その裏手から周辺のエリアと言えば分かりやすいだろう。高齢化ともに商店街、住宅街の建物も老朽化しており、対策が急がれる。
補助264号線沿道(10.9ha)補助109号線沿道(14ha) 地図からすると首都高速6号線沿い、東武伊勢崎線竹ノ塚駅周辺。今の時点では詳細不明。
中川二・三丁目(26.6ha) 常磐線亀有駅の北側、地名の通り、中川沿いの低地で災害危険度が4、5という丁目もあり、地形的に危険な上に建物倒壊の危険なども高く、緊急性を要する地域のひとつ。
●葛飾区
西新小岩五丁目(22.3ha) 総武本線新小岩駅の北側で西新小岩五丁目は中川に囲まれた形になった場所。地震対策だけでなく、水害対策も含め、様々な災害対策が必要そうである。
●江戸川区
南小岩南部(87.8ha) 総武線小岩駅の南側の地域で地域危険度が4という丁目があり、周辺から見ても優先して対策を打つ必要がある地域。元々、農地だった場所に道路を新設、アパートや一戸建てを配してきたため、行き止まりの道路などが多いのである。
以上、候補に挙がっている20カ所を解説した。現時点では防災的に問題があるとされているが、これから良くなる地域とも言えるわけである。
健美家編集部(協力:中川寛子)