
国交省有識者会議が中間報告、「変動制」「協議制」が柱
認可制でこれまで値上げ困難も、コロナ禍などで情勢変化
鉄道料金のあり方が大きく変わりそうだ。国土交通省の有識者会議は7月にまとめた中間報告で、混雑時に運賃を高くし空いているときは安くする「変動運賃制」と、地元の同意があれば国が示す上限を超えて運賃を高くできる「協議運賃制」を導入すべきだとした。
国交省はその方向で制度改正の検討を進める。鉄道運賃のあり方の変化は沿線に人がどう住むかの傾向を変えるので、不動産投資家も情報をチェックし、みずからの戦略に役立てていきたい。
まず、基本知識として鉄道運賃の仕組みを解説しよう。
いまの鉄道運賃は、規制によって、鉄道会社が自由に値上げできないようになっている。同じ路線を走る競争相手がいないのをいいことに、鉄道会社が不当に値上げするのを避けるためだ。
具体的には国が上限を決めており、鉄道会社は基本的に、この上限いっぱいの運賃を設定している。上限を超えて値上げするには国の認可が必要だが、今後3年間で赤字が見込まれなければならないなど条件が厳しく面倒くさい。このため、鉄道会社はこれまでなかなか値上げに踏み切れなかった。
しかし、最近は鉄道を取り巻く環境が変わってきており、「もっと柔軟に値上げできるよう制度を変えるべきだ」との声が上がっている。
環境の変化とは、具体的には人口の減少であったり、新型コロナウイルスの感染拡大で人流が止まり乗客が激減してしたりしたことだ。
とくにコロナの影響は大きく、鉄道各社の業績は大打撃を受けた。コロナが収まったとしても、テレワークが一般的になったことなどで、コロナ前の水準には戻らないとみられている。
「変動運賃制」は混雑時に高くすることで乗客を平準化
英、ドイツなどではすでに導入、JR東も個別に取り組み
そこで、国交省の有識者会議などで新たな鉄道運賃制度のあり方の議論を進めてきた。
7月26日に有識者会議は打ち出した制度は、大きく次の2通りだ。実現すれば、鉄道運賃に関する制度の改正は1997年以来となる。
1つ目は、都市部の鉄道を念頭にした「変動運賃制」。英語では「ダイナミックプライシング」という。

時間帯、曜日、シーズンなどによって、鉄道運賃を高くしたりするというものだ。特定のタイミングに乗客が集中しラッシュになる事態を回避し、乗客の平準化をはかることができる。
値上げと値下げの組み合わせで収入が増えないようにしなければならないが、ピーク時にあわせて車両や乗務員を増やしたりしなくてすむので、中長期的にみて、コスト削減につながるとみられている。
英国、ドイツなど諸外国ではすでに同じような鉄道運賃制度が導入されており、日本でも不可能ではないだろう。
すでに個別の鉄道会社では、ダイナミックプライシングに似た独自の取り組みが始まっている。
JR東日本は来年春から、平日朝のラッシュ時間帯には使えないが価格を安くした通勤用の「オフピーク定期券」を導入する考えだ。一方で通常の通勤定期は割高にする。
「協議運賃制」は住民の同意で国の上限超え値上げ可能に
値上げ額が大きければ引っ越して住む人は減る?
2つ目は、地方を念頭に置いた「協議運賃制」だ。住民の同意があれば、鉄道会社は国に届け出るだけで、国の示した上限運賃を超えて値上げできるようにする。
ただし、鉄道会社は協議会を開くなどして、確実に地元の同意を得る必要がある。
実は、近畿日本鉄道が現行の制度の下、来年4月から運賃を平均17%値上げする認可を国に申請しているが、沿線の奈良県・荒井正吾知事が猛反発しており、関西ではちょっとしたニュースになっている。運賃値上げを進めるためには、いかに住民への丁寧な説明が必要かの証拠といえる。
国交省は中間報告を踏まえ、必要な法改正などを検討していく方針だ。

不動産投資家は、鉄道運賃のありかたの変化にあわせ、物件購入への考え方を改めていかなければならないだろう。
たとえば、ダイナミックプライシングの導入によってオフピーク通勤が一般的になれば、通勤者は朝ゆっくりの出社でよくなるから、勤務先に近い場所に住む必要がなくなるかもしれない。この結果、郊外へ住みたいと思う人が増えるだろう。
一方、地方では、いくら住民の合意を得たからとはいえ、鉄道運賃が大きく値上がりしたら、新たにその地域へ引っ越して住みたいと思う人は減る可能性がある。
国の動きを細かくチェックしながら、おのその、どのような投資戦略が最適になってくるのか、しっかり考えていきたい。
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取材・文:
(おだぎりたかし)