家を売却後も賃料払って入居続ける
老後資金を得る方法として人気
政府は2020年度中にも、自宅を売った後も家賃を払って住み続けられる手法「リースバック」について、適切な価格のあり方などに関するガイドライン(指針)をまとめる方向だ。リースバックは、自宅をいかして老後のお金を手に入れる方法として注目が集まっており、政府はルールを整備して市場≠より正常なものにしたい考えだ。
市場がしっかりすればリースバック物件を扱う業者が増える可能性がある。投資家にとっても、入居者を探さなくていいなどのメリットがある、有望な投資先となりそうだ。

政府は昨年12月に閣議決定した20年度予算案に、空き家対策として、戸建て住宅の利用や活用を促す事業の費用3000万円を計上した。ガイドライン作りに必要な費用は、この中から捻出するという。
そもそもリースバックとは、どんなものなのか。
「セール・アンド・リースバック」(賃貸借契約付き売却)とも呼ばれる手法で、家の所有者がその家を不動産会社や投資家に売った後も、売却先と賃貸借契約を結び、賃料(リース料)を支払いながら同じ家に住み続けられるというものだ。
所有者としては、次のようなメリットがある。まず、まとまった売却金額を短時間で手に入れることができる上に、長年なじんだ環境を変えることなく住み続けられる。
同じ家に住み続けるので、家を売ったことが近所にばれないし、後でお金を払って、家を買い戻すことも可能になる。
リースバックは、老後資金を手に入れる方法として、とくに持ち家率が80%を超える高齢者の間で人気が高まっているという。高齢者でなくても、病気になったとき急に必要になった医療費や、子供の学費の捻出などに役立つと評価されている。
トラブルも報告、要注意
住宅ローン残債多ければ使えず
ただ、メリットばかりではなくデメリットもあり、トラブルが報告されている。
まず、自宅の評価額が住宅ローンの残債を上回っていなければ、基本的にリースバックは使えない。所有者が自宅を売って得たお金をあてても住宅ローンが残っているなら、住宅ローンの返済と賃料の支払いの二重払い≠ニなり、当然、経済的に破綻し、賃料を払って住み続けるどころではなくなる。
自宅の評価額が住宅ローンの残債を下回っている場合は、業者の審査を通らず、リースバックは使えないと考えていいだろう。
また、業者や投資家による住宅の買取価格が、通常の市場価格より安く、トラブルになるケースがある。
業者としては、「もとの所有者を住まわせ続けなければならない」「将来、買い戻しに応じなければならない」といった制限がかかるため買取価格を安くせざるをえないのだが、もとの所有者の中には、「市場で売れば、もっと高かったはずだ」とのクレームをつける人もいるのだという。
住み続けながら支払う月々の家賃が高いというクレームもある。
先ほど説明したように、業者は「もとの所有者を住まわせ続けなければならない」といった制限がかかるため、高い利回り(=家賃)を設定せざるをえなくなる。
元の所有者の中には、月々の支払いが苦しくなり、結局、家賃の安い、ほかの物件に引っ越す人もいるのだ。

利回り高く、空室の心配も少ない
売却資金を新たな投資の原資に
こうした状況を正すため政府はガイドラインをつくり、リースバック市場≠正常化したい考えだ。
ガイドラインによって、買い取る価格や賃料などの決め方について当事者が共通の考え方をもつことや、契約書に分かりやすく示すことなどを促すという。
ガイドラインにもとづいた取引が広がり、リースバック市場が正常化して物件を扱う業者が増えれば、不動産投資家にもチャンスが増えそうだ。すでに投資家へリースバック物件を紹介している業者もあり、インターネットで検索すれば簡単にみつけられる。
投資家にとってのメリットは以下のようなものだ。
一つは、もともと入居者が住んでいるので、わざわざ新たに入居者を探さなくていいということだ。高いコストをかけて、入居者を募集する手間が省ける。また、入居者は長期にわたって住む考えなので、簡単には退去しない。不動産経営で最大の悩みの一つである「空室」を、ほとんど心配する必要がなくなるのだ。

このほか、賃料が高めに設定されているので、高い利回りが期待できる。中には、10%以上の利回りを期待できるとする業者もいる。
一方、住宅ローンを組んで買った自宅に住んでいる投資家なら、自宅をリースバックで売却して新たな物件の購入資金を手に入れたり、自分の属性を高めたりすることに役立てられるだろう。
政府がまとめるガイドラインを守り、しっかりした契約を結べば、投資家の立場は守られる。投資手法の新たな選択肢になりうるリースバックをめぐる動向に、これからも注目していきたい。
取材・文 小田切隆
【プロフィール】 経済ジャーナリスト。長年、政府機関や中央省庁、民間企業など、幅広い分野で取材に携わる。ニュースサイト「マネー現代」(講談社)、経済誌「月刊経理ウーマン」(研修出版)「近代セールス」(近代セールス社)などで記事を執筆・連載。