「相続土地国庫帰属制度」、スタートは2023年4月27日
遺贈された土地も対象 申請し法務大臣が承認
相続土地をめぐる動きが急加速している。政府は9月下旬、国に申請し、原則20万円を支払えば、相続土地の所有権を放棄し国庫に納められるとする新法の詳細を定めた施行令を閣議決定した。
この新しい制度がスタートするのは、2023年4月27日からとなる。相続が放棄された土地が市場に出てくることは不動産投資家にとりチャンス。
しかし、少額の負担金で土地が国庫に入るようになれば、市場に出てくるチャンスが減ることになる。土地を相続する人へ売却を働きかけをする場合は、確実に売却してもらえるよう注意が必要だ。
新しく作られる制度は「相続土地国庫帰属制度」。簡単にいうと、「土地を相続したり、遺贈してもらったりした人がその土地を要らない場合、国が引き取りましょう」という制度だ。
政府は今年9月26日、その制度を定めた新法の、さらに詳細を決めた施行令を閣議決定した。
相続したり遺贈を受けたりした土地の所有権を手放すことを申請し、法務大臣の審査と承認を経れば、その土地を国に帰属させるというものだ。
負担金 宅地、田畑は原則20万円 ただし例外も
隣接する2筆の土地を1筆扱い20万円とできるケースあり
土地を国庫に納めるさいには、負担金を支払う必要がある。具体的な金額は次の通りだ。
まず、「宅地」に関しては、原則、面積にかかわらず1筆20万円。
ただし、一部の市街地(都市計画法の市街化区域、または用途地域が指定されているエリア)は、面積に応じて計算する。たとえば、100平方メートル約55万円、200平方メートル約80万円・・・などだ。
「田畑」についても、やはり面積にかかわらず1筆20万円としている。
こちらも例外があり、宅地と同じ一部の市街地や、農用地区域の田、畑については、面積に応じて計算する。
「森林」は面積に応じて計算する。
「原野」や、宅地、田、畑、山林、原野などにあてはまらない、露天の駐車場や資材置き場といった「雑種地」などは、面積にかかわらず1筆20万円となる。
ただし、宅地などは、2筆以上の隣接している土地であれば、法務大臣に申請して1筆あつかいにしてもらうことが可能だ。これは、制度を利用する人の負担を軽くすることをねらっている。
たとえば、市街化区域外の宅地についてかんがえてみる。100平方メートルの土地が2つ隣接していて、その両方を相続し、国に引き取ってもらいたい場合、ふつうなら20万円×2=40万円を支払わけなければならない。
しかし、1筆あつかいになれば、100平方メートル×2=200平方メートルの土地が1筆という数えかたになり、支払うお金は20万円でよくなる。
ただし、次のような場合は国に引き取ってもらえないので注意が必要だ。
① 建物が立っている土地
② 担保権や使用収益権が設定されている土地
③ 他人が利用することが予定されている土地・・・墓地、お寺の境内などのための土地、現に通路、ため池などに使われている土地のこと
④ 土壌汚染されている土地
⑤ 境界が明らかでない土地、所有権があるかないかや範囲について争いがある土地
⑥ 一定の勾配・高さの崖があって、管理するのにに過分な費用・労力がかかる土地・・・崖の基準は「勾配が30度以上」かつ「高さが5メートル以上」
⑦ 土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地
⑧ 土地の管理・処分のため取り除かなければならない有体物が地下にある土地
⑨ 隣接する土地の所有者などとの争訟によらなければ管理・処分ができない土地・・・隣接地の所有者によって通行が邪魔されている土地など
⑩ そのほか、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地・・・土砂の崩落や地割れといった災害による被害の発生を防ぐため、土地の現状を変える措置を講じなければならない土地のこと
制度の背景には土地を放棄したい人の増加 不明土地防止も狙い
相続登記の義務化などもあり相続放棄土地に注目集まるか
政府がこのような制度をはじめる背景には、次の2つがある。
まず、土地を利用する必要や意欲がないにもかかわらず土地を相続してしまい、その土地を手放したい人が増えていること。
2つ目に、相続によって土地を望まず取得した所有者は負担感が強く、管理が十分に行われていない実態があることだ。
こうした人たちから国が土地を「買い取る」ことによって、大きな社会問題となっている「所有者不明土地」が将来的に増えていくのを食い止めようという目的がある。
土地の相続放棄が増えることは、そもそも不動産投資家にとってチャンスでもある。土地を安くで仕入れる機会が増えるし、賃貸に回せば、高い「利回り」を見込めるからだ。
もちろん、手を加えて土地の価値を高め、高値で売却して差益を狙う方法もある。
しかし、相続放棄した土地を安い負担金で国庫に土地を納めることができるようになれば、わずらわしく複雑な手続きを経て買い手を探し売るよりも、国庫に納めてしまおうと考える相続人が増える可能性がある。
不動産投資家からみれば、かりにだれかが相続した土地を、みずからの不動産投資用の物件として買い取りたいと考えたとしても、国庫に納められてしまい、肩透かしを食らう形になるかもしれないので、注意が必要だ。
一方、今後、「相続不動産の取得を知ってから3年以内に登記することの義務化」や、「土地が遺産分割されないまま10年たてば、法律で定めた割合に応じて自動的に分割される制度」が順次はじまる。
こうした動きにともない、土地の相続に関する一般の人の意識が高まり、相続放棄の動きが活発になる可能性が高い。不動産投資家はそうした土地所有者の受け皿となり、みずからの投資戦略の選択肢を広げることにつなげたい。
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取材・文:
(おだぎりたかし)