国交省会議、昨年12月の中間報告で「大井川流量減少防げる」
静岡県側「湧水を川に戻す方策がない」、リニア着工めど立たず
2027年の開業を予定していたリニア中央新幹線の工事に、なかなか取り掛かれそうにない。静岡県が工事による大井川の流量減少を懸念し、反対を続けているからだ。
国土交通省の有識者会議は昨年12月、適切な対策をすれば流量減少は防げるとの中間報告をまとめたが、同県は「不十分」と反発し、平行線だ。愛知や岐阜、長野など沿線県で各2兆円超とされる経済効果や、「第2の新横浜」として期待される神奈川県の橋本市の発展なども後ずれするのは間違いない。不動産投資のチャンスにつながる重要な問題だけに、注意してみていきたい。
国交省がまとめた昨年12月の中間報告は、トンネルの掘削で生まれる湧水を全て大井川に戻せば、河川流量は維持されると指摘した。

地下水量への影響についても、河川流量の季節変動や年ごとの変動による影響に比べて、きわめて小さいとした。
その上で、「関係機関や専門家と連携してモニタリング計画などの策定や体制構築を行い、モニタリングで得られた情報を地域と共有しながらリスク対策や情報共有などの実践を行う」とし、しっかりとした監視体制を整えるべきだと主張。
JR東海に対しては、住民らの水資源に対する不安や懸念を改めて認識し、静岡県や流域市町とのコミュニケーションを行うなどして、「不安や懸念が払拭されるよう、真摯な対応を継続すべきである」とした。
だが、この中間報告に静岡県側は納得していない。県は今月に入り、国交省有識者会議の中間報告に関する、流域自治体との意見交換会を行った。
その中で、トンネル掘削による湧水を全量戻すための方法が示されていないとの指摘が上がり、工事は認められないとの考えが示された。
なかなか折り合いがつく見込みはなく、2027年に予定されていたリニア開業は絶望的だ。
東京〜名古屋に6駅を開設予定、沿線自治体のにぎわい期待
長野へ2兆1147億円、愛知へ2兆2738億円の効果試算も
こうなれば、リニア開業で期待される沿線エリアへの経済効果の発現が遅れるのは避けられない。
2027年が予定されている開業計画は、東京〜名古屋間で次の6駅が設置されることになっている。

@「東京都ターミナル駅(品川駅地下)」
A「神奈川県駅(相模原市橋本駅付近)」
B「山梨県駅(甲府市大津町付近)」
C「長野県駅(飯田市上郷飯沼付近)
D「岐阜県駅(中津川市千旦林付近)」
E「名古屋市ターミナル駅(名古屋駅地下)」
2037年には、さらに大阪まで延伸される計画だ。
中部圏社会経済研究所は「中部圏経済白書」で、開業後、2037年までの10年間の沿線エリアへの経済効果を次のように計算していた。
〇長野県=2兆1147億円
〇岐阜県=2兆278億円
〇愛知県=2兆2738億円
〇静岡県=3305億円
〇三重県=1101億円
〇滋賀県=764億円
〇富山県=463億円
〇石川県=390億円
〇福井県=274億円
リニアの交通で人の交流が活発になり、対面の情報交換や技術交流が進むなどして研究開発が拡大し、生産性が高まるエリアがあるからだ。また、ビジネス客や観光客の訪問によって、さまざまな消費が増えることなどが押し上げるとみた。
だが、予定していた2027年から開業が遅れれば、こうした効果の発現の遅れは不可避だ。
橋本駅周辺は複数路線が乗り入れ、「第2の新横浜」期待
山梨県駅、長野県駅なども周辺エリアを底上げ
新駅周辺のエリアも、にぎわいの誕生が遅れることになる。
「神奈川県駅」ができる予定の神奈川県相模原市の橋本駅周辺は、昨年1月7日配信の「リニア『橋本駅』周辺、『第2の新横浜』になるか?2027年リニア開業は遅れる懸念あるが」でみたように、「第2の新横浜」としての発展が期待されている。不動産投資の選択肢として注目したい場所だ。

すでに橋本駅は、JR横浜線とJR相模線、京王相模原線が乗り入れる交通の要衝であり、周辺には「アリオ」「イオン」といった商業施設が集まり、ポテンシャルは高い。
しかし、リニア開業が遅れれば、その分、「第2の新横浜」実現は遅れることになる。
このほか、「山梨県駅」が及ぼす効果については、昨年3月13日配信の「リニア『山梨県駅』に期待! 東京都心へわずか25分 通勤・観光ニーズ高まり投資にうまみ」でみた。

「長野県駅」が及ぼす経済効果は、昨年5月4日配信の「リニア『長野県駅』はアクセスに優れ伊那谷の魅力満載!詳細なデザイン計画に賑わい期待!」で確認した。

開業が遅れれば遅れるほど、こうした効果の発現は遅れ、不動産投資のうまみが出てくるのも先になってしまう。投資家として、今後のリニア開業をめぐる動向にしっかり注意していきたい。
取材・文:
(おだぎりたかし)取材・文:
(おだぎりたかし)