
決め手は耐震性、北海道知事が誘致を要請
トヨタなど8社出資の国策企業で雇用も大規模に
トヨタ自動車など国内大手8社が出資して作った、次世代半導体の国内生産を目指す企業「Rapidus(ラピダス)」(東京)が、工場を北海道千歳市に建設する方針であることが分かった。教育・研究施設や住居施設なども備える考えで、広大な土地を取得するという。
思い起こされるのが、台湾の半導体大手の工場建設が始まっている熊本県菊陽町だ。
同町の昨年の基準地価は上昇率3割と全国トップ。背景には、下請け企業の進出意欲や、従業員らの居住需要を見越した不動産市場のにぎわいがある。ラピダスの進出先する千歳市も同じような活況が予想され、不動産投資家には大きなチャンスだ。アンテナを張り巡らし、今後の推移に注目していきたい。
北海道が候補地の一つとして浮上していることが明らかになったのは2月16日のことだ。

鈴木直道知事が東京のラピダス本社を訪れ、小池淳義社長と面会。「製造、研究などを行う複合的な施設と本社機能を進出してほしい」と述べた。
北海道のメリットとしては、大学などの教育機関のほか、半導体製造に必要な水資源などがそろっていることを挙げた。これに対して、小池社長は「深く検討していきたい」と応じた。
その後、候補地は千歳市であることが判明。決め手は液状化しにくい土地の耐震性だったという。耐震補強にそこまで巨額のお金をかけず、工場を建設したり拡張したりするメリットがある。候補に挙がったほかの国内の土地は、耐震性が低いことがネックとなった。
スパコン、Ai用などの次世代半導体を量産へ
生産スタートは2027年を目指す
ここで、ラピダスがどんな企業なのか確かめておきたい。
同社が目指しているのは、スーパーコンピューターやAI(人工知能)などに活用する次世代半導体を国内で開発・製造することだ。
資したのはトヨタのほか、NTT、ソニーグループ、ソフトバンク、キオクシア、デンソー、NEC、三菱UFJ銀行の合計8社と、日本を代表するトップ企業。
さらに政府も700億円の補助金を出す。社長の小池氏は日立製作所の元技術者で、米半導体大手ウエスタンデジタルの日本法人トップを務めた人物だ。
米中の覇権争いで重要性が浮き彫りになった「経済安全保障」を確立するための、まさに「国策会社」であることが分かる。
ラピダスが量産を目指すのは、回路線幅2ナノメートル以下(ナノは10億分の1)という超微細な半導体。半導体は、回路線幅が狭いほど高性能で、大量の情報処理や消費電力の省力化を可能とする。とくに、スーパーコンピューター、AI、完全自動運転車などに使う最先端の「ロジック半導体」を製造する考えだ。生産スタートは2027年を目指している。
ラピダスは、政府と、日本を代表する企業のバックアップを受けた超優良企業だ。工場が進出すると千歳市には、工場労働者だけでなく、事務職のほか、研究開発に従事する人材がたくさん住むことになるだろう。
住む人は、ラピダスそのもので働く人だけではない。多くの下請け企業も進出し、にぎわうはずだ。一種の住宅バブルが到来し、賃貸需要が大きく高まるだろう。
台湾半導体大手TSMC進出の熊本県は地価3割アップ
地元不動産業者「マンションもアパートも足りない」
その好例が、冒頭でも触れた熊本県菊陽町だ。同町で急ピッチで進むのが、台湾の半導体大手、台湾積体電路製造(TSMC)の工場建設。2024年12月の出荷開始を目指す。この工場も、経済安保の観点から日本政府が誘致し支援する、いわば「国策」の工場だ。

そして、菊陽町はその好影響を受け、不動産市場が活況を呈している。国土交通省が昨年9月に発表した7月1日時点の都道府県地価(基準地価)によると、工場地は前年比で31.6%上昇し、全国の全用途をつうじて上昇率1位を記録した。
実際に菊陽町の不動産業者に聞いてみると、「TSMCの下請け業者が菊陽町の物件を手に入れようという動きが加速しており、オフィスや倉庫の取引が急増している」という。
さらに、こうした従業員が住むためのマンションやアパートの建設も活況で足りなくなっている。
ラピダスの工場ができる千歳市も、同様の現象が起きるのは間違いない。出遅れてビジネスチャンスを逃すことがないよう、不動産投資家は情報に敏感になっていきたい。
取材・文:
(おだぎりたかし)