新型コロナ感染拡大で東京一極集中が問題になるなか、総合人材サービスのパソナグループが本社機能を兵庫県の淡路島に移転するという話題は、健美家のニュースでも紹介されている。
最終的に約1200名が勤務をするようになるのは2024年春とまだ先ではあるが、段階的な移住は進んでおり、本社機能の一部移転の発表前と合わせると、すでに500名を超える社員が働き、今年の秋には5つ目となる新社屋が完成する予定だ。
自身も東京から淡路島に移住したというパソナグループ広報部佐藤晃氏に移転の経緯や淡路島居住の実感などを聞いた。
淡路島移転は急に決まったのではない
これまでも地方創生事業で進出
まず、淡路島を本社移転の地とした理由について、パソナの南部代表が兵庫県出身であり身近だったこともあるが、淡路島には3つの利があるという。
一つ目は「天の利」で、淡路島は古事記に国生みの島として描かれ、御食国(みけつくに)という皇室や朝廷に食材を献上した国だとも言われていて、万葉の昔から温暖で豊かな場所という評価がなされていたこと。
2つ目が「地の利」で神戸・関西・伊丹・徳島などの4つの空港からのアクセスが可能で、姫路城や京都・奈良内の文化遺産はじめ昨年指定を受けた仁徳天皇陵と1時間圏内に5つも世界遺産があるという希有な場所であること。
3つ目が「時の利」で2025年には大阪万博が開催予定で海外からも関西そして淡路島に多くの人が来るという追風の時機だということだ。
といっても、コロナのことなどで急に淡路島に移転ということで進めたわけではなく、元々、2008年から企業の柱の一つとしてきた地方創生事業の一貫でもあるという。
この地方創生事業とは、日本の文化や歴史、食や健康といった地域の特性を活かした人材誘致によって、一過性はない持続可能な産業を作ることを目的にしている。人が集まれば、そこに雇用が生まれ、地方を活性化することで結果的に東京の一極集中を回避できるという考え方に基づいている。
淡路島については、この地方創生事業として農業の人材育成や活性化を図る「チャレンジファーム」や閉校となった小学校を複合的な観光施設として活かす「のじまスコーラ」、兵庫県立淡路島公園に開設したアニメパーク「ニジゲンノモリ」など、本社移転も計画に入れつつさまざまな事業をすでに進めてきているのだ。
オフィスは?住居は?
企業協力による整備も
人材ビジネス企業としては、これらの事業創造によって地方に雇用を生み出すという考え方なのである。本社移転に向けて、北淡エリアに現在のメインオフィスは安藤忠雄氏デザインによる施設「淡路夢舞台」内ほか2つを置くほか、4つ目が今年の4月にテナント入居、そして5つ目を今年秋の完成目指して自社社屋を建築中だ。
こうした人員増加に伴い、やはり住環境の整備は急務だという。東京などからの移住に対しての借り上げも進めている。パソナが淡路島に来るという事で現地オーナーから声がけも結構あるとのこと。
一方で、1,200人は全員が移住組ではなく、本部の業務を淡路島に移動することで、すでに淡路島に住んでいる人の雇用も進める予定である。
実際に10月に東京から移住をしてきた佐藤氏は「神戸からは車で30分とアクセスもよいし、淡路島内では通勤のストレスがありません」という。
郊外に住んでいる社員には、パソナが運営する観光施設を周遊する無料バスを利用するほか、カーシェアサービスの利用ができるという。雇用創造が一つのテーマでもあるので、自社だけでなく、他企業の誘致利用も視野に入れている。
住宅も南淡路や洲本など地元の不動産事業者と組んで既存物件の借り入れを進めている。
職・保育・習い事が一体
クリエイティビティを産む環境
淡路島への移住は、家族も単身者もいる。この時勢を反映して、自然でゆったりした環境を求めて子育て世代のママ社員からの異動希望も多い。そんな動向を受けて、昨年10月には一階に保育や習い事のできる施設が入ったパソナファミリーオフィスをオープンした。
パソナグループの中には、保育事業を手掛けるグループ会社もあり、一体で職場環境を整えている。ユニークなのは、お試し淡路島移住の機会を設けている点。現在の緊急事態宣言下では、社員の制度利用を控えさせているが、社員は試しに淡路島に住んで働くという体験をする機会が与えられている。
佐藤氏は「今後は、コロナの状況にもよるのですが、これまで経営会議も淡路島で開催されており、業務上の不都合は感じません。淡路島のきれいな海を見て風を浴びて過ごす毎日は、クリエイティビティを育てると思います。
コロナでリモートワークも進んでいると思いますが、特に若い人はコミュニケーションの場が必要です。そういった点も淡路島に会社機能を集める理由の一つです。
私自身、朝は部屋から朝日が上るのを見て起床。通勤は車で5分。徒歩圏内に病院やドラッグストアなどの生活施設も整っていて、改めて過ごしやすいと感じています」と移住の感想を述べた。
文/小野アムスデン道子
経歴
元リクルート週刊住宅情報関西版編集長、月刊ハウジング編集長を経て、メディアファクトリーにて、世界的なガイドブック「ロンリープラネット日本語版」の編集に携わったことから観光ジャーナリストに。東京とオレゴン州ポートランドのデュアルライフと世界中を巡る取材で旅を基軸にしたライフスタイルについて執筆。国内外で物件運用中。ownmedia【W LIFE】で40代からの豊かな暮らし方を発信。