奈良市の八条・大安寺周辺でまちづくりが始動
新駅と高速道路のICを設置し企業なども誘致
京都や大阪、兵庫といった個性豊かな自治体に比べると、奥ゆかしさが垣間見える奈良。
ところが、世界遺産や国宝は数え上げたらきりはなく、柿の葉寿司や三輪そうめん、奈良漬けといった伝統的なグルメも豊富、金魚の販売量は日本一、墨やグローブ、靴下、割りばし、貝ボタンなどの生産量も全国1位と、産業面でもじつは底堅いポテンシャルを秘めている。
そんな奈良の中心地、奈良市で新たな再開発計画が本格始動し、注目を集めている。それが、「八条・大安寺周辺地区まちづくり基本計画(案)」だ。JR関西本線の新駅設置や京奈和自動車道(大和北道路)奈良インターチェンジ(IC)の整備に合わせ、同地区のまちづくりを進めるという。
大安寺は高野山真言宗の自院で。南都七大寺のうち東大寺に次ぐ大寺として知られる。そもそもは、聖徳太子が平群に建てた熊凝精舎が草創と言われ、飛鳥の藤原京で百済大寺、大官大寺となり奈良時代に現在の地に移り大安寺となった。寺には奈良時代の木造十一面観音立像、木造四天王立像など重要文化財が安置されている。
大安寺周辺のエリアはJR奈良駅から徒歩で20分以上かかり、バス便やマイカーでアクセスするのが一般的。一方で同地区は県内で唯一、JR関西本線と京奈和自動車道が近接する場所。その特性を生かし、新駅とICを設置し車や電車で多くの人が行き交う交通結節点となることを機に、大規模なまちづくりに着手する。
基本計画(案)によると、既存の幹線道路から奈良ICや新駅に通じる広い道路を造成し、AIやIoTといった先端技術を活用する企業・学校などを誘致する「先端技術を活かした新産業創造拠点」(約30ha)も整備。大安寺旧境内(約26ha)を含む「緑・文化豊かで暮らしやすい都市空間づくり」などの事業内容を示している。
新駅・ICが設置されると、周辺との連結も強化される。観光面で言うと大安寺にアクセスしやすくなるばかりか、奈良市中心街やならまち・奈良公園、西ノ京、奈良市南部との回遊性の向上も期待できる。近隣の観光資源の有効活用につながるだろう。
新駅が開業するのはおよそ10年後とされるが、JR西日本は新駅の設置予定場所を含めた区間で線路の高架化を実施。2029年度末までに工事を完了させる見通しだ。奈良ICができる時期は未定で、新駅開業の先になるという。
大安寺の周辺は土地が平坦で田畑も多い。今後、企業や学校を誘致するとなると、まちの景観は大きく変わるだろうし、住宅需要は増す可能性が高い。
不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME’S」の「住まいインデックス」によると、奈良市の標準的な賃貸マンションの賃料は直近3年間で5.92%上昇しているが、中心部の再開発によりこうした傾向は継続するだろう。
奈良市と言えば、リニア中央新幹線計画で駅の設置先として立候補し、2016年に奈良市付近を通る「奈良県ルート」が確定している。
そして、政府は今年の「骨太の方針」で同計画について「来年から名古屋・大阪間の環境影響評価に着手できるよう必要な指導、支援を行う」と明記。今後は、具体的な駅の設置場所について議論していく必要がある。
ところが、三重県が亀山市付近で意思を統一しているのに対して、奈良は奈良市のほか、大和郡山市と生駒市も候補地に名乗りを上げ、今年2月に大和郡山市は奈良市への誘致に合意。生駒市は候補地の一本化については賛同しているが、奈良市への一本化には合意していない。結論が急がれる。
とはいえ、奈良市の中心部に新駅とICができ、リニアも乗り入れるとなれば、まちのポテンシャルは一気に引き上がる。関西地方における奈良の存在感も高まっていくだろう。
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健美家編集部(協力:
(おしょうだにしげはる))