奈良県立医科大学のキャンパス
移転に伴い新駅の設置が本格化
国内大手私鉄のひとつに数えられ、JRグループを除く日本の鉄道事業者のなかでは最長となる約500㎞もの路線網を展開する近鉄(近畿日本鉄道)。
大阪市・京都市・名古屋市の政令指定都市、さらには奈良県・京都府南部、愛知県西部、三重県各都市と、関西以外の大手私鉄が走る東海・中部地方にまでネットワークが広がり、これほど路線網が広がる大手私鉄は近鉄が唯一だと言われている。
京都や奈良、吉野、伊勢志摩、伊勢神宮など、日本を代表する寺社仏閣・観光地を結ぶ路線を有しているのも大きな特徴だ。
近鉄橿原線は近鉄が運営する路線網のひとつで、奈良市の大和西大寺駅から橿原市の橿原神宮前駅までを結ぶ。奈良盆地の中央を南北に貫き奈良近郊と橿原をつなぐだけではなく、京都線の延長として京都と橿原、大和八木駅では大阪線と接続するので、京都、奈良と三重県中部・伊勢志摩地方をつなぐ役割も担っている。
そんな近鉄橿原線には現在、17駅が設置されているが、八木西口駅と畝傍御陵前駅の間、国道165号と166号の交差部の近くに新駅の設置が計画されている。そもそものきっかけは、奈良県立医科大学のキャンパス移転だ。
同大学は1945年に奈良県立医学専門学校として設立。旧制、新制大学を経て現在にいたる。県内唯一の医学部であり、看護短期大学部、医学部看護学科も有する医学系総合大学だ。
附属病院は奈良県の中核病院として特定機能病院、高度救命救急センターなどの指定を受けている。奈良県民にとっては、なくてはならない医療機関のひとつだ。
そんな同大学は創立から80年近くなり、施設の老朽化・狭隘化に対応するため、現在より約1㎞南西に位置する新キャンパス(旧奈良県農業研究開発センター敷地)に教育・研究部門を全面移転し、移転後の現キャンパスで新A病棟ほか附属病院施設を整備するとしている。
新キャンパスは藤原京をモチーフとしたゾーニング、デザインを取り入れることを想定。教育・研究部門が移転した後に現キャンパスには、外来診療施設からなる新しいA病棟を整備し、来院者の利便性向上のために隣接する立体駐車場を整備することを想定している。
これに伴い浮上しているのが、八木西口駅と畝傍御陵前駅間の新駅設置計画だ。
現状だと最寄り駅の八木西口駅から徒歩約8分かかるが、病院のそばに新駅をつくることで、アクセスを改善するのが狙いだ。また、鉄道アクセスがよくなると自動車による来院が減り、周辺道路の混雑解消にもつながる。
本計画について、奈良県と橿原市、近鉄は2015年から協議を続けてきたが、隣接する八木西口駅から新駅までの距離はわずか800m。大和八木駅も含め駅間距離がきわめて短い駅が連続することから、近鉄は八木西口駅の廃止を強く求め、協議は難航していた。
ところが、昨年に行われた2023年4月に実施予定の近鉄の運賃改定に向けた公聴会で、近鉄側は八木西口駅の廃止を前提にしないと文書で示すことに。これにより、新駅の設置は現実味を帯びることになった。今後は、具体的なスケジュールが定められていくだろう。
新駅の設置は病院へのアクセスを改善するだけではない。バスなどの利用に対して駅前にバスロータリーを整備したり、店舗や薬局などが入る駅ビルが建つかもしれない。大学のキャンパス移転を機に、周辺の再開発が加速する可能性があり、近隣の住宅事情にも影響するだろう。
健美家編集部(協力:
(おしょうだにしげはる))