
「八条・大安寺」「近鉄とJRの交差付近」も有力候補
2023年から選定へ作業が本格化、「骨太方針」にも明記
2037年の全面開業を予定するリニア中央新幹線の中間駅「奈良と付近駅」の有力候補地として、奈良県の荒井正吾知事が「JR平城山(ならやま)駅」「八条・大安寺周辺地区の新駅」「さらに南に下って近畿日本鉄道とJRが交わる場所」の3カ所を挙げ、地元の期待が高まっている。奈良県はすでにこの3カ所をJR東海に打診しており、こんご、選定・誘致の作業がすすめられる予定だ。具体的に中間駅の場所が決まれば周辺の開発が活況を呈し、賃貸需要が盛り上がるのは間違いない。情報に目を光らせ、早めに安くで物件を仕入れて貸し出するなどの賢い不動産投資戦略を展開ていきたい。
「(リニアの)駅そしてルートの設定に向け、強いリーダーシップを発揮していただきたい」
昨年6月、荒井知事と会談した岸田文雄首相はこう声をかけた。
同月7日に政府が閣議決定した経済財政運営の指針「骨太の方針」にも「全線開業の前倒しを図るため、建設主体が 2023 年から名古屋・大阪間の環境影響評価に着手できるよう、沿線自治体と連携して、必要な指導、支援を行う」と明記。政府はリニアの中間駅設置に向けた動きに本腰を入れようとしている。

そして、これを受け、昨年9月に荒井知事が講演で明らかにした「奈良市付近駅」の有力候補地3カ所が、「JR平城山(ならやま)駅」「八条・大安寺周辺地区の新駅」「さらに南に下って近畿日本鉄道とJRが交わる場所」だった。
奈良市内のある寺の関係者は「近くに中間駅が来ないかという話題で周りは持ちきりだ」と弾んだ声で話す。
リニア中央新幹線は、もともとの計画では2027年に東京ー名古屋間を先行開業し、37年に大阪まで全面開業することになっている。JR東海によると、全面開業後、東京と大阪は最短67分で結ばれることになる。

ただし、大井川の水資源への工事の悪影響を懸念する静岡県の反対で、建設工事がなかなか進まず、計画どおりの時期の開業は難しい情勢になっている。
JR平城山駅はニュータウンの東端、大阪、京都への便が良好
八条・大安寺はすでに在来線の新設が決定、ICの整備も
「奈良市付近駅」は、名古屋から西の、大阪との間に置かれることが想定される中間駅だ。政府やJR東海はこんご、名古屋から西のルートと「奈良市付近駅」の決定などをすすめる。骨太方針に記されたとおり、その動きは今年から本格化する。
「奈良市付近駅」の候補としては、これまで、奈良、大和郡山、生駒の3市が、合計で5カ所の候補地を挙げて誘致に取り組んできた。荒井知事の発言は、この候補が3カ所に絞られたことを意味する。
こんごは「地域の発展にどれくらい貢献するか」「鉄道の在来線、高速道路などとの接続をどう確保していくか」などの観点などから検討され、絞り込まれていく方向だ。
では、「奈良市付近駅」の候補にあがっているエリアはどのような場所なのだろうか。
まず「JR平城山(ならやま)駅」。住所は奈良市佐保台1丁目となる。奈良県と京都府の境に近い場所にあるJR関西本線のこの駅は「平城・相楽(へいじょう・そうらく)ニュータウン」の東端にあるが、住宅地と駅を結ぶバスの発着がほとんどない、アクセスの悪い立地だ。
近くに特筆した観光地や大きな商業施設もなく、周辺の住宅地に住む人くらいしか駅を使わず、新型コロナウイルス禍前の2019年までは、1日の乗降客数は2500〜2800人程度で推移していた。
ただ、平城山駅からJR関西本線を使えば、大阪や京都方面へ出るのに便利だ。隣には、始発駅である奈良駅もある。もしも平城山駅にリニアの新駅がつくられれば、大阪・京都方面への在来線の便の良さも手伝って、開発が進み商業施設や企業の進出が加速して、賃貸需要が一気に増すだろう。
次に「八条・大安寺周辺地区の新駅」だ。近くに東大寺や唐招提寺、薬師寺などの観光スポットが多くわる、奈良市南部に位置するこのエリアは開発計画のあるところで、すでにJRの新駅「八条新駅」の設置が決まっている。

くわえて、京奈和自動車道(大和北道路)奈良インターチェンジ(IC)や、ICと市内中心部を結ぶ4車線道路(西九条佐保線)の整備も行われる。新たにリニアの新駅ができれば、このエリアは交通の要衝地として、大きなにぎわいをみせることになるだろう。
近鉄とJRの交差付近は大和郡山市に立地
自動車道や国道が集まり和歌山や京都への車での便がいい
最後の「さらに南に下って近畿日本鉄道とJRが交わる場所」は、奈良市に隣接する大和郡山市に位置する。

同市は西名阪自動車道や京奈和自動車のほか、国道24号線、国道25号線などが通っており、奈良県南部や和歌山県、京都府などへのアクセスが非常に良い。リニアの新駅ができれば、大和郡山市だけでなく、奈良、和歌山、京都などのにぎわいにもつながるだろう。
果たして、この3つの候補地の中からどこが選ばれるのか。
ちなみに奈良市はリニアを誘致するメリットを次のように説明する。
一つ目は「観光地としての魅力」。奈良市は日本の古都として国内トップレベルの観光資源を有し、国内外から年間1000万人の観光客がおとずれる「国際文化観光都市」であるとする。
二つ目は、奈良市にリニア新駅を置いた場合の利便性。奈良市は奈良県唯一の中核市であり、県内の政治・経済・文化の中心地であると指摘。「JR関西本線と近鉄京都線に近接し、大和北道路の奈良北ICが計画されるなど、奈良県随一の交通結節点となる可能性があります」としている。
三つ目は、「最先端の科学技術『学研都市』」である点。リニア新駅は、多様な分野の先端研究機関・大学・企業が集まり、「日本の未来にとって大きな可能性を秘めた『関西文化学術研究都市』に近接します」と説明する。
当然のことながら、リニアによって奈良と東京は約1時間でつながり、移動時間は大きく短縮される。
奈良は大きく飛躍する可能性があり、今後も中間駅新設の動きにしっかり注目していきたい。
取材・文:
(おだぎりたかし)