福岡市のベッドタウンとして成長
人口が増え2018年には市制に移行
福岡県那珂川市は、福岡市の都心部からわずか13㎞に位置する自治体だ。東部は春日市、大野城市、南部は佐賀県、北部・西部は福岡市と隣接している。市内の南北を貫き、福岡市中心部を流れ博多湾に注ぐ那珂川が市名の由来だ。
車でなら福岡市中心部まで40分ほどの好立地。ほどよい距離感からベッドタウンとして栄え、人口は右肩上がりで増え続けることに。2015年の国税調査で5万人を突破し、18年10月には単独市制が始まっている。
ユニークなのは交通アクセス。市の北部にあり福岡市にも近い「博多南駅」が市内唯一の鉄道網だが、ここを走るのは新幹線の車両だ。
同駅はJR西日本の山陽新幹線博多総合車両所と隣接していて、博多駅までつながっている。同社は地域住民などの要望を受け1990年に博多南駅を開設し、新幹線の運賃より安い在来線特急扱いの運行を始めた。
博多駅までの特急料金+運賃は片道300円で、乗車時間はわずか8分。福岡市内で働くビジネスパーソンは一風変わった新幹線通勤を楽しんでいる。
人口が集中し、まちが発展しているのは博多南駅、さらには西鉄バスの那珂川営業所の周辺となる市北部の平地部だ。
駅前には市の情報センターやマンションが建ち並び、あかやしや通り、いちょう通り、けやき通り、もみじ通りといった4つの通りには高層マンション、飲食店をはじめとするロードサイド型の店舗、スーパーなどが密集している。
一方、面積の大半を占めるほか地域は農地や山地として広がっていて、大都市に近いながらも里山の暮らしができるエリアとして、近隣はおろか首都圏からの移住者が近年は目立つという。
古代水路の「裂田溝」などをはじめとする貴重な歴史資源や寺社仏閣、那珂川上流にある自然にできた中州をそのまま活用した「中ノ島公園」は、週末になると近隣からファミリーが訪れるプレイスポットとして知られる。キャンプや川遊びが楽しめる「五ケ山」エリアも人気が高い。
若年層の人口割合が県内トップ3
子育て・移住支援策が充実している
福岡市に通勤するのにちょうどよい距離で、自然のなかで暮らせることから、単身者・ファミリーを問わず、那珂川市に住まいを構える世帯は増えている。
行政のバックアップも頼もしく、自治体が運営する保育園や幼稚園が数多くあり、児童手当、こども医療制度などの子育て支援・制度も充実。育児情報や予防接種のスケジュールを配信、管理・通知できる子育て支援ポータルサイト・アプリ「nobi nobi」も提供している。
さらに、一定の条件を満たした新婚世帯に対して住居費や引っ越し費用の一部、固定資産税相当額を補助する結婚新生活支援事業や、市内に住宅を取得したら最大100万円を補助する移住支援事業など、幅広い施策も実施。こうした手厚いサポートが人口増加にひと役買っているのだろう。ファミリー世帯が増えた結果、同市の14歳以下人口の割合は県内でトップ3となっている。
人口増加は賃料にも反映されている。不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME’S」の「住まいインデックス」によると、那珂川市の賃貸マンションの家賃は、直近3年間で5.52%も上昇。賃貸需要は高まっているようだ。
自然に囲まれつつ大都市に近く、住居をはじめとする生活コストは低く抑えられる特性を備える、那珂川市。作家の移住も多いようで、毎年秋には工房を巡る散策型のアートイベントも行われている。
清流や静かな環境を求めて、同市に移転したり新規オープンする飲食の名店も目立つ。暮らしが多様化したいま、こういったまちに対する住まいのニーズは高まっていくかもしれない。
健美家編集部(協力:大正谷成晴)