東南アジアからの訪日客や留学生の日本への玄関口としてインバウンド需要を引きつけてきた福岡がコロナ禍での街づくりの強みを発揮している。
外国人需要が消滅し、全国各地の観光地・商業地では飲食店・サービスなどが入る店舗ビルは軒並み賃料が下がり、空室率を高めているが、福岡市は訪日客に依存しすぎない街への変貌を進めてきたことが奏功しているようだ。
今年の公示地価では、商業地の上昇率全国トップに7地点が入っており、「博多祇園プラザ」の地価は18.0%上昇し、変動率上位順位で全国3位となっている。
県内で最も高い地価は福岡市中央区で西日本鉄道が再開発を進める地点で119万0326円/uとなり、坪単価で393.5万円だった。福岡市が音頭をとって推進する天神ビッグバンや博多コネクティッドといった再開発プロジェクトが地元の経済を潤すとの期待値が公示地価で裏付けられていると言えそうだ。

天神ビッグバンなどで地価上昇に広がり
2022年12月に竣工する「旧大名小学校跡地事業」(敷地約1万1900u)には地上25階建てでオフィス、ホテル、コミュニティ施設などの複合開発が誕生する。誘致するホテルは九州初の「ザ・リッツ・カールトン ホテル」(162室)。
全ての客室の面積は50u以上のゆとりの空間を提供し、レストランやバーラウンジ、チャペル、会議室、スパなどを併設。世界的な高級ホテルによる地元経済界の期待は大きいようだ。コミュニティ棟の低層部分に創業支援・人材育成施設を配置するほか、公共施設に多目的空間と高齢者向け施設整備する。
天神に隣接する地域性から、ここのコア施設となるオフィス棟の賃料水準は、2021年に完成した天神ビッグバン第1号の「天神ビジネスセンター」(地上19階地下2階建て延べ床面積6万1000u)と並びそうだとの見方がある。
その水準として坪賃料3万円台との報道や調査会社の見方もある。ちなみに同センターの地下飲食ゾーン「天神イナチカ」は今年4月29日に開業する。
JR九州では、博多コネクティッドで「博多駅空中都市プロジェクト」を発表した。
駅の線路の上空に都市を作り出す考え方で2028年末までに最先端の複合ビルを開発する予定だ。同駅周辺で最大規模となるオフィス空間と高級ホテルを誕生させる計画である。脱炭素時代の環境性能も備えて、福岡を世界から選ばれるまち≠ノ高めるのを狙いとしている。

こうした街の発展が地価を押し上げ、福岡市内の商業地は9.4%上昇しており、前年の2.8ポイント上昇からプラス幅を広げている。特に注目を浴びている一つが新駅の誕生だ。2023年に地下鉄が延伸開通するが、天神・博多エリアに近いことで、「櫛田神社駅前」周辺の利便性が高まるとの見方が地価を押し上げている。
住宅地を見ると、福岡市(6.1%上昇)は10年連続で上昇している。天神・博多の再開発の勢いは、その周辺まで広がり、福岡県内の住宅地は3.2%上昇し、8年連続の上昇となっていることで、福岡市内に通勤しやすいエリアを中心に住宅需要が増加していることが窺える。
福岡県大野城市では、住宅地で11.1%上昇(前年5.0%上昇)した地点が見られた。相対的に割安感のある地域へと住宅需要が波及している。
街の発展と留学生の受け入れ再会に期待
では、再開発による福岡市の街の発展は、賃貸住宅にどのような好循環をもたらすのか。健美家の読者にとって気になるところと思われる。
新型コロナウイスにより外国人が来日できない状態が続いていたが、政府は留学生を中心に受け入れを本格化するなどの好材料が出始めた。東京と同様に福岡でも大学生や専門学校生などの留学生需要に期待が集まっている。国内の大学でもオンライン授業から通常の対面授業へと徐々に変わり始めている。
こうした中で今後を展望してみると、「それぞれの地域データを調査・分析することだ。世帯数や賃貸住宅の着工数などでその地域の将来性を予測し、投資の方向感をつかみ呼び込みたい入居者のニーズにあった部屋づくりや貸し方が鍵だ」と福岡県内で賃貸仲介・管理を手掛ける会社はアドバイスする。ほんどの場合、空室の原因が顧客の要望とマッチしていないためだ。
福岡市内への投資が活発化して賑わいが増しても貸し手と借り手のニーズがマッチしないと空室は生まれる。地価の上昇は、地域の街づくりを反映するバロメーターであるが、現在の街の発展にあぐらをかくことのない賃貸経営努力が欠かせない。
健美家編集部(協力:
(わかまつのぶとし))