
建設資材費の高騰でパビリオンなどの工事にゼネコン及び腰
五輪談合を受け電通、博報堂は1年間入札に参加できず業務停滞も
約2年後の2025年4月13日に予定されている大阪・関西万博の開幕に、準備が間に合わないのではないかとの懸念が強まっている。
建設資材費の高騰のあおりでパビリオンの入札がうまく進んでいないことや、東京五輪をめぐる談合事件を受けた入札事業からの電通除外の影響で、関連イベントの業務の滞りが心配されていることなどがその理由だ。
十分な形で万博が開かれなければ、周辺エリアでの不動産投資需要は当初の期待ほど盛り上がらない可能性がある。今後の動きに要注目だ。
万博は、大阪湾に浮かぶ人工島・夢洲(ゆめしま、大阪市此花区)でひらかれる。期間は25年10月13日までの184日間。3月時点で153の国・地域、8の国際機関が参加を表明している。
来場者は2820万人、経済効果は約2兆円と想定されている。そのインパクトは大きい。その通りになれば、観光、飲食、建設などの関連産業はうるおい、従業員による賃貸需要や利用客の宿泊需要が高まって、不動産投資にも追い風となるだろう。
だが、そうした追い風が十分に吹くのか、懸念が強まっている。
夢洲では今年4月から、パビリオンなど建築物の敷地が引き渡され、建設作業が本格化する。しかい、パビリオンなどの施設の入札が成立しない事態が相次ぎ、開幕までに完成が間に合うのかという懸念が出ているのだ。

背景にあるのは、資材費が高騰し、ゼネコンは、提示された予定価格の範囲内で工事をおこなうことが難しくなっているからだ。
さらには、東京五輪・パラリンピックの談合事件を受け、電通、博報堂など大手広告代理店が事業入札への参加から除外されたことも、業務が滞る原因になるのではと心配されている。
初回入札は半数で不成立、有名映画監督の「テーマ館」
「大催事場」「迎賓館」などパビリオン以外でも相次ぐ
まず、施設の入札だ。3月までおこなわれた初回の入札の半数が成立しない異常事態が起きている。
たとえば、万博の「目玉」の一つが、映画監督の河瀬直美さんやメディアアーティストの落合陽一さんなど著名人8人がプロデューサーとして手掛ける、「いのち」をテーマにしたパビリオン「テーマ館」だ。
しかし、この「テーマ館」でも入札の不成立が相次いでおり、河瀬さんのパビリオン(予定価格約10億7000万円)など2件は初回入札で、応札する人すらあらわれなかった。
パビリオン以外でも、コンサートなどがおこなえる劇場型のホールを持つ「大催事場」や、海外からの賓客を招くための「迎賓館」といった代表的な施設でも、入札の不成立が相次いでいる。
理由は先ほど述べたように、建設資材の高騰で予定価格内での工事が難しくなっていることだ。
入札が成立すれば、もちろん工事そのものが始まらない。かりに予定価格を引き上げたり、予定価格に抑えるためデザインをスケールダウンしたりして入札が成立し、工事を始められても、今からでは完成が25年4月の開幕までにとうてい間に合わないのではないかという懸念も上がる。
電通などは大型イベントにノウハウ、不参加なら業務非効率化
万博盛り上がらなければ宿泊需要、賃貸需要なども冷える
さらにその懸念に拍車をかけているのが、東京五輪・パラリンピックの談合事件の余波だ。この事件を受けて、電通、博報堂など大手広告代理店が、大阪府・市や、万博の運営主体である「日本国際博覧会協会(万博協会)」の事業入札から1年間、除外されたことも大きい。

電通などは大規模なイベントの運営ノウハウが豊富で、万博の運営にも欠かせないとみられてきた。
しかし、万博の事業入札から除かれたことで、さまざまな仕事を進めていく上での効率性が落ち、万博の準備が遅れるのではないかとの懸念が上がっている。
一方、パビリオンを運営する民間企業が電通、博報堂などを使うことは問題ないが、談合事件に絡んだ広告代理店を大っぴらに利用していると分かれば、コンプライアンスの面から、株主、取引先などに冷たい目で見られる恐れが出てくる。
このため、事実上、電通などを最大限に活用することが難しいとの見方が上がる。そうであれば、万博に向けた準備は遅れることになるだろう。
準備が遅れて開幕に間に合わなかったり、間に合っても、費用をかけずにみすぼらしいパビリオンが林立したりする事態になれば、万博は当初想定していたような盛り上がりを得られず、それだけ人の流れが落ち込むことにもなる。不動産投資の観点からも、逆風が吹く可能性がありそうだ。
取材・文:
(おだぎりたかし)