
南部IC(山梨県南部町)と下部温泉早川IC(身延町)間が完成
山梨・静岡間の移動は約70分間、短縮へ
中部横断自動車道の静岡ー山梨間(南側区間、74.3キロ)の全線が8月29日、開通した。東名高速道路、新東名高速道路、中央自動車道と直結する、南北を貫く「大動脈」の登場だ。

期待されるのは観光、物流などのアクセスが飛躍的に高まることで、沿線の地域がにぎわうこと。とくに山梨県南アルプス市や中央市、身延町、静岡市などに工場、物流施設などの進出の動きがあり、不動産投資家にとって大きなチャンスとなりそうだ。
まずは、概要をみてみよう。今回開通したのは、国が整備を進めていた中部横断自動車道の南部インターチェンジ(IC、山梨県南部町)と、下部温泉早川IC(同県身延町)の間の13.2キロだ。
この部分は「南側区間」のうち、唯一整備が遅れていた。地盤が想定より悪く、工事計画を見直す必要が出たからだ。もともとは2017年度中の開通を予定していた。
では、開通したことによって、利便性はどう高まるのだろうか。
当然ながら、まず移動時間が短縮される。

国土交通省関東地方整備局によると、山梨県と静岡県の間の移動時間は、中部横断道全線を使うと約1時間35分かかる。国道52号を使う場合の2時間45分と比べて、約70分間、短くなるという。
中部横断自動車道開通のメリットは主に6つ
物流、観光客の流れを活性化、医療体制も強化
同整備局が挙げる6つのメリットは、以下の通りだ。
@「物流がスマート≠ノ」
中部横断自動車道の整備によって走行性が上がり、所要時間が短縮される。物流の効率化が促され、ドライバーの負担も軽減されることが期待できる。
A「農産品を海外へ」
静岡市の清水港では農水産物の海外輸出に力を入れている。中部横断自動車道の整備と清水港との取り組みで、ブドウをはじめとする山梨県産の果実を世界へ発信していくことが期待される。
B「観光客の呼び込み」
中部横断自動車道沿線には、アジア圏の旅行者にも人気の観光スポットが集中している。とくに新型コロナウイルスが収束した後は、観光需要も再び高まるとみられる。山梨県へのアクセスが高まることにより、インバウンド(訪日外国人客)観光などを促進することが期待できる。
C「救急医療活動がより迅速になる」
身延町から山梨県立中央病院など3次救急医療施設までの所要時間が短縮され、救命率の向上が見込まれる。
D「災害時における代替道路になる」
大雨などの災害時に国道52号が通行止めになった場合、中部横断自動車道が代替道路として機能することになる。孤立集落が発生するのを防ぐことが期待される。
E「地域が活性化する」
中部横断自動車道の整備により物流の効率化が図られ、IC近くの好立地を理由とした企業の立地が進むことで、雇用の拡大、人口の増加が期待される。
身延町では合板工場スタート 中央市では物流センターも
南部町、南アルプス市などでも物流センター、工場など開設へ
これらの6つのメリットにもかかわってくることだが、不動産投資家にとって気になるのは、沿線のエリアがどうにぎわっていくかだ。
関東地方整備局の資料によると、近年で8件の工場、物流センターの開設の動きがある。

2019年には山梨県身延町で合板工場が操業をスタートした。
20年には中央市に物流センターが、静岡市に国際物流センターが開設された。山梨県身延町では除菌水の生成工場が創業を開始している。
21年には南部町には物流センターが開設。21年度中には南アルプス市に洗口液工場が操業をスタート。
22年には中央市に物流センターが開設される予定となっている。
23年には南アルプス市で化粧品工場が操業を始める方針だ。
中部横断道の開通によって、今後、さらなる企業の進出やそれに伴う雇用の拡大、関連する産業の盛り上がりを期待することができるだろう。この結果、働く人が増え、その家族も含めた賃貸需要は飛躍的にアップするはずだ。新型コロナが収束すれば、この傾向にますます拍車がかかることだろう。
不動産投資家にとっては、とくにこれからの山梨県は伸びしろが大きいといえる。経営戦略の選択肢の一つとして注目していきたい。