2005年のつくばエクスプレス開業以来、常磐線、特に茨城県南部主要での乗降客が減少している。つくばエクスプレス計画路線名が「常磐新線」だったことからも分かるように、元々は常磐線の混雑緩和も鉄道敷設の理由のひとつ。だが、開業から15年が経ち、混雑は確かに緩和されたが、逆に乗降客数が減少、駅前の商業施設の撤退などが起こるようになってしまったのである。
まず、乗降客数だが、つくばエクスプレスの2005年時点の1日乗降客数は15万700人だったが、2019年9月には44万人を超すまでに。2020年はコロナの影響で減少したが、それでも28万人前後とこの15年で大きく伸びた。
一方の常磐線で各駅の乗降客数を見ると、もっとも減少した取手では3万8997人から2万7277人にまでになっており、それ以外でも1万8574人から1万5956人(土浦)、1万7881人から1万2444人(牛久)、1万5497人から1万2592人(20年から龍ケ崎市。以前は佐貫)といずれも減っている。
土浦:駅ビルをサイクルロード拠点として再生
その結果、駅前の商業施設が撤退、それを市の施設等で補うなどの手が打たれているのである。たとえば土浦駅周辺。駅ビルには2019年春に「プレイアトレ土浦」がグランドオープン(第一弾オープンは2018年春)したが、前身は1983年に開業した「ウイング土浦」。
2004年以降、つくばエクスプレスの開業を睨んでJR東日本が得意とする「ルミネ」「アトレ」などをお手本とした改装を進めたが、2000年頃には4万人を超えていた土浦駅乗降客は3万人ほどに大幅減。「ウィング土浦」は2008年に閉店し、その後にオープンしたのが「ペルチ土浦」。JR東日本グループとイオンモールの共同で運営しており、約60店が出店していた。
ただ、当初の勢いは続かず、2011年12月にはイオンモールが運営から撤退することに。その後のJR東日本グループのアトレが運営管理者となって再改装を実施、しばらくは賑わうが、その後、5年間の契約満了以降に撤退が相次ぎ、2017年時点では1階の食品売り場が閉鎖、営業している店が半分以下になるなど深刻な状況に陥る。そのころから従来の商業施設だけでは難しいという声が出始め、模索が始まる。
最終的に誕生した「プレイアトレ土浦」はナショナルサイクルルートに指定されたつくば霞ヶ浦りんりんロードのゲートウエイ施設として「日本最大級のサイクリングリゾート」を謳っている。
具体的には地下1階、1階にレンタバイクを約100台完備した自転車ショップ「ル・サイク」や自転車メーカー「ビアンキ」とコラボしたサイクルカフェ「タリーズコーヒー」やコンビニ、ドラッグストアやシャワー、コインロッカーが用意され、3階には自転車持ち込み可(一部客室は室内まで持ち込み可)のホテル「星野リゾート BEB5土浦」が入っているというもの。それ以外の商業施設にも自転車と一緒に入れるようになっているのが売りだ。商業単体ではなく、周辺観光と一体になっての再起というわけである。
そして、面白いことにコロナ禍でその戦略が当たったようだ。2020年8月の産経新聞は三密を避けて健康的に過ごせるスポットとして注目を集め、来訪者が増えているという。都心からそれほど遠くはなく、レンタサイクルで手軽に走れることも功を奏しているのだろう。
土浦駅周辺では1997年に駅正面に開店したイトーヨーカドーをキーテナントとする再開発ビル「ウララ」が2011年に閉店しているが、2015年にはそこに土浦市役所が移転、さらに2017年には土浦市立図書館も駅前の再開発ビル「アルカス土浦」に移転、市は駅前活性化に取り組んできた。かつては丸井(現在はパチンコ店などが入る雑居ビル)、西武百貨店(現在はりそな銀行)などもあって賑わった土浦駅周辺だが、行政施設+サイクリングが新たな一手となるか。
プレイアトレはサイクリスト向けだけではなく、学生向けに自習コーナーを設けたり、改札階の商業施設をフードモール的な設定にしたりと新味を狙っているが、反応がどう出るかはこれからである。
取手:駅西口で再開発ビルの建設進む
取手駅西口周辺では再開発事業が進められている。現在進んでいるのは駅正面右側にあるA街区(約0.7ha)で、事業協力者は大京と戸田建設。2棟の建設が予定されており、4~5階建てとなるA棟にはサテライト図書館や商業・業務施設などが入居、B棟は市内最高となる30階建てのタワーマンションになる計画。低層階にはサービス付高齢者向け住宅や保育施設が入り、総戸数は約250戸が想定されている。
それ以外の街区ではすでに2014年にC街区に民間の医療モールと市の立体駐輪場が完成、翌15年にはB街区に健康、医療、福祉などの複合施設「取手ウェルネスプラザ」が整備されている。
ここまで聞くと順調に進んでいるようだが、駅前の区画整理、再開発事業自体はすでに20数年ごし。さらに駅前には喉に刺さった骨のような存在がある。A街区の隣にある8階建ての再開発ビルである。市が100憶円超を支出して1985年に完成し、取手とうきゅうが一括借り上げで開業したものの、2010年には閉店。駅前に大きな空き家がある状態が2年余りも続いた。
その後、2012年暮れに至り、地権者らが「リボンとりで」の愛称で再開、スーパー西友やパチンコ店、銀行にカフェ、100円ショップ、市の施設などが入ったが、6階以上はまだ空き家の状態。新築されるA街区と回遊性を持たせることでもう一歩の再生を目指したいところだ。
また、駅前に長年かけて多大な費用を投資している一方で駅から離れた桑原地区でもイオンモールなどを誘致、大規模な開発が予定されている。これらが起爆剤になってくれることを祈りたいところだ。
牛久:駅前の商業ビルに公共施設を入れて再生
牛久駅前では2020年6月にエスカード牛久がオープンした。これは2017年にキーテナントだったスーパーイズミヤが撤退した後の建物の一部と土地を市が取得、第三セクターを作って再生したもので、市の生涯学習センターなども入る。駅の真正面にある同ビルは市の顔のような役割でもあり、今後の展開を期待したい。個人的には地元の名産品を置いた「いばらき自慢」に頑張ってもらいたいところである。
以上、茨城県南部の常磐線主要駅の現状と新たな展開についてまとめた。茨城県南部エリアは都心に直通、霞ケ浦や筑波山など遊び場、自然も豊富な地域である。郊外に目が向く今、再度評価される可能性もあるのではなかろうか。
健美家編集部(協力:中川寛子)