JR東海が建設しているリニア中央新幹線の2027年開業の遅れが避けられない情勢となっている。
東京(品川)~名古屋間の通り道となっている静岡県が大井川の水量減少を懸念し、県内の工事許可を出していないからだ。開業が遅れれば、リニア駅が建設される都市の発展もそれだけ遠のくことになる。
リニア駅の建設で「第2の新横浜」としての発展が期待される神奈川県相模原市の橋本駅周辺も同様だが、ポテンシャルの高さは変わらず、不動産投資家としては戦略の選択肢として注目していきたい。
営業時速500キロで走る夢の超特急
東京ー名古屋間は6駅の設置が予定
リニアは、車両につけた超電導磁石と地上の軌道に置いた地上コイルとの間の磁力によって、車両を約10センチほど浮かせ、超高速で走る「夢の超特急」だ。営業開始後の最高速度は時速500キロを想定している。
筆者自身、山梨県にある実験線に乗ったことがある。振動を少し強いと感じたが、約43キロの距離を10分もかからずに走り抜け、乗り物に乗った実感のない、不思議な感覚になったことを覚えている。
27年に開業される予定の東京~名古屋間では、次の6駅が設置されることになっている。
①「東京都ターミナル駅(品川駅地下)」
②「神奈川県駅(相模原市橋本駅付近)」
③「山梨県駅(甲府市大津町付近)」
④「長野県駅(飯田市上郷飯沼付近)
⑤「岐阜県駅(中津川市千旦林付近)」
⑥「名古屋市ターミナル駅(名古屋駅地下)」
37年には、さらに大阪まで延伸される計画だ
橋本リニア駅は品川まで10分 東京通勤圏として期待
名古屋、大阪までも短時間で 出張も利便性高まる
当然のことながら、駅が設置される周辺は、都市としての発展が期待される。神奈川県相模原市にある橋本駅周辺も同様だ。
橋本駅には現在、JR横浜線とJR相模線、京王相模原線が乗り入れており、交通の要衝といっていい。駅の周辺には、すでに「アリオ」「イオン」といった商業施設が集まるなど、にぎわいをみせている。
リニアの駅は、駅の南にある相模原市緑区のエリアに作られる予定だ。リニアが通れば、橋本駅と東京都ターミナル駅とは10分程度で結ばれることになるという。
現在、品川まで行くには、乗り換えなどして1時間程度かかるので、大幅な時間短縮になる。東京で働くビジネスマンにとって、十分すぎるほどの通勤圏となる。
関西方面へは、品川~名古屋が40分、品川~大阪が67分で結ばれる。橋本と関西のエリアも非常な短時間で結ばれ、出張などの便がとても良くなる。
ちなみに現在、新幹線に新横浜から乗った場合、橋本から名古屋まで2時間弱、新大阪まで3時間弱かかる。リニアが開通すれば、橋て本駅周辺の利便性は大幅にアップし、人が集まって、たいへんなにぎわいをみせるだろう。
橋本駅周辺を3つのゾーンに分け開発
農村から発展した「新横浜」の再来期待
現在、橋本駅近くで計画されている再開発を詳しくみていこう。
地上については、「駅前広場」「道路」「公園」「緑地」「遊歩道」「大屋根のあるイベント広場等のオープンスペース」「商業、業務施設」「立体駐車場」などの使い方が想定されている。
地下1階部分は、「商業店舗等が並ぶ地下街」「観光や産業など様々な分野の地域の魅力を発信するための展示スペース」「駐車場」「リニア中央新幹線の最先端技術を発信する展示スペース」などが予想される。
相模原市は、橋本駅の南口にあり、移転が検討されている相原高校用地を中心としたエリアについて、開発を進める考えだ。
具体的には、次の3種類のゾーンに分ける計画となっている。
【①広域交流ゾーン】
さまざまな交通手段による国内外からの来客を受け入れる交通ターミナルとしての空間形成に取り組む。圏域全体の観光、物産、産業などについて、にさまざまな情報を発信する拠点とする。
<想定される施設例>
駅前広場、イベントスペース、情報発信拠点(展示スペース など)、広域交流拠点のコンシェルジュ機能を有する施設
【②複合都市機能ゾーン】
オフィスといった事業活動の拠点や生活・地域に密着した機能が複合的に集まるエリア。「子供から高齢者までさまざまな世代が活動する拠点」「まちづくりを育てる人々が集まり語らう場となる拠点」などが想定される。
<想定される施設例>
オフィス、商業、飲食、福祉、医療、まちづくり活動拠点、都市型居住
【③ものづくり産業交流ゾーン】
「産業の人材・情報が交流する拠点」「新たな製品・サービス、次世代の技術(宇宙開発・ロボット産業など)が創造される拠点」として、産業・経済の交流のために利用される機能を導入を進める。
<想定される施設例>
展示場、会議室、インキュベーション、産学連携窓口、シティホテル
期待されるのは、同じ神奈川県にある新幹線の新横浜駅周辺にように、爆発的は発展を遂げることだ。
もともと農村だったエリアに東海道新幹線の新横浜駅が作られたのは1964年のことだ。70年代に「ひかり」、90年代に「のぞみ」が停まるようになり、企業のオフィスやホテル、商業施設が大量に集まったことで、都市として高度な発展を遂げた。人口が急激に増え、不動産の価値は高まった。
橋本駅周辺もリニアをきっかけに、オフィスやホテル、商業施設が多く建ち、人口が流入する可能性がある。
発展を期待し、すでに橋本駅周辺の不動産価格は上昇している。毎年1月1日時点の公示地価、7月1日時点の基準地価も、橋本駅近くの多くの地点で上昇が続いてきた。新型コロナウイルスの影響で鈍化するかもしれないが、トレンドとしては同じ流れが続くだろう。
静岡県の態度はかたくなで、リニアの開業遅れの問題はなかなか解決しない懸念がある。
だが、橋本駅の近くには、まだまだ安い物件も多い。余裕のある不動産投資家なら、いずれは来る開業後を見越し、今からこうした物件を仕込んで、物件価格の上昇後に売却したり、家賃相場の上昇後に高く貸し出したりする「作戦」を考えてみてもいいだろう。
取材・文 小田切隆
【プロフィール】 経済ジャーナリスト。長年、政府機関や中央省庁、民間企業など、幅広い分野で取材に携わる。ニュースサイト「マネー現代」(講談社)、経済誌「月刊経理ウーマン」(研修出版)「近代セールス」(近代セールス社)などで記事を執筆・連載。