東京都品川区と目黒区にまたがる「武蔵小山」。全長約800mのアーケードに210の店舗が軒を連ねる「武蔵小山商店街パルム」を中心に、いくつもの商店街が縦横に連なる買い物や散歩の街として知られる。近年は再開発が進み6月には2棟目のタワーマンションが竣工する予定だ。

駅前の再開発をきっかけにタワマンを建設
「のんべえ」の街からファミリー世帯の街へ
近くには林試の森公園や目黒不動といった散策スポットがあり、週末になると地元住民だけではなく、遠方からも多くの人が訪れる武蔵小山。交通の要は東急目黒線の「武蔵小山駅」だ。1923年に「小山駅」として開業したが、東北本線の同名の駅があったことから翌年には旧国名の「武蔵」を冠した「武蔵小山駅」になった。周辺の町名は小山、小山台、荏原、平塚、目黒本町、下目黒などで、武蔵小山の地名はない。

駅周辺には5つの商店街・商店会があり、そのうちパルムは駅前から中原街道まで伸びる都内最長のアーケード商店街。約250の店舗の多くは個人店とで、地域に根差している。すぐそばには「戸越銀座商店街」が始まるので、これを合わせるとかなり長大な商圏。周辺には住宅地が広がっているが、一部のエリアは高級住宅地として知られる。

どちらかというと下町の雰囲気が残るエリアだったが、様子が変わってきたのは、2000年8月のこと。それまで武蔵小山駅は東急線のなかで支線扱いの目蒲線だったのが、目黒線と多摩川線に分割されることに。翌月には目黒線と東京メトロ南北線・都営三田線との相互直通運転を開始したことで、都心とのアクセスはさらによくなった。
これを機に目黒線の大規模改修工事も行われ、目黒駅から洗足駅までの区間で連続立体交差事業が実施され、武蔵小山駅は06年に地下化、09年には駅前広場を整備、その翌年には駅ビルが開業するなど、徐々に雰囲気が変わり始めた。
決定的だったのは、駅前に広がっていたレトロな飲食店街の「りゅえる」が15年に解体撤去されたこと。同所は、せんべろの聖地として昼夜を問わず酔客で賑わっていたが、東洋のしゃれた街並みづくり推進条例による再開発で、ほとんどの店が姿を消した。
その跡地で20年1月に竣工したのが、地上41階、地下2階、高さ144.95m、総戸数628戸の「パークシティ武蔵小山 ザ タワー」だ。同エリアにこれだけの規模のタワマンが建つのは初めてのこと。街のランドマークとして存在感を示している。低層階及び周辺には大型複合施設の「パークシティ武蔵小山 ザ モール」があり、約3200uの敷地にはカフェや飲食店、食料品、クリニック、コンビニ、保育園などの生活に欠かせないサービスが集結している。

武蔵小山のタワマン建設はこれで終わりではない。「パークシティ武蔵小山 ザ タワー」のすぐ隣に、地上41階、地下2階、高さ144.504m、総戸数506戸の「シティタワー武蔵小山」が建設中で、今年6月に竣工を控えている。

低層階には店舗などが入る複合施設もあるようで、緑豊かな広場も設ける予定。ゆとりのある空間になりそうだ。
一方で気になるのは、急増する人口の影響。ただでさえ、「パークシティ武蔵小山 ザ タワー」で住民は増えているのに、さらなる流入。自治体の税収は増えるだろうが、ファミリー層が流入することで医療や介護、教育といったインフラを見直す必要があるかもしれない。
また、現状の駅の規模では、朝の通勤時はかなりの混雑が予想される。同じく「ムサコ」の愛称で呼ばれ、タワマン密集エリアとして知られる「武蔵小杉駅」も朝の通勤渋滞はいまや街の風物詩だが、同様のことが都内の「ムサコ」でも起きる可能性がある。こういった点は、実情を見ながら対策を打つのだろうか。
まだ終わらないタワマン建設
近隣ではさらなるプロジェクトが進行中
武蔵小山のタワマン建設は、これで終わりではない。同じく駅前では「(仮称)小山三丁目第1地区第一種市街地再開発事業」が進行中で、ここには地上39階、地下2階、高さ約145m、総戸数約950戸のタワマン、その隣には「(仮称)小山三丁目第二地区第一種市街地再開発事業」として、地上41階、塔屋1階、地下2階、高さ約145m、総戸数約1000戸のツインタワーが建つそうだ。前者は28年度、後者は29年度竣工予定で、すべてが完成すると5棟のタワマンが駅前にそびえることになる。ムサコと呼ばれる街は、タワマンエリアになるのが運命のようだ。
かつての下町は再開発により、洗練されたエリアに変わりつつある。もともと、周辺に比べると家賃相場の高い場所だが、こうした変化に伴い、さらに付加価値は高まるのかどうかも気になるところだ。
健美家編集部(協力:大正谷成晴)