海水浴場や保養地としての歴史があり、現在もリゾート施設があるなど、一定の観光客需要のある大磯で、新たな観光の核づくりが始まっている。
その目玉となるのが、旧別荘地の活用だ。国土交通省主導で、明治記念大磯邸園設置事業が開始されており、今後の観光需要の増加が見込まれる。
それに伴い、大磯駅周辺の再整備も進行している。
海水浴場、保養地としての歴史がある大磯
近年観光客は増加傾向
明治18年に日本初の海水浴場が開設されて以来、夏場の保養地として栄えた大磯。伊藤博文を始め、大隈重信、吉田茂など数多くの政財界の著名人が別荘を構え、「政界の奥座敷」と呼ばれた。
近年は、大磯ロングビーチやテニスコート、スパなどを備え、リゾート気分を満喫できる大磯プリンスホテルでも知られる。
平成25年には国土交通省の「先導的官民連携支援事業」の選定を受け、「大磯町新たな観光の核づくり基本計画」を策定。大磯町の推進協議会が中心となって、観光の核となる拠点や周遊環境の整備等を進めてきた。その目玉に、旧別荘地の保全と活用が位置づけられ、平成29年には、明治記念大磯邸園横の旧吉田茂邸が再建され、年間観光客数は100万人を突破した。
大磯駅周辺再整備計画の決定
大磯町では、平成13年から大磯駅周辺の再整備計画を構想していた。平成25年に「大磯町新たな観光の核づくり基本計画」の策定を契機に、再整備計画も具体的な検討が急速に進んだ。平成29年には、「大磯駅周辺安全安心・にぎわい創出計画」を取りまとめた。
それによると、駅前ロータリーには歩道が未整備であり、歩行者と車両の通行が分離できておらず、歩行者の安全性の問題がある。また、別途整備を進めている「大磯港みなとオアシス」までの歩行者動線の連続性が不明瞭である。
これらの課題を解決することを主目的として、令和3年8月には、大磯駅前広場整備計画として、ロータリー島の縮小、歩行者通路の拡幅や、車両の通行を誘導するための路面標示などが策定された。
この計画内容を見る限り、大磯駅の駅前が大幅に変わるということはないだろう。ただ、後述するように、「明治記念大磯邸園リニューアル事業」が進められており、観光客の増加によって交通量が増えることを睨んでの整備と考えられる。
また、駅前周辺整備については、約400㎡の旧駐輪場跡地を「にぎわい空間」と位置付けて、駅前の観光拠点となるような施設を整備する方針を立てている。観光案内所の他、飲食、物販などの店舗などを計画しているが、公民連携を検討しており、現在、民間事業者の意向調査を進めている。
国土交通省主導で進める明治記念大磯邸園設置事業
明治記念大磯邸園設置事業は、平成29年に、明治150年を記念して、日本の立憲政治の確立の意義や歴史を後世に伝えるとの目的で、閣議決定したものである。
明治期の立憲政治の確立等に貢献した、伊藤博文、大隈重信を始めとする政界の著名人の旧邸宅の建物群と緑地を、国土交通省と神奈川県、大磯町が共同して整備し、歴史的遺産として一体的な保存・活用を図る。
各邸宅と庭園について、歴史的史料に基づき、復原を含めた修復作業をおこなう。各邸宅と庭園を一般公開するとともに、歴史的資料の展示なども計画している。
現在はまだ整備中であり、公開されているのは、旧大隈重信邸と旧陸奥宗光邸跡の庭園のみとなっている。
なお、旧大隈重信邸は、大隈が購入した明治30年当時の姿を留めており、旧伊藤博文邸も、関東大震災による倒壊後に再建されたものであるものの、いずれも有形文化財に指定されている。歴史的価値の高い各邸宅の内部が公開されれば、観光需要は増加するものと考えられる。
今後、明治記念大磯邸園設置事業の整備状況と、大磯駅周辺整備の進捗状況に注目したい。