
コロナ禍の2020年5月に惜しまれつつ閉館したホテルモントレ横浜。当初は、東京五輪に合わせて8月まで営業を続ける予定だったが、五輪の開催延期と新型コロナウイルスの感染拡大によって、早倒しで閉館することになった。一部のニュースでは廃業のようなニュアンスで伝えられたが、2024年4月の復活に向けて建替え計画が着々と進められていた。

ホテルニューグランドと共に
山下エリアを代表するホテル
ホテルモントレは1986年に創業した全国展開するホテルチェーンだが、中でもホテルモントレ横浜は特別な存在だった。もともとは1979年に米国領事館跡地にザ・ホテルヨコハマとして誕生。ハマっ子に「ザヨコ」として親しまれたホテルは、2003年に世界ブランドのザ・ヨコハマノボテルに変わり、さらに2006年に日本のホテルモントレ横浜として生まれ変わった。


ここから徒歩すぐの場所には、1927年創業のホテルニューグランドが横浜を代表する建築物として圧倒的な風格を漂わせている。しかし、ホテルモントレ横浜は山下公園前という絶好のロケーションと建物の歴史が醸し出す落ち着いた雰囲気によって、気取らずに宿泊できるホテルとして絶大な人気を誇った。


そんなホテルだから建替え計画は否が応でも期待が高まる。12階建ての新しい建物は、港からの品格のある景観を保つために最上階はガラス張りとなり、周囲の建物と共に魅力のあるスカイラインを形成する。客室にはバルコニーが設けられ、オーシャンビューの部屋からは横浜ならではの景色が楽しめる。

伝統的な意匠「角入り」を取り入れ
横浜の歴史的建造物と呼応する
外観において特徴的なのは、歴史的建造物が並ぶ山下・関内エリアの街に溶け込むデザインを採用している点だろう。特にこだわったのは、横浜税関や神奈川県立歴史博物館、情報文化センターなどに見られる「角入り」を踏襲し、格式の高い意匠を創造した点。かつて山下公園と向かい合っていたファサードは、ちょうど北向きに配置されることになる。


気になるのは、ホテルの東に隣接していた1922年建築の旧英国七番館との関係性だろう。もともとイギリスの貿易会社の横浜支店としてつくられた建物で、関東大震災で全焼したものの、外装が残っていたため再建されたもの。その歴史的価値が考慮され、旧英国七番館の高さに合わせて、ホテル側の低層部は造り込まれる予定だ。そして、旧英国七番館の存在が際立つように調和のとれたデザインになるという。


賑わいと落ち着きを創出し
歴史や伝統の価値を再認識
もちろん山下公園通りに並ぶ周囲の建造物との連続性も考慮される。山下公園通りと神奈川県立県民ホール(以下、県民ホール)側の通り沿いには公開空地を設け一部にベンチを新設。周辺の住民がくつろぐことのできる環境づくりが行われる。1階の山下公園通りに面した場所にはレストランが入り、大きなガラスの開口部がせり出すことで店内の賑わいを感じられるように演出する。

また駐車場や車寄せへの動線は山下公園通りではなく、裏手の水町通りや県民ホール側からアプローチすることになり、歴史的な街並みに相応しい配慮がされる。さらに1階の県民ホール側にはコンビニが出店。あわせて水町通り側にサブエントランスを設け、人通りの少なかった県民ホール側の道路や水町通りに賑わいをもたらすことを狙う。


横浜の歴史や伝統を背負ってきた山下エリアゆえに数々の工夫が凝らされ、周辺の文化的価値の向上にも寄与する形で生まれ変わるホテルモントレ横浜。
近年は、ザ・カハラ・ホテル&リゾート横浜が誕生したみなとみらいエリアが注目されている感はあるが、実は古きよき横浜の魅力へ回帰する動きも見逃せない。その流れを加速させるために、ホテルモントレ横浜の建て替えはちょうどよいタイミングなのかもしれない。
健美家編集部