昭和初期建築の歴史的建造物は
大部分を保全してホテルとして活用
計画地は日本郵船歴史博物館が入る横浜郵船ビル(A-2地区)と、戦後に横浜市内で最初に建設された高層ビルの横濱ビル(A-1地区の海岸通り側)があり、アートスペースのBankART Studio NYK(A-3地区、A-1地区の運河側、)と、リノベーションオフィスの創造空間 万国橋SOKO(B地区)があった場所。現在、このうちA-3地区とA-1地区の運河側はコインパーキングに、B地区は更地になっており、横濱ビルは解体している最中である。
2015年に策定された横浜市都心臨海部再生マスタープランでは、国際ビジネス、ホスピタリティ、クリエイティビティという3つの視点から都心機能の強化を行うことが明示。加えて新たな賑わいの拠点づくりや、関内地区とみなとみらい21地区を結ぶ結節点における連携強化が求められている。
こうした基本戦略のもとで、国際ビジネス環境の強化、歴史的建造物の保全活用、回遊・憩い空間の形成、環境負荷低減、防災・減災に資する取組みが行われる予定だという。
A-1地区、A-2地区、A-3地区、B地区に4つの新しい施設ができることになり、大きなトピックとしては、A-2地区の横浜郵船ビルは歴史的建造物ゆえ大部分を保全して、ホテルとして生まれ変わることだろう。
対照的にA-1地区の横濱ビルは地上21階、地下1階、高さ約100m、延べ床面積約72,800㎡の高層ビルにリニューアル。横浜郵船ビルに入っていた日本郵船歴史博物館が移転し、インキュベーション施設や店舗が入るほか、大部分はオフィスとして利用される。
見どころとしては、威厳のある意匠によってデザインされた横浜郵船ビルのコーニスライン(壁の上部を区切るための帯状の装飾)に合わせて、新しく建築される高層ビルには2層分のピロティ空間が設けられること。これによって、横浜郵船ビルの存在感が保たれるだけでなく、歩行者にとっては開放感が感じられるデザインになる。
現在一時的にコインパーキングとして利用されているA-3地区には、低層によるホテルの付帯施設と広場が整備。創造空間 万国橋SOKOがあったB地区は宇徳が所有しており、同社の新社屋として地上8階、高さ約45mのビルが誕生。1階には店舗が入り、こちらのみ2024年に供用が開始される予定だ。
海岸通りや万国橋通りから人を誘う
賑わいを創出する水際空間に期待
観光客や一般の利用者にとって嬉しいのは、回遊や憩いのための空間が整備されることだろう。A-1地区とA-2地区の間には運河へ向かうプロムナードが整備。A-3地区には水際との一体感や海への広がりが感じられる空間が設けられ、あわせてA-1地区とB地区の運河側には賑わいを創出する施設がつくられる。
運河沿いにもプロムナードが整備され、海岸通りや万国橋通りを歩いている人たちを水際空間へ引き込む回遊動線が形成される。
この辺りは日本郵船歴史博物館があり、少し東へ行けば「クイーン」の愛称で親しまれる横浜税関(1934年竣工)がある。さらにその南には「キング」の神奈川県庁本庁舎(1928年竣工)が建つという旧市街を形成。これだけ歴史的建造物が多いエリアにもかかわらず、意外にも観光客が多いという印象は薄い。旧市街の景観を守り続けることで変化が少なく、そのため新しい層を呼び込めていないという課題があったのである。
さらに山下公園と横浜赤レンガ倉庫のある新港地区を繋ぐ歩行者専用の山下臨港線プロムナードに一旦入ってしまえば、像の鼻パーク付近で降りない限り、旧市街のへ足を延ばすことはない。そして、みなとみらい21の新港地区と中央地区を行き来する歩行者のルートは汽車道が定番となっている。
一方で、計画地の対岸にも新港プロムナードと呼ばれる遊歩道があるのだが、多くの観光客は新港地区の中心部へ向かうため、あまり利用されていない面があった。しかし、隣接するエリアでは、横浜地方合同庁舎(仮称)整備等事業が進行し、2023年の竣工時には運河を眺められるデッキテラスが整備される予定だ。
つまり、今回のプロジェクトによって万国橋と新港橋に挟まれた運河は注目されることになり、多くの人を万国橋経由で呼び寄せることが可能になる。
とりわけ何度も横浜を訪れている人や地元の人にとっては、ちょっとした時間をリラックスして過ごせる場所の方が好まれるだろう。そういう観点から考えると、この辺りや隣接する北仲通北地区は今後さらに注目され、旧市街と新港地区を繋ぐ大きな役割を担っていくに違いない。
健美家編集部