「小江戸」と呼ばれ、首都圏の観光名所でもある埼玉県川越市では、伝統的建造物の保存と都市開発が並行して進められている。
市は、交通の要所として栄えたこともあり、鉄道3路線のターミナル3駅を抱えるが、その3駅を都市機能の中心に位置づけている。
人口減少を睨み、3駅を中心としたコンパクトプラスネットワークの形成を目標に、その周辺で再開発が進んでいる。特に、JR川越駅の西口は、近年、再開発が目覚ましい。県や市の行政施設、ランドマークタワーの建設が急ピッチで進んでいるので注目したい。
伝統的建造物の保存と都市開発を並行して進める川越
川越市は、都心から30キロ離れた埼玉県の南西部に位置する。人口は35万人であるが、古代より交通の要衝、入間地域の政治の中心地として栄えた歴史を持つ。室町時代に城下町が形成され、江戸時代には、幕府の重臣大名が藩主となって整備をおこなった。舟運によって流通業、商工業が栄え現在の都市機能の基盤となっており、ベッドタウンのみならず多彩な側面を持つ都市である。
市の中心街の街並みは、江戸時代の面影をとどめ、蔵造り町家などの伝統的建造物が残ることから、平成11年には、中心街の一部を、重要伝統的建造物群保存地区に指定した。歴史・景観資源を保全するとともに、観光業に活用している。

重要伝統的建造物群保存地区は、札の辻を北端とし、仲町を南端とする8ヘクタール弱の地域に、江戸時代の町家や土蔵、近代洋風建築が立ち並ぶ。「小江戸」と呼ばれ、首都圏を巡るバスツアー客など多数の観光客が訪れる名所になっている。
一方、埼玉県南西部地域の広域拠点として、高度な都市機能を充実させるための都市計画を並行して進めている。平成21年に策定された「川越市都市計画マスタープラン」では、市の中心駅3駅周辺を都心核と位置づけ、商業業務機能の充実を図っていくとしている。
市には、JR、東武鉄道、西武鉄道、の3つの鉄道路線が走り、それぞれの路線に川越駅、川越市駅、本川越駅、というターミナル駅を抱える。この3駅が都市機能の中心となっている。
JR川越駅西口周辺の再開発
近年では、JR川越駅の西口周辺で土地区画整理事業がおこなわれて来た。平成22年に策定した「川越駅西口周辺地区基本構想」を下に、西部地域振興ふれあい拠点施設、公的サービス拠点、高次都市機能拠点の整備を計画し、土地区画整理を進めてきた。

西口周辺地域を、駅に近い第1工区と、駅から若干離れるものの国道16号に近い第2工区に分けて進めており、第2工区はすでに平成19年に換地処分が完了している。

第2工区では、埼玉県と共同して「西部地域振興ふれあい拠点整備事業」をおこない、平成27年にはその拠点施設である「ウェスタ川越」がオープンした。ウェスタ川越には、県や市の行政施設のほか、最新鋭の舞台機構・照明・音響設備を備えた1,700席の大ホールが設けられている。
平成28年には、「ウェスタ川越」に隣接して、民間の商業モール「ウニクス川越」も開業した。2階には三越百貨店の小型店舗が入っている。

第1工区でも、令和2年には、川越駅直結、地上11階建てのランドマークタワー「U−PLACE」がオープンした。高層階には東武ホテル、低層階には、行政機関や金融機関、クリニック、商業施設が多数入っており、生活やビジネスの利便性がますます高まったといえる。
中心3駅では、国の社会資本整備総合交付金を活用して、都市再生整備計画が進む
川越駅西口周辺のみならず、川越駅を含めた市の中心3駅周辺では、平成22年から、国土交通省の「社会資本整備総合交付金」を活用して、集約型都市構造を実現するための都市基盤整備をおこなっている。
人口減少と少子高齢化を見据えて、持続可能な都市経営を可能とするべく、コンパクト・プラス・ネットワークの形成に向けて、公的不動産活用による都市機能誘導施設の整備、道路等都市基盤の整備、交通結節点整備による公共交通の維持・強化などを図っている。
具体的には、道路や駐輪場などのインフラ整備が主たる内容だが、歴史的建造物の整備も含まれているのが特徴だ。

令和4年度からは、川越駅西口の市有地を利活用して都市機能誘導施設等の維持、誘導に力を入れる。
現状更地になっている川越地方庁舎跡地に、大規模な広場を整備する計画も始まっている。郊外都市とは言え、首都圏ベッドタウンのターミナル駅がこのような規模で再開発されるのは珍しいといえる。今後の賃貸市場などにも影響を与えると考えられ、注目したい。
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取材・文:
(さとうえいいちろう)