東京都が6月29日、東京メトロ有楽町線の延伸事業「豊洲~住吉間」(8号線)ついて2018年度内に事業の枠組みを決めることを表明したと一部マスコミで報じられた。
8号線延伸は、2000年の国の運輸政策審議会で、2015年までに整備着手することが適当と答申。しかし、約1420億円に上る巨額の建設費用や、民営化後の東京メトロが新線建設は行わない方針を出したため、実現に向けての動きが頓挫していたものだ。
新線の建設には、整備主体と営業主体を分ける「上下分離方式」のスキームが適用されるようになっており、整備主体をどのようにするかなどが議論となっている。
しかし今回、東京都が今年度中と期限を切って事業の枠組みを決めることを表明したことで地元では期待が膨らんでいる。
江東区が今年3月に発表した整備計画に関する報告書では、豊洲~住吉間の輸送人員は1日27万8000人、年間の運輸収入を58億3000万円と見込み、経済波及効果は4028億円とはじいている。
この地下鉄の延伸に、地元住吉エリアでは歓迎の声が溢れる。そもそも江東区は、豊洲や有明など湾岸埋め立てエリアの開発が進んできたことに加え、2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催を前にさらに開発が進んでいる。
豊洲地区は、10年~15年ほど前は分譲マンション価格の一坪当たり170万円程度だったが、いまでは300万円を超える人気エリアとなった。大手不動産が大型商業施設を開発したり、オフィスビルの開発が進んでいる。
江東区内陸に新築物件を開発する用地を探すのが難しいものの、湾岸エリアはまだまだ開発余地が大きい。
江東区内の地元住民からは、「区内に南北格差が広がっている。埋め立て地の湾岸エリアは新たな住民が居を構えて街の整備が進んで利便性が年々改善してきているが、区内北にいくほど街の刷新に取り残されている感が強い。
新参者を優遇し、昔から住んでいる〝江戸っ子〟をないがしろにしている」(70代男性)との声が少なくない。
江東区内には、都営新宿線、半蔵門線、東西線、JR京葉線、有楽町線が横断する形で通っているが、豊洲から錦糸町方面に向かう縦断網が整備されておらず、縦の動きには都営バスの活用しかない不便さを訴える声が多い。
8号線の整備により迂回ルートを使わずに済むようになれば、この南北間の移動時間が大幅に短縮される。現在、豊洲~錦糸町まで乗換2回24分、乗換1回39分かかるところを乗換1回16分にまで縮まる。住吉からならば乗り換えなしで15分かからない。
バスは乗り換えなしだが35分かかる上に交通の込み具合で時間が読みづらい。8号線の開通は区民の悲願となっている。
とりわけ住吉エリアは地域の活性化に期待を寄せる。
今回の豊洲~住吉間は、住吉駅(半蔵門線・都営地下鉄線)と東陽町駅(東西線)の間に新駅を作り、東陽町と豊洲駅(有楽町線)の間に新駅をつくる構想。路線延長は約5.2㎞。この縦ラインが開通することに対する期待は大きい。
そもそも住吉は半蔵門線で大手町まで10分の距離にあり、銀座まで14分、渋谷まで28分で出られ、都営新宿線からは新宿まで16分に位置する都心アクセスの良さが評価されている。このため、住吉駅から徒歩10圏内では分譲マンションの開発が相次いでいる。
住吉駅徒歩1分の場所には、地上10階建てと15階建ての店舗併用マンションの開発が進められている。それぞれ来年7月31日、12月25日に竣工する。
大成有楽不動産は、同徒歩3分の立地に「オーベル住吉マスターテラス」(総戸数70戸の分譲マンション)を開発中だ。もともとあった賃貸マンションを取り壊してのプロジェクト。こちらも来年12月上旬に竣工する予定だ。
名鉄不動産は、住吉駅から徒歩7分の場所に創業60周年事業として、地上15階建て延べ4万601㎡、総戸数444戸の大規模マンション「メイツ深川住吉」の建設を進めている。
3階建ての共用棟には、ミーティングやゲスト対応、キッズ、パティ―に使えるスペースを配置するほか、TSUTAYAとのコラボレーションによって約1万冊を蔵書するライブラリーを併設し、2020年3月中旬に完成する。
これらに加えて、築古の戸建てがあった場所に賃貸マンション・アパート開発も相次いでいる。
中古マンションの相場も上昇しており、東京カンテイのデータを見ると、江東区内は2012年の坪173.5万円を底値に右肩上がりが続き2016年上期で224.5万円となっている。
遅行指標である国土交通省の公示地価や国税庁の路線価が上昇していることを踏まえると、足元ではさらに高くなっているのは必至。
住吉駅周辺の中古マンションの販売価格も高止まりが続いており、江東区の住吉や毛利、猿江、墨田区の江東橋5丁目など駅から徒歩5~6分圏内は築20年でも坪単価が200万円を超えている。
賃貸マンションは築9年の1LDK(39㎡)の月額賃料は14万円弱、25㎡以下のワンルームでは9万~10万円が相場のようだ。
「いま東京は、東京オリンピック・パラリンピック病になっている。ここまで地価が上昇すると、五輪後に地価が落ち込むのは自然の成り行き」(全国宅地建物取引業協会連合会の坂本久会長)と言うように、アナリストなども含めて不動産マーケットの専門家は五輪後に地価が下落し、不動産価格も落ち込むと予想している。
しかし、そうした中にあって、今回の「豊洲-住吉間」(8号線)が開通するのであれば、住吉エリアの資産価値はアップ、或いは維持されやすいと言える。地元の宅建業者も五輪後に資産価値を維持する街、数少ない地盤沈下しない街として見ている。
健美家編集部