今回は、豊島区役所の周辺(南池袋、東池袋地区)の大規模再開発事業について紹介する。池袋で創業74年、地元新栄堂書店の柳内崇社長にお話を伺った。
■消滅可能性都市の屈辱
2014年5月豊島区は23区で唯一、「消滅可能性都市」と指摘された。これを脱却するため、豊島区は、高野区長のもと、緊急対策本部を開き、魅力的な街づくりに取り組んでいる。
「豊島区国際アート・カルチャー都市構想」「としま100人女子会」などユニークな施策を掲げ、行政と民間が一体となったプロジェクトが進められている。翌2015年には11事業、約8800万円を予算化、妊娠・出産の相談や「子育てナビゲーター」の設置など、子育てしやすい環境の整備を始めた。
2016年には対策の中心となる「女性にやさしいまちづくり担当課」を設置し、その長を民間公募し、宮田麻子さんが就任。前職においてマーケティング職や、大手グローバル企業の広報などを務めてきた経験を活かし、現在、豊島区のまちづくりの中心的存在として、様々なプロジェクトのかじ取りをしている。
※「消滅可能性都市」とは、人口流出、少子化が進み、存続できなくなるおそれがある自治体を言います。

写真手前側の敷地で大規模な再開発が予定されている。(南池袋2丁目再開発予定地、2020年6月撮影)
■池袋のポテンシャル
池袋駅は、JR東日本線、東武池袋線、西武池袋線、東京メトロ(丸ノ内線、有楽町線、副都心線)が通る。1日の平均利用客数は264万人。
JR東日本の利用客数は新宿駅に次ぎ、第2位となる。駅周辺には、多くの百貨店、商業施設があり、多くの人で賑わっている。だが、交通の利便性は良いが、池袋駅を乗換だけで通過していく人は多い。学生など単身世帯は多いが、転出入が多い。子どもが遊ぶ大規模公園が少なく、ファミリー向け住宅も少ないなど。2014年の日本創生会議では、「定住率が低く、若い女性が少ない」という問題点を指摘された。
また街づくりでは、新宿や渋谷に比べて、再開発面で出遅れていた。人口の増加傾向からみると、豊島区は消滅危機に直面しているわけではないが、将来をみすえた、魅力的なまちづくりの対策が必要であった。


■地元老舗書店が語る池袋
新栄堂書店が池袋に誕生したのは、戦後間もない1946年。「祖父がリヤカーで神田まで本を仕入れ、戸板の上に本を並べて売ったのが始まりです。」3代目の柳内崇社長(52)は語る。
当時の池袋は、雑司が谷霊園も近く、江戸のはずれのイメージ。街の形もまだなく、駅前では闇市が横行していたという。崇さんの父親の時代は、高度経済成長時代で書店も拡大路線であった。
だが、地元で長く愛され続けてきた駅前の新栄堂書店本店は2006年、サンシャインシティ内のアルパ店は2017年5月に、崇さんが閉店を決断した。現在は、再開発が進む「豊島区役所」近くで営業を続けている。
「池袋は、物価も家賃も安く、住みやすいと思いますよ。大学も多いので、学生さんも多いですね。だが数年後、「本社(新栄堂書店)のあるこの周辺の景色は様変わりしますよ。」と崇さんは言う。
2015年49階建ての大型ビル内に豊島区役所が移転。東京メトロ副都心線も延伸。有楽町線の東池袋駅と接続予定。そして更なる大規模再開発で、50階建て越えのタワーとモールが建設の予定。
「もともと池袋は、自然、緑、文化(アニメ、おたく、文学)の街だったんです。再開発では、池袋の良い面を生かしつつ、自然、公園、広場、空間、劇場などを意識した、住みやすい街に整備されます。」とのこと。古くからの地元の方にも、新しく生まれ変わる池袋への期待感は大きいようだ。



開発予定のB街区、C街区には50階以上のタワーが3棟建設予定。
●南池袋二丁目B地区市街地再開発
豊島区役所のある超高層タワー「としまエコミューゼタウン」(A街区)の南側のブロックで進行中の再開発プロジェクト。超高層のA棟と低層のB棟・C棟で構成され、超高層のA棟は高さ約195m、地上57階建てとなる。
2022年度着工、2025年度竣工を目指している。住宅・オフィス・商業施設・保育施設等
木造住宅密集地域の改善を行なうとともに、豊島区役所等の防災拠点と連携した防災機能を導入し、災害に強いまちの実現を図る。
●南池袋二丁目C地区市街地再開発(北街区、南街区)
街区再編による道路、広場及び歩道状空地とあわせて、東京メトロ有楽町線東池袋駅に接続するバリアフリーの地下通路と地下広場を整備する。
地区面積は約1.7ha、施設の延面積は約189,410m2。I-I街区(北街区)とI-II街区(南街区)からなり、階数・高さは、I-I街区が地下2階/地上53階・約190m、I-II街区が地下2階/地上50階・約185m。2025年に建物竣工予定。

●としまみどりの防災公園(造幣局跡地)
柳内さんが次に案内してくれたのは、造幣局東京支局跡地の広大な敷地。池袋駅東口を出て、さらにサンシャインを超えたあたりである。造幣局は2016年10月に閉鎖。
2020年7月に「としまみどりの防災公園」と「としまキッズパーク」がもうすぐ開園予定。「池袋保健所」はすでに移転している。防災公園については、地域住民との共同で街づくりについて検討が行われていた。「災害に強い文化と賑わいを創出する街づくり」の象徴となるビックプロジェクトとのこと。

●東京国際大学の新キャンパス(造幣局跡地)
埼玉県川越市にある東京国際大学が、造幣局跡地に「池袋国際キャンパス」を開設することが決定。3,500人の移転を予定している。2023年9月に開校予定。
川越キャンパスと池袋国際キャンパスは、東武東上線・有楽町線一本で接続できる立地。「池袋国際キャンパス」と名付けた新キャンパスでは、同大学の特徴である国際色を強調したカリキュラムが組まれる。3500人のうち2000人を留学生とすることで、同大学のグローバル化を進め、池袋はその拠点となる。


●Hareza池袋
池袋駅東口の豊島区役所庁舎跡地に完成した新複合商業施設。ミュージカルや伝統芸能を公演するホールや、アニメ、サブカルチャーを楽しめる空間など個性の異なる8つの劇場を備える。
2019年に竣工・開業した「東京建物ブリリアホール(Brillia HALL)」(ホール棟)、そして「としま区民センター」および「中池袋公園」を含めたエリア全体を指す。「中池袋公園」は、アニメファンの女の子たちの交流の場。コスプレイベントの会場として連日賑わっている。
「ハレザ タワー(Hareza Tower)」オフィス棟は、7月1日グランドオープン。7月3日(金)より「TOHOシネマズ池袋」がオープンしている。
●豊島区立トキワ荘マンガミュージアム
2020年7月7日、「トキワ荘マンガミュージアム」がオープンした。手塚治虫氏、赤塚不二夫氏、石ノ森章太郎氏、藤子不二雄両氏ら昭和を代表するマンガ家が若手時代を過ごし、1982年(昭和57年)12月に解体された伝説のアパート「トキワ荘」を「当時の姿を忠実に再現」したミュージアム。
豊島区では地域と一体となり、トキワ荘マンガミュージアムを中心に、回遊性を持たせたマンガによる街づくり「南長崎マンガランド事業」を進めており、ミュージアムに面するトキワ荘通りには、ミュージアムグッズが購入できる「トキワ荘通りお休み処」、トキワ荘ゆかりのマンガ家たちの作品を手に取って閲覧できる「トキワ荘マンガステーション」がある。
●都電荒川線とIKEBUS(イケバス)
南池袋市街地再開発地区(東京メトロ東池袋駅周辺)には、昔ながらの都電荒川線が通る。また2019年、池袋副都心内を安全に快適に移動できる新たな移動サービスとして、環境に優しく池袋を象徴する乗りたくなるような「電気バス(イケバス)」が開業。
Aルートでは、池袋駅東口、Hareza池袋、南池袋公園、東池袋駅、サンシャインシティ、豊島区役所を循環する。


■南池袋、東池袋地区の将来性について
祖父の代から、池袋で書店を経営し、池袋の街と一緒に歩んできた柳内崇さん。ご自身も池袋の大学に通い、池袋エリアの歴史、文学、文化と向き合ってきた。
インターネットの影響で、本や書店の衰退は避けられない状態ではあるが、「豊島区国際アート・カルチャー構想」には期待を寄せている。
実際、街には劇場、公園、空間、広場が増え、イベントやコンサート、パレードも行われ、若い人が街に増えてきたことを実感している。これから、高層ビルやタワーマンション、大学が出来ることで、街に人は増え、さらなる賑わいを見せるはず。これからの豊島区、池袋エリアに注目してほしい。
(取材協力)
会社名 株式会社 新栄堂書店
創業 昭和21年(1946)1月11日
代表取締役 柳内 崇
本社 〒171-0022 東京都 豊島区 南池袋2-47-2ワイズビル9階 03-5396-5151
取材・文 和田野学
【プロフィール】(株)リクルートで住宅情報事業部、(株)リクルートスーモカンパニーで不動産広告事業に携わる。首都圏、関西、広島、九州エリアの営業、取材活動を通じて、多くの不動産デベロッパー、ハウスメーカー、地元不動産会社とのパイプを持つ。現在は会社経営。