コロナ禍のため、まちびらきの各種イベントが行われないままにオープンした立川駅周辺では最後となる大規模開発、GREEN SPRINGSの評判が良い。
これは駅北側の3.9haという敷地にホテル、オフィス、商業施設にホールを備えたもので、敷地中央には全体面積の4分の1近くを割いて設けられた1haの広場が設けられている。
駅に近い場所での大規模開発といえば近年はタワーマンションが定番だが、在日米軍基地の横田飛行場、自衛隊の立川飛行場に近いことから高層建築物は建てられない。また、国有地落札時の条件として住宅不可かつ文化施設を作ること等の要件があったことから、住宅を含まない開発となった。
それだけでも他の開発とは異なる部分が大きいが、現地に行ってみるとそれ以上に他の開発との違いが分かる。都心ではまずあり得ないほど土地を贅沢に使った、緑の豊かな空間になっているのである。通路の広さといい、中央に設けられた緑地部分といい、ひとつの公園と言っても良いほどなのである。
これには前述の要件に加え、この開発に当たったのが立川の大家である立飛ホールディングスである点も大きい。どうやら、この街区単体で大きく儲けようというのではなく、立川という街全体の価値を上げることで最終的に自分たちの利益にも繋がるという、長期的な展望の中にこの開発が位置付けられているように見えるのである。
1924年創業の立飛ホールディングスは元々は軍用機メーカー。終戦後、接収された工場その他の土地や建物を活かして1976年に不動産業に転じたもので、同社が所有する敷地は約98万㎡。
同社ホームページによると、これは東京ドーム約21個分。立川市全体の広さの約25分の1にあたり、しかも、それらの土地のほとんどは立川市の中心部、立川駅から約2km圏内に位置している。
同社は2015年以降、ららぽーと立川立飛、人工砂浜を備えたタチヒビーチ、男子プロバスケットボール・Bリーグのアルバルク東京の本拠地アリーナ立川立飛などまちの賑わいに資する施設を次々に作ってきており、不動産を使った街の底上げに大きく寄与している。当然、今回もその流れの一環として計画されたはずである。
土地の使い方が贅沢なだけでなく、時節に合っているという点も挙げておこう。GREEN SPRINGSは「ウェルビーイングタウン」を謳っており、これは「心にも体にも健康的なライフスタイルをテーマ」とするもの。
well-beingはWHOの提唱する身体以外を含めた幅広い意味での健康を意味するところから始まり、今では広く使われてはいる言葉。精神的、社会的にも良いコンディションで過ごせる場であることを意図しているといえば多少は分かりやすいだろうか。
GREEN SPRINGSの場合でいえば、単に便利に買い物ができるだけではなく、自然を感じてリラックスできる、遊びを通じてコミュニケーションを楽しめる、芸術と触れ合って心が安らぐその他、五感に快い場として作られているように思える。
その一環だろう、外部空間を上手に使っており、それがこのところ求められている密を避ける点でもうまく機能している。具体的には中庭に点在する東屋やベンチ、オフィスのバルコニーなど。6月にオープンしたSORANO HOTELも同様に昭和記念公園に向いた開放的なバルコニーが売りだ。
個人的には公園の借景の活かし方がうまいと思う。ホテルもだが、もうひとつ、公園側にあるバーも大きな窓から緑、敷地内が望めて気持ちの良い空間となっている。
バーに隣接するスカイデッキでも同様の眺望が楽しめるので、今後、立川の人気スポットになっていくだろう。また、それ以外でも絵になる、今の言葉でいえば映える場所が多いのもポイント。自らPRしなくても来場者が勝手に宣伝してくれるはずだ。
もうひとつ、GREEN SPRINGSが立川駅周辺全体のバランスの良さ、多様性に寄与する点も挙げておきたい。
中央線沿線には中野以降、高円寺、荻窪、西荻窪などと人気の街が並ぶが、それ以上に吉祥寺の人気が高いことは多くの人がご存じだろう。では、なぜ、吉祥寺がそれほど人気なのか。非常に簡単に言ってしまえばもっとも多様性があるからである。
どの街にも商店街があり、飲食店が集まり、路地がある。だが、そこにプラス大型店があり、公園もあるのが吉祥寺である。都市の魅力は多様なモノ、人が集まっていることなのである。
その観点で立川駅周辺を見ると北口側には百貨店などの大型店あり、昔からの商店街あり、オフィス街あり、ホテルあり、映画館あり、広大な昭和記念公園あり、少し離れれば市役所を始めとする行政機関が集まる一画、そして、そこにGREEN SPRINGSである。これまでとは異なるタイプのホテルに、大きなホールである。さらにモノレールを利用すればショッピングセンターなどもある。
また、南口側は北口側とはかなり趣きが異なる街となっており、ウィンズ、猥雑な雰囲気もある飲み屋街など。このように駅周辺だけでもかなり多様で、これは今後、地元で仕事をする動きのある中では強みとなって来るはず。
さらに多摩全域で見ると、大学など学校が多いこともポイントだろう。若い人が多いのである。実際、来街者もカップル、小さな子どもを連れたカップルに若いグループが中心となっており、地域全体の活気が感じられた。都心部からすれば土地価格、住宅価格などが手頃であることも含めると、まだまだ面白くなりそうである。
健美家編集部(協力:中川寛子)