
■東京副都心(渋谷、池袋、新宿)
都心の様々なエリアで、開発のすすむ巨大都市東京。六本木、お台場、虎ノ門、日本橋など。商業施設、オフィスビル、住宅などの大規模な街が次々に誕生している。
その先駆けとなったのが、今から約60年前に策定された「副都心計画」。都心に集中している首都機能を分散させようと、渋谷、新宿、池袋が「副都心」と位置付けられ、開発計画が進められた。現在の東京メトロ「副都心線」は、渋谷、新宿、池袋を通ることにちなんで名付けられた。
駅前に大規模なビルが続々完成する渋谷。豊島区役所周辺で、これから大規模な開発が行われる池袋。渋谷、池袋に比べ、動きのなかったように見えた新宿。だがこの夏、オフィスビルが生まれ変わり、公園が整備され、新たな人の流れも加わった。さらに今後も大規模な開発プロジェクトを控え、大きく変わろうとしている。
■新宿高層化の歴史
西新宿の高層化の計画は、渋谷、池袋に比べても早かった。1960年、「新宿副都心計画」によって、淀橋浄水場跡地に、総合ビジネスセンターを建設する一大国家プロジェクトが動き出した。
新宿駅西口を扇の要に、北は青梅街道、南は甲州街道、西は十二社通りに囲まれる地域(96万u)に、広場、地下道、公園、宅地、建築物の全てを建設。約7mの高低差を活かした歩車分離の街区、11区画のスーパーブロック宅地が築造された。計画建物の周囲に空地を確保し、良好な環境を有した建築物とすることで、容積率の緩和を図る「特定街区制度」を適用し、超高層ビル建設が実現した。
・1971年に初めて誕生した高層ビルは「京王プラザホテル」
・1974年「新宿住友ビル」完成を皮切りに、超高層オフィスビルが次々完成。
・1991年春、東京都新庁舎が完成。高さ243m、国内で最も高いビルに。
それにともない、新宿は「東京副都心」を象徴する街となった。


■2020年、新しい新宿副都心へ
1960年の都市計画決定から60年が過ぎ、「還暦」を迎えた新宿副都心。他のビジネスエリアとの競争が激化する中、新宿の新たなチャレンジが始まる。その先駆的なプロジェクトが、住友不動産による「新宿住友ビル・大規模リノベーション」だ。
@ 新宿住友ビル
2020年7月1日。「新宿住友ビル・三角広場」がオープンした。設備更新や耐震性強化だけでなく、足下の青空公開空地にガラスの大屋根を架けて、全天候型のイベント空間「三角広場」を創出。
日本初の超高層ビルの大規模リノベーションだ。ガラス大屋根の内側は、最大天井高25m、陽光の降り注ぐ、約6500uの無柱大空間となる。イベントスペースでは、最大2000名の多彩なイベント開催が可能。スポーツ、音楽、フード、展示会など。365日、晴雨寒暖に対応した空調空間。4k、564インチの大型ビジョン、VIP控室も装備。

前例のないリニューアル計画は、1996年から2016年に及び20年構想。工期も2017年から3年に及ぶプロジェクトであった。当初は法的な規制があり、公開空地に大屋根を架けることは難しかった。だが東北の震災を経て、2016年「国家戦略特区事業」の認定を受けたことで、本格的に動き出した。
「平時は賑わいを、有事の際には、帰宅困難者の受け入れ施設」となることで、従来の都市計画を変更。既存ビルを残しながら、新たな機能を付加する「生まれ変わり」の事業となった。

これにより、
●国際ビジネス環境整備や観光都市としての魅力向上。
●最大収容2000名の賑わいあるイベント空間
●都市防災力の強化。耐震性強化や非常用発電機の実装。防災備蓄スペースの確保。大規模な帰宅困難者受け入れ施設(2850名)
●既存ストックの活用による賑わい再生と、都市の持続可能性を示す拠点に。
これからの西新宿は、オフィスワーカーだけでなく、ファミリーや観光客など、新たな人の流れを呼び込むことが期待されている。
A新宿中央公園「シュクノバ」
住友新宿ビルから新宿中央公園に向かって歩くと、2020年7月16日に開業した交流拠点施設「シュクノバ」の新しい建物が見えてくる。緑も多く、きれいに整備された公園内。ここのテーマは「スポーツ」。ヨガやボルダリングを楽しめるスポーツクラブには、公園内を走るランナー用のシャワーなどを備えたランステーションもあり、同じ敷地内にはカフェやレストランも併設されている。
利用者は副都心の超高層ビルで働くオフィスワーカーらや、近隣のタワーマンション居住者らが想定される。五輪は延期となったが、スポーツを軸に新宿をリフレッシュさせる計画であった。

B 新宿駅東西自由通路
渋谷や池袋と比べ、街としての話題性で劣勢だった新宿。だが、JR東日本も動き出した。2020年7月19日、新宿駅の東西自由通路が開通。これまで東口から西口へ向かうには、入場券を購入して改札内を通るか、東京メトロ丸ノ内線に沿って地下街「メトロプロムナード」を経由し、大回りする必要があった。
これにより、直線での往来が無料でできるようになり、プロムナード駅東西の行き来の時間が、大幅に短縮される。新宿駅はJR東日本のほか東京メトロ、小田急電鉄など計6社の路線が乗り入れており、1日の乗降客数は350万人を超え世界一の規模だ。自由通路の整備は、こうした大規模ターミナルの回遊性を高めるため2012年に着手。総事業費は122億円。完成までに8年。JR東日本、国、新宿区によるビックプロジェクトだったのだ。

■新宿周辺今後の再開発計画
新宿周辺では、今後も大規模な再開発計画が予定されている。主なものを以下に紹介する。
@ 新宿グランドターミナル(260m級のツインタワー)
新宿駅東西の駅ビルが、超高層ビルへ建て替えられ、線路上空に人工地盤が整備され、シンボリックな広場空間「新宿セントラルプラザ」が計画されている。
低層部には現在のサザンテラス・バスタ新宿・新宿ミライナタワーの低層部のような歩行者の滞留・回遊空間「新宿テラス」が整備される。
新宿駅西口のターミナルデパート小田急百貨店新宿店と、新宿ミロードを建て替えて、高さ約260m、地上48階建ての大規模超高層複合ビルに。(新宿駅西口地区開発計画2029年度完成予定)
小田急百貨店新宿店に隣接する京王百貨店新宿店や、東口側の駅ビルルミネエスト新宿なども建て替えが行われる。高さ約260mで構想。小田急と並んでツインタワーとなる。
新宿駅西口ではその他にも西口ロータリー前の明治安田生命新宿ビル再開発などが動き出すほか、ヨドバシカメラも新宿店の再開発を構想しており、新宿駅を中心に大規模な開発が進む予定だ。
A 歌舞伎町一丁目地区開発計画(新宿TOKYU MILANO再開発計画)
新宿歌舞伎町エリアでは、「新宿東宝ビル」や「アパホテル新宿歌舞伎町タワー」など新たな高層ビルが開発された。さらに新宿ミラノ座跡地で再開発「歌舞伎町一丁目地区開発計画」が進行中だ。地上48階建て・歌舞伎町では最高層の高さ225mのホテル・映画館・ライブホール・店舗で構成される複合高層ビルが計画されている。(2019年8月着工。2022年8月に完成予定)
B 西新宿五丁目北地区防災街区整備事業(住友不動産)
住友不動産による2棟のタワー。東側に十二社通り、北側に青梅街道、西側に神田川が流れる広大な敷地。A棟はオフィス主体(35階、159m)、B棟は住宅主体(35階、131u)。2020年10月竣工予定。「ザ・パークハウス西新宿タワー60」の隣接地となる。


C 西新宿三丁目西地区市街地再開発事業(国内最高層の超高層マンション計画)
新宿区西新宿3丁目。現地は,新宿パークタワーの隣接地。木造住宅が密集している地域での再開発計画。65階建、高さ235mのツインタワーで総戸数は約3200戸を予定。国内最高層の超高層マンションとなる。2022年以降に着工、最終的な完成は2028年度を予定。


■さらなる巨大都市新宿へ
1960年に超高層計画がスタートしてから60年。2020年のオリンピックに向け、街の整備は進められていた。そして、更なる開発は、新宿駅ビル、歌舞伎町、西新宿など広範囲に渡る。いずれの地区も、超高層タワーの建設が目白押しである。新宿は、オフィス+商業施設+住宅の「職住接近エリア」として、今後も注目されるのは間違いないだろう。
(取材協力:住友不動産)
取材・文 和田野学
【プロフィール】(株)リクルートで住宅情報事業部、(株)リクルートスーモカンパニーで不動産広告事業に携わる。首都圏、関西、広島、九州エリアの営業、取材活動を通じて、多くの不動産デベロッパー、ハウスメーカー、地元不動産会社とのパイプを持つ。現在は会社経営。