東京代々木に2011年にオープンした「代々木VILLAGE」が12月29 日で閉館となる。借地の期間が終わるためである。
山手線代々木駅改札から2分も要しない立地。それなのに「隠れ家的」な場所として、あるいは「都会のオアシス」として根強く支持されてきた。閉館を前に、改めて「代々木VILLAGE」を紹介する。

「代々木VILLAGE」は、改札を出てもその気配を感じることはない。駅前の交差点に立ってみても、小さなビルが立ち並んでいて特に目を引くものもなく、長い期間変わりがない風景のままである。
恐らく、首都圏で40歳台以上の世代であれば、代々木と言えば代ゼミ(代々木ゼミナール)を思い起こす人も多いだろう。
当時は、駅前の交差点を渡れば、代ゼミのビルがいくつも立ち並んでいて、模擬試験や夏期講習にと、代々木詣でをしたことがある方が多いだろう。
しかし、12年前に南新宿に代ゼミはタワーを建設して中心をそこに移し、その後、厳しい競争から縮小傾向となって「予備校の街代々木」ではなくなった。
それでも、今でも代ゼミは代々木駅前に校舎一つと中学受験に特化した校舎を一つを有していて、「代々木VILLAGE」は、この二つの校舎の間に立地している。
実は、「代々木VILLAGE」の土地の所有者は代ゼミなのである。


広さは、634坪。駅から直線で100メートル足らずである。公示路線価は、2つの校舎が接するメイン道路が平米当たり511万円、その道からほんの少しだけ入った場所が入り口となっている。

建蔽率80%、容積率400%。特別用途地区に指定されていて、なんと第2文教地区。つまり、風営法の適用業種、ホテル、劇場などの建設は制限されている。もう一つのネックは土地の形状が、L字形である点である。
代ゼミが、この土地を2011年になぜ期間限定で貸し出すこととしのか判然としないが、結局、当初の契約より2年間延長している。


「代々木VILLAGE」の最も愉快な点は、まるで植物園のなかに飲食店や物販店があるというユニークさである。そして、そこら中にある植物が、これまでに見たことがないものばかりなのである。それらが、しっかりと日本の土地に根付いていることが、とても不思議に感じる。


聞けば、世界中を回って収集した植物を日本に送って育てたということである。これらを一つ一つ見て回るのも楽しい。それぞれに説明書きがあって、それはよくある通り一遍の説明でなく、どこか小説じみた文章にて紹介をしている。
この森のような雰囲気のなかで、お茶をしたり食事をしたり出来るのが素晴らしく、「都会のオアシス」という言葉が本当に相応しい。
入り口近くは白いコンテナを使った物販や飲食店が並ぶ。L字の土地の形状を上手く使っていて、L字を曲がると一段と木々に囲まれた感じになって、そこには本格的なレストランとバーがあって、この秘密の場所的な雰囲気に、誰もが歓声をあげてしまうだろう。


プロデュースしたのは、株式会社 KURKKU。ミュージシャンや、プラントハンター(そら広場)などユニークな方々がコラボして作り上げたとのことである。
開業当初のインタビューを見ると、「原宿と新宿に挟まれた代々木は真っ白なキャンバス。これまで代々木に食べに行こう、遊びに行こうと言われなかったこの街が変わったら面白いと思った」と意気込みを語っている。

お店に聞けば、顧客のリピート率はかなり高いらしい。インスタ映えもするし、何より、こんな場所を知った、知人にも教なくては、という気持ちにさせられてしまう。また、地元の方々にも強く支持されているとのことだ。
かなり惜しまれての閉館ではあるが、9年間の実験はどうであったか。
関係者によると、植物はとりあえず他の場所に移し、建物もいったん取り壊すことまでは決まっているが、フェーズ2として新たな取り組みをこの場所で行うかどうかは、まだ決定していないとのことだ。
コスト面を考えれば、建物自体にはお金をかけていないようだが、100種類もの海外の植物を維持管理することは大変そうだ。それでも、更地にして、そのままオフィスビルやマンションを建てる、という路線ではないらしい。
「代々木VILLAGE」は、大きくPRして来なかったためか、これまで知らずに居た方も多そうだ。
これからイベントも目白押しで、フィナーレに向けて盛り上げているところ。まだ、一度も訪れたことのない方は、是非、訪問されたい。一見の価値あり、である。
健美家編集部(協力:多摩北部)