2012年、押上に東京スカイツリーが完成した。東京の下町のイメージであった墨田区が一躍注目を浴びることになる。
押上や錦糸町には、新築マンションが次々に建設され、商業施設も充実してきた。コロナ前は、国内だけでなく海外からも観光客が集まり、ファミリー層の転入も増加し、街も賑わいも見せている。


だが、墨田区は東京23区で唯一大学がなく、大学誘致が悲願であった。区は、地域で快適に暮らせる「すみだ」を目指し、職・住・学・遊が調和したまちづくりを計画的に進めていた。
長期にわたる大学誘致の結果、令和2年4月にiU 情報経営イノベーション専門職大学(以下iU)が開学、令和3年4月に千葉大学デザイン建築スクールが開設される。
大学が出来ることで、多くの若者を区内に呼び込み、地域経済の活性化や街の賑わいの創出につなげる狙いだ。また、大学の持つ資源を存分に生かし、産業振興や防災力の強化等、区の課題を共に解決するパートナーとしての役割への期待も大きい。
■墨田区の大学誘致計画
(1) iU(旧西吾嬬小学校、曳舟中学校跡地)
2020年4月。ICT業界にたくさんの技術者を輩出してきた電子学園が、iU 情報経営イノベーション専門職大学を旧西吾嬬小学校、曳舟中学校跡地に開学した。
“全員起業にチャレンジ”をテーマに、インターンシップやイノベーションプロジェクトを通じ、革新を創造する実践力を身に付けることを目的とした大学である。従来とは全く新しいタイプの大学として話題になっており、産業界からの注目度も高い。
(2) 千葉大学墨田キャンパス(旧すみだ中小企業センター)
2017年3月、千葉大学と墨田区の包括連携協定締結の記者会見にて東京都墨田区に新キャンパスを設ける構想が明らかになった。
工学部の新事業として、2021年にも始動させる教育プログラム「デザイン・建築スクール」の拠点となる。留学生を対象に日本の文化や最先端技術を学ぶ場も展開する。
都内への拠点開設で優秀な教員や学生を確保し、都市の課題に関わる研究や国内外への情報発信の体制を充実させる。
徳久剛史学長は「東京の伝統的な下町にキャンパスを設け、グローバルな教育研究、地域連携、産学協働など様々な挑戦をしたい」と語った。墨田区の山本亨区長も「念願の大学誘致実現への第一歩を記せた」と歓迎した。(日本経済新聞より一部抜粋)

(3) 地域に開かれたキャンパスに
墨田区では、文花地域にある“旧すみだ中小企業センターや学校跡地”全体を「大学の杜」として生まれ変わらせる計画だ。
隣接のiU、千葉大学とも連携しつつ、大学間交流の場としてだけでなく、地域交流の場として「地域に開かれた大学」となるよう、一体的にまちづくりを進めていく。
キャンパスには、校舎を囲う壁がないため、誰もが入りやすいオープンな場に。区民の憩いの場、活動の場となるだけでなく、大学、区民、地元企業の活発な交流の場をめざしている。

■墨田バレー構想とiUの思い

“iU情報経営イノベーション専門職大学”イノベーションマネジメント局の宮島徹雄局長に、墨田区との取り組みについてお話を伺った。
宮島氏は大阪出身。大学卒業後は、広告会社でトップ営業マンとして活躍した。“関西から出て仕事をすることは、全く考えていなかった”と笑う。
しかし某ベンチャー企業の役員として4年前に上京。目の前に、東京タワーが見える部屋を借り、頻繁に海外出張をする生活をしばらく続けた。その後、縁あって、現職に転身。今はスカイツリーのすぐ近くに居を構え、墨田区で大学づくりの仕事をしている。

“墨田区の住み心地について”
最初に住んだ“東京タワー”の近くは都心でもあり、日本の中心地。だが周りに高いオフィスビルに囲まれた場所であった。
「下町である墨田区には歴史を感じます。人々には人情味があり、高い建物もなく安心できます。物価や家賃も安く、住みやすいですね。」宮島氏は語る。東京タワーよりも、スカイツリーのある、この場所が気に入ったようだ。
“墨田区との取り組み内容は?”
「墨田区とは包括提携しています。今後は、行政や地元企業、金融機関等で新たなサービスや商品開発も実施していきたいと考えています。地域や企業が抱える課題に対して、学生がICTを手段として、解決していくケーススタディや フィールドワークを展開。さらに区内の商店街の活性化なども行い、墨田区のより良い街づくりにも貢献していく所存です。」
とのこと。地域との連携による街の活性化も目指している。

“町家の再生事業”
大学周辺には、古い住宅や空き家が多い。千葉大学教員の監修のもと、古家をリノベーションし、学生のシェアハウスにする取り組みもスタートしている。
「学生の住みやすい生活環境を整え、学生を増やすことが、長期的にみて地域経済や日本にとってもプラスにつながる。」と宮島氏。

“iUはどんな大学?”
「学生が、自分が本当にやりたいことを見つけ、自分のやりたいことをやるための大学です。私自身は、若者を元気にしたい。新しいことをやりたいチャレンジャーを応援したい。そんな人材を大学と地域でバックアップしていきます。」
宮島氏は力強く語った。新しい大学は下記のようなビジョンで取り組んでいる。
●在学中に全学生が起業にチャレンジ
●基礎からビジネス思考を学び、深める充実したカリキュラム
●640時間(約5か月)におよぶ、長期インターンシップ
●約200社以上と連携し、多様な分野の企業プロジェクトに参加
●国内外の最前線で活躍する、実務家教員陣たちが充実
グローバル時代を見据え、新しい2つの大学を中心に街とつながる” 墨田バレー構想“の今後の展開から目が離せない。


(取材協力) 宮島徹雄氏
iU情報経営専門職大学 イノベーションマネジメント局 局長大阪出身。大手広告会社の営業マンから、辻調理技術研究所副校長などを経て現職。ご縁があって、全く新しい世界に通用する大学づくりに携わることに。“日本を変えていくには教育から”という信念で仕事をしている。
取材・文 和田野学
【プロフィール】(株)リクルートで住宅情報事業部、(株)リクルートスーモカンパニーで不動産広告事業に携わる。首都圏、関西、広島、九州エリアの営業、取材活動を通じて、多くの不動産デベロッパー、ハウスメーカー、地元不動産会社とのパイプを持つ。現在は会社経営。