物言う株主の主張に応える形で
赤字事業の売却を検討
セブン-イレブンやイトーヨーカドーなどを展開する、小売の王者「セブン&アイホールディングス(HD)」。同社が2月に入り、傘下の百貨店である、そごう・西武の売却に動き出したことをメディアが報じた。
そごうは大阪発の老舗百貨店で、かつては国内外に40店舗を構えるほどに巨大化。ところが拡大路線が行き過ぎて債務超過に陥り、2000年に経営破綻した。
片や西武百貨店は東京発の百貨店で、かつての総合流通グループ・セゾングループの中核企業だった存在。1980年代には日本橋三越を抜き売り上げ日本一の百貨店になったが、バブル崩壊に伴い経営は急速に悪化してしまった。
そんな両社は2001年に包括的業務提携を結び、03年からは経営統合しミレニアムリテイリングとしてリスタートを切ることに。06年にセブン&アイHDに買収され、09年にはそごう・西武となり現在にいたる。
その間、消費者の購買スタイルは大きく変わり、西武池袋本店やそごう横浜店を筆頭にかつては28あった店舗も、現在は10店舗まで縮小した。
足元の業績も芳しくない。2021年2月期におけるセブン&アイHDの営業損益を見ると、全体3663億円のうち、国内コンビニエンスストア事業は2342億円、海外コンビニエンスストア事業は980億円となっているが、百貨店事業は62億円の赤字を計上している。営業不振の5店舗を閉店したが、コロナ禍で客足は振るわなかったからだ。
前期に限らず、そごう・西武は低収益で、セブン&アイHDの足かせであったことは事実。同社も扱いに困っていたと推察できるが、今年1月にセブン&アイHDの株式を4.4%保有する米ファンドのバリューアクト・キャピタルから届いた書簡をきっかけに事態は大きく動くことに。
そこには「セブン&アイHDがセブン-イレブン事業に集中したらグローバルチャンピオンになれるが、このまま事業を集中しないなら平凡、もしくは悪い結果になりリスクが伴う」(要約)と書かれていて、同社にコンビニ事業に経営資源を収集すべきと進言したのだ。
言うなれば「物言う株主」から不採算事業の売却を持ち掛けられた格好。この情報がメディアで報じられると、セブン&アイHD側は「そごう・西武の株式売却を含め、あらゆる可能性を排除せずに検討を行っておりますが、何も決まったものはございません」と声明を発表。
一方、売却方針は固まっていて、今月中にも入札を進める方向で調整し、そこには投資ファンドや三菱地所、三井不動産などが名乗りを上げていて、売却額は2000億円ほどといわれている。
降ってわいたそごう・西武の売却話だが、実現するとどうなるかは興味深い。赤字事業を切り離すことでセブン&アイHDの業績は改善するし、報道が流れたときはこれを期待して株式市場では買いが殺到し、同社の株価は上場来高値を更新したほどだ。
一方、先にも述べたようにそごうは横浜をはじめ千葉、広島、大宮に、西武百貨店は池袋や渋谷といった、首都圏の一等地に店舗を構えている。
買収後は先に明るくない百貨店事業を継続するのではなく、いま流行りの商業施設やホールなどイベント施設、オフィス、住居、ホテルなどによる複合施設に再開発すれば、ドル箱に生まれ変わる可能性がある。
それこそ、同様の複合施設を運営している三菱地所や三井不動産が買収すれば、丸ビルやミッドタウンのような施設が生まれてもおかしくない。
こういったケースはそごう・西武に限ったことではない。経済産業省が2021年3月に発表した「第1回百貨店研究会事務局説明資料」によると、百貨店の売上は90年代の9兆円をピークに、近年は6兆円ほどで推移。20年はコロナの影響で4.2兆円まで落ち込んだ。
少子高齢化や地方の人口減少による市場の変化・縮小は顕著で、消費者は高額のアパレルブランドよりファストファッションに志向をシフト。普段の買い物もコンビニやECサイトなどで済ませるようになっている。こうした動きにより百貨店業界は淘汰の時代に直面に、店舗数も大きく減った。
こういった状況を照らし合わせると、今後も百貨店の閉店や売却は加速し、全国各地の店舗跡地で再開発プロジェクトが進行するだろう。時代の変化に伴う商業施設の新陳代謝が本格化するのはこれからだ。
健美家編集部(協力:大正谷成晴)
健美家編集部(協力:
(おしょうだにしげはる))