再開発の機運が高まるも不便さが拭えないエリア
「しなバス」の登場で利便性の改善を図る
西大井は、東京都品川区の南東部に位置するエリア。もともとは戸建てや小型の分譲・賃貸マンションが密集する閑静な住宅街だったが、近年は西大井駅前にタワマンが建ち、昨年11月には光学機器メーカーのニコンが、同駅近くの光学通り沿いに本社を移転することでも話題になった。

エリアの交通の要は鉄道と路線バス。鉄道に関しては横須賀線や湘南新宿ライン、相鉄線直通が乗り入れる西大井駅があり、新宿や横浜方面にアクセスしやすい。ただし本数はあまり多くないのは難点かもしれない。一方、バスは東急バスが乗り入れ、大井町駅や荏原営業所行きが運行している。
そんな西大井エリアだが、今年に入ってから品川区内初となるコミュニティバス「しなバス」の試行運行が始まっている。

出所:品川区ホームページ
そもそも、品川区区内には鉄道駅が延べ40駅、路線バスも61系統あり交通の利便性は高い。一方で、鉄道駅やバス停から距離が遠かったり、本数が少ない地域、道幅の関係で大型バスが通れない地域など「陸の孤島」も存在する。
こうした事情を背景に、3月から民間公共交通機関を補完する役割として、コミュニティバスの運行が始まったという。

出所:品川区ホームページ
「しなバス」は西大井駅から大森駅を約20分で結び、停留所の数は計8つ。西大井駅を出ると光学通り、滝王子通り、池上通り走り、品川歴史観の南側で左折するとJR東海道本線の高架下を抜け、桜新道を通りながら大森駅北口を目指す。
大森駅から西大井駅へ向かうルートもほぼ同じで、滝王子通りのバス停は東急バスの既存バス停を利用するが、西大井駅、品川歴史館北、さくら会館、大森駅北口については、「しなバス」専用のバス停を新設している。
運賃は大人220円、小児(小学生以下)110円で、現金または交通系ICカードが利用できる。定期券はなく、東急バス全線定期券も利用できない。ただし、東京都内、川崎市内、横浜市内のすべての東急バス一般路線が1日乗り放題になる東急バス1日券(大人520円、小児260円)は使える。
2000円券(220円10枚つづり)、1000円券(110円券10枚つづり)など、運賃が少しお得になる回数券も用意されている。運行時間は午前7時台〜午後8時台までで、1時間に2本運行する。
なぜ、このルートだったのは。品川区では区内13地域を対象に「鉄道駅やバス停からの距離」「路線バスの運行本数」「高齢者の居住状況」など11の指標で点数をつけ、必要性の高い3つのエリアを絞り込み、もっとも数値の高い西大井〜大森ルートの試行運行から始めた。
期間は4年間で、3年目となる2024年の実績により、本格導入を検討するという。
各停留所にアクセスしやすい近隣の住民にとっては、朗報だ。それぞれの場所は交通アクセスが悪く、高齢者にとってはなおさらのこと。「しなバス」を使って西大井に出ると新宿方面、大森に出ると品川や横浜方面に電車で簡単にアクセスできる。また、大森駅の周辺は商業施設や飲食店などが充実しているので、ちょっとした買い物にも便利だ。
片や、西大井は今後も駅近隣の再開発が活発で、2024年には徒歩2分の距離に、地上14階建ての複合施設が建つこともわかっている。鉄道で大森に向かおうとすると西大井駅から品川駅に出る、もしくは大井町駅まで歩くことになるが、「しなバス」があると便利だ。
今回の取り組みのポイントは、「公共交通機関へのアクセスが不便」かつ「高齢者が住む」エリアの移動を自治体がサポートしたという点だ。似たような地域は都内だけではなく全国の主要都市に多くあり、高齢化が進むなか、同様の施策は各地で続くかもしれない。これにより、いままでは居住にあまり適さなかった場所に注目が集まる可能性もあるだろう。
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健美家編集部(協力:
(おしょうだにしげはる))