商業棟と温浴棟で構成される施設が開業
かつての築地のようなにぎわいが生まれる?
一般家庭に風呂が普及したことで減少の一途をたどる、まちの銭湯。ピークの1968年には全国で1万8000軒近くあったが、2022年は1865軒までに減少した。一方、レジャーとして入浴を楽しむスーパー銭湯の市場は盛り上がっていて、その数は増えている。

こうした盛り上がりを背景に、2024年2月に東京・豊洲市場の場外エリアに開業するのが、全国に温浴施設を展開する万葉倶楽部株式会社(神奈川県小田原市)による「千客万来施設(仮称)」(以下、千客万来施設)だ。
豊洲市場は、東京中央卸売市場のひとつ。築地市場の代替施設として建設され、2018年に開業した。基本的には市場関係者が取引に使うが、競りの見学やイベント、物販・飲食店舗は築地時代と変わらず一般消費者に開放されていることもあり、都心の観光スポットとしても認知されている。
千客万来施設は豊洲市場に隣接し、商業棟「豊洲場外江戸市場(仮称)と温浴棟「豊洲万葉倶楽部(仮称)」の2棟で構成される。
商業棟では築地の伝統を引き継ぎ、豊洲ならではの新鮮な食材などを活かした飲食・物販店舗を展開。御影石や淡路島の「いぶし瓦」などの伝統の建築素材や、多摩産材などを採用した木造建築により、江戸の古い街並みを再現したオープンモールを展開する。

出所:プレスリリース
専用トレーラーで箱根・湯河原の湯を運搬した温浴棟では、露天風呂やサウナ、岩盤浴、エステ・マッサージなどがあり、滞在型のくつろぎの空間を提供。屋上には豊洲の景観を一望できる展望足湯庭園を2か所設置するという。
施設が開業するまでは紆余曲折あった。東京都は豊洲市場の観光の目玉として、買い物や食事、宿泊などを楽しめる複合施設の構想を打ち立て、2014年9月に「すしざんまい」を運営する喜代村(東京都)と大和ハウス工業(大阪府)の2社に運営を委託することを決定。
当初は喜代村が飲食店や専門店街、温泉など、大和ハウス工業が伝統工芸の体験や温浴棟を整備する計画だった。ところが採算制への不安から翌年2月に大和ハウス工業が、4月には喜代村が辞退を申し入れ、事業は暗礁に乗り上げた。
その後、再公募に名乗りを挙げ選定されたのが、万葉倶楽部だ。同社は200店規模の飲食街と物販施設、24時間営業の温浴・宿泊施設を作り、国内外から年間193万人の来場者を見込んでいた。
ところが2017年、小池都知事が豊洲に移転後の築地に食のテーマパークを再発する方針を掲げたことを受け、万葉倶楽部側は採算が取れなくなることを懸念し、撤退の意向を東京都に伝えることに。
2019年に都が「築地まちづくり方針」を策定し国際会議場やホテルなどを軸とした計画へシフトさせた結果歩み寄りが見られ、今日に至る。
千客万来施設のインパクトは大きく、これにより豊洲エリアは市場と一体化した食と癒しのエンタメスポットになることが期待される。
同地区は臨海副都心の一翼を担い、近年のタワマン建設ラッシュからファミリー層の転入も活発だ。近くのお台場や有明などには商業施設・観光拠点が点在していて、今回のプロジェクトを機にさらに発展すれが、豊洲は居住・観光の両面でますます魅力的なエリアになっていくだろう。
交通面にも注目したい。東京メトロ有楽町線が乗り入れる豊洲駅は、都営地下鉄新宿線の住吉駅まで延伸することが決定。今年4月からは、東京都心と臨海副都心を結ぶバス・ラピッド・トランジットの「東京BRT」のプレ運行も始まった。
豊洲市場前駅があり豊洲にも抜ける東京臨海高速鉄道(ゆりかもめ)の延伸計画は宙に浮いているが、エリアにおける利便性が高まりつつあるのは確かなこと。千客万来施設が開業すると沿線の住宅事情にも影響が出るかもしれない。
健美家編集部(協力:
(おしょうだにしげはる))