2030年に向けて、東北最大の都市仙台の都心が大きく変わりそうだ。
2015年の地下鉄東西線開通、2016年の仙台駅大規模リニューアルを経て、東北一の玄関口にふさわしい姿へと生まれ変わった仙台駅とその周辺。
一方で、仙台駅前の目抜き通りである青葉通り沿いにあった「旧さくら野百貨店仙台店」をはじめ、一等地には空き地が点在。建築物の老朽化や新規オフィスビルの供給が減少し、人の流れも仙台駅周辺に集中するなど、都心部の課題が浮き彫りになっていた。
仙台市はこの状況を打破すべく、昨年7月、「せんだい都心再構築プロジェクト」に着手。その概要と影響について、仙台の不動産市場に詳しいニッセイ基礎研究所 金融研究部 主任研究員 吉田 資氏に聞いてみた。
「せんだい都心再構築プロジェクト」とは
ケヤキ並木に代表される自然豊かな都市環境や、宮城県沖地震や東日本大震災によって培った高い防災力といった仙台市の個性を生かし、街に賑わいや人の交流、そして企業誘致による雇用や経済活動を創出。人口減少が進む東北をけん引する存在として、人が集い、生き生きと働き、かつ楽しめる街を目指すものとなっている。
その施策の第一弾として行われるのが、「老朽化建築物の建て替えと企業立地の促進」「市街化再開発お事業の促進」「都市再生救急整備地域の拡大へ向けた検討」などである。
このプロジェクトの助成制度を活用した最初の事案が「(仮称)NTT仙台中央ビル」の開発だ。「七十七銀行本店」や東北一の高さを誇る「仙台トラストシティ」が立つ東二番町通りに、2023年竣工予定で19階建てのオフィスビルが建てられる。
高機能オフィスだけでなく、2023年に市内で稼働する「次世代放射光施設」の研究者やスタートアップの拠点としての役割も担うとされており、さらにオープンスペースを設けることで、多くの人が利用することも想定している。
「旧さくら野百貨店」をはじめ、広範囲の開発で都心全体での魅力が高まる
前述の「旧さくら野百貨店仙台店」跡地は、「ドン・キホーテ」などを展開する「パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス」が、2027年度の竣工を目指し開発を検討。オフィスビルやホテル2棟が建てられ、低層階は商業施設でつながる予定だ。
さらに、「旧さくら野百貨店」の青葉通りをはさんで真向かいには「旧仙台ホテル」跡地は商業施設「EDEN(エデン)」として、「GSビル跡地」は駐車場として利用されているが、この区間を野外広場として整備する計画があり、「さくら野百貨店」と連動した一体感のある再開発が検討されている。
「せんだい都心再構築プロジェクト」は、仙台駅前だけでなく、県庁や市役所のある勾当台(こうとうだい)公園付近、勾当台公園付近と仙台駅をつなぐエリアにあり、仙台最大の商業地の一つである一番町一帯もプロジェクトの対象となっている。助成制度を活用しながら、仙台の老舗百貨店「藤崎本店」を中心とした周辺ビルなどを一体的に建て替える再開発の検討も進行中だ。
市を挙げてのプロジェクトにより、都心広範囲での街づくりとなることで、スポットごとの魅力が増すだけでなく人の行き来も活発化しそうだ。
近年、地下鉄沿線や郊外への商業施設の立地が増加し、都心の求心力の衰微が懸念されていたが、プロジェクトが推進されることで都心全体としての魅力が高まり、人の流入も増えることが期待される。
さらに、2020年9月には、国が指定する「都市再生緊急整備地域」が当初の仙台駅西口や一番町の73haから186haと2倍以上に拡大され、国際競争力を強化する上で重要なエリアとして位置付けられる「特定都市再生緊急整備地域」にも、東北で初めて指定されることになった。これによって、国際水準のオフィスやハイクラスホテルが整備され、仙台の国際競争力の強化が図られる。
都心が「居住エリア」としてさらにニーズが高まる可能性も
吉田氏によると「コロナウイルス感染防止のためのリモートワークが増えているため、一概には言えませんが、全国的には共働き世帯などの増加により、 “職住近接”が全国的なトレンドであり、職場と近いエリアに居住することを望む人が増えています。
『せんだい都心再構築プロジェクト』が進めば、都心の利便性や魅力が増すこととなるでしょう。そうなれば、仙台でも居住エリアとして都心の人気が高まることも十分考えられます」。
居住地のニーズが高まれば、マンション賃貸料も相対的にアップする可能性がある。2030年へ向けて進化が続く仙台都心に注目していきたい。
健美家編集部(協力:小松ななえ)