商業施設や複合施設、住宅だけではなく
CCRC施設や認定こども園を整備
伊達市は福島県中通り北部に位置し、江戸時代以降は養蚕業で栄えたまち。宮城県仙台市の青葉城で有名な伊達政宗の先祖がかつて治めていた伊達氏ゆかりの地で、市名はこれがルーツになっている。

東には霊山、西には吾妻連峰、北には宮城県境の山々が連なり、市の西側には阿武隈川が流れている。
福島盆地の中にあるので市の中心部は平坦地で田畑、果樹園が広がりあんぽ柿や桃の生産が盛ん。プリンタ製品などを手掛ける富士通グループの富士通アイソテックも本社を構えている。
一方、他の地方自治体と同じく人口は減少傾向にあり、1950年代は約80万人だったのが、現在はおよそ2万世帯、約58万人が暮らしている。
鉄道はJR東北本線が伊達駅に乗り入れる一方で、福島市の福島駅から宮城県柴田郡柴田町の槻木駅まで至る阿武隈急行線の23駅のうち、高子駅〜兜駅までの10駅が市内を抜けている。
同線は部分開業していた国鉄の丸森線を沿線自治体が設立した会社が継承して全線開通した鉄道路線で、第三セクター鉄道として初の全線交流化路線を実現した。
そんな阿武隈急行線の高子駅前では大規模な複合開発が始まっている。それが伊達市とパナソニックホームズが中心となり進める大規模プロジェクトの「Up DATE City(アップデートシティ)ふくしま」だ。昨年10月に両者と33の企業・団体がまち全体に関わるルール作り、アップデート可能な先進的技術やしくみの導入を検討する協議会を設立し、2023年4月の街びらきを目指すという。

出所:プレスリリース
建設されるのは、伊達氏が最初に居住したとされる高子岡館跡の隣接地で高子駅の北側。阿武隈急行線の福島駅から車で約14分、2021年4月に全線開通した相馬福島道路の伊達中央ICからも車で約2分と好立地で、24年冬に開業予定の東北最大の大型ショッピングモール「(仮称)イオンモール北福島」からも約4qと決して遠くない。
総開発面積は約14haにおよび、商業施設や複合施設、戸建て住宅だけではなく、シニアが健康な段階で入居し、終身で過ごすことができる生活共同体の「CCRC(Continuing Care Retirement Community)」や認定こども園の整備も予定しているのが特徴だ。
協議会はまち全体のコンセプトを「Up DATE City」とし、必要な「くらしの仕組みやサービス」のアップデートを行い、多世代間の交流を活発化させることで、「健幸と生涯活躍のまち」をつくり、「想像を超えたくらし」の提供を考えている。
自治体が「生涯活躍のまち」事業を
推進して地方創生にチャレンジ
本計画でCCRCなどを整備するのは、子どもから高齢者まで全世代を対象とする「伊達市版生涯活躍のまち(伊達市版CCRC)」構想に基づくからだ。これは、高齢者が安心して健康で元気に暮らし続けることができ、社会の担い手の一員となる仕組みが整ったコミュニティの実現に向けたものであり、2016年に策定した「伊達な地域創生戦略」における地方創生に資する取り組みの1つとして挙げられる。
日本が少子高齢化の課題に直面し、国がさまざまな施策に着手しているのはご存じの通り。
地方創生の観点では、東京圏をはじめとする地域の中高年齢者が希望に応じて地方やまちなかに移り住み、地域住民や多世代と交流しながら健康でアクティブな生活を送り、必要に応じて医療・会議を受けることができる「生涯活躍のまち(日本版CCRC)構想」を推進している。
これにより「中高年齢者の希望の実現」「地方へのひとの流れの推進」「東京圏の高齢化問題への対応」といった課題を解決するのが狙いだ。

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「生涯活躍のまち」構想は、高齢者福祉施設の整備のみが目的ではない。中高年齢者が主体となり、地域社会でQOLの高い生活を送ることができる場所を作るというのが本来の発想だ。
出所:「生涯活躍のまち」構想に関する手引き
伊達市の計画はこれにのっとったもので、同市だけに限らず現在は421の地方自治体が地方創生政策の柱の1つとして「生涯活躍のまち」の事業を推進している。
例えば山梨県都留市では、市内の公立大学法人都留文科大学、健康科学大学看護学部、山梨県立産業技術短期大学校や民間企業・団体等と連携し、多世代が生涯にわたり活躍できる環境を創出する「生涯活躍のまち・つる事業」を展開。まちの衰退や人口減少の課題を解決し、「生涯活躍のまち」構想を軸とした産業の振興や創業を図り、雇用の創出を目指している。
一方、健康医療都市を標榜する群馬県前橋市は「前橋版生涯活躍のまち」事業の一環として、前橋赤十字病院の跡地を整備。複合商業施設や夜間急病診療所、福祉作業所、認定こども園、有料老人ホーム、カフェなどが併設する公園を整備する。
このように、多様な世代が共生できるまちづくりが全国各地で進められていて、地域の活性化につなげようとしている。今後、成功事例が増えることで、その動きは加速していくだろう。地方における令和時代のまちづくりのスタンダードになるかもしれない。
健美家編集部(協力:
(おしょうだにしげはる))健美家編集部(協力:
(おしょうだにしげはる))