不動産投資家にとって、どの物件を購入するかは当然大切だが、どの地域で買うかも同じく重要な判断材料ではないだろうか。
「もし、住宅立地のエリアに商業施設ができたら、街はどのように変化するのか?」今回はある地域の好例を紹介したい。
幹線道路が近い上に閑静な優良エリア
戸建て、マンション、ビルと種類豊富に並ぶ
名古屋市の都心部・栄と瀬戸市を結ぶ名鉄瀬戸線利用で5分圏内の「清水」と「尼ケ坂」エリアは、名古屋市北区の住宅街だ。すぐ西側には物流の大動脈・国道41号線が通り、その上を名古屋高速1号楠線が通る交通至便な立地だ。
幹線道路が近いにもかかわらず、その喧噪とは打って変わって閑静な住宅街であることも、この地域の特色のひとつ。名古屋の高級住宅街として知られる東区・白壁にも近く、周辺には小学校・中学校・高等学校があり、落ち着きのある優良なエリアとして知られている。
主に一戸建てが多い中、賃貸アパートをはじめさまざまな規模のマンションやビルも点在していて、バラエティーに富んだ物件が集っていることも注目に値する。
住宅立地の街で散策と買い物を楽しむ
高架下の再開発で開業したSAKUMACHI商店街
そんな住宅立地の地域に商業施設「SAKUMACHI商店街」が誕生した。名鉄瀬戸線「清水」~「尼ケ坂」駅間、約500mの高架下を利用して開発された買い物スポットだ。
“高架下”や“商店街”といえば、赤ちょうちんやアーケードに並ぶ商店を連想しがちだが、この商店街は、勾配屋根が特徴的な建物がリズム感をもって立ち並び、周辺地域に向けられた大開口が目を引く。
もともとこの場所は駐車場だったが、高架沿いの桜並木や広い歩道があることを活かした街づくりを模索する中、路線を運営する名古屋鉄道株式会社と店舗・住宅のリノベーションを手掛けるエイトデザイン株式会社が企画・開発を行い、街に新たな息吹をもたらした。
そこで、この施設と清水・尼ケ坂の街について、両社の担当者に話を伺った。
こだわったのは外観だけではない。周辺住民が街歩きを楽しみながら気軽に立ち寄れるようにテナントの選定にも注力した。結果、誰もが知るナショナルチェーンではなく、地元で頑張る企業の店が集い、おしゃれで身近な商店街になった。
「この地を盛り上げていきたいという私たちの思いに賛同してくれた店が集まってくれました。店と店だけでなく地域の人とのつながりも深くなる商店街を目指していきたい」と話すのは、エイトデザイン株式会社の常務取締役。
1区画約15坪のテナントは、日常使いができる肉や魚、野菜、パン、スイーツの店や居酒屋のほか、認可保育園や学童保育などがあり、地域に密着している。また、ベンチを所々に設置して地域コミュニティー創出の役割も担っている点も特色だ。
グッドデザイン賞受賞でエリアの価値向上
人口流入と発展のプラス材料として貢献
単なる商業施設の枠を超え、同施設は「まちづくり」の視点を取り入れたリーシングなど多角的な再開発として評価され、2020年度のグッドデザイン賞を受賞。清水・尼ケ坂のランドマーク的存在となり、エリアの価値を高めるきっかけを作った。
来店客の多くは周辺住民が占めているが、「一部テナントではSNSを見て、“SNS映え”を求めて訪れる若い女性が増えた」と、名古屋鉄道株式会社の担当者は話す。加えてファミリー層の利用も増えており、施設を目当てに人が動くという変化が生じた。
2019年のⅠ期開業後、尼ケ坂駅の乗降客数は増加。昨年はコロナの影響は避けられなかったが、各店舗による情報発信などの効果もあって、一部店舗では都心部ほど打撃を受けるには至らなかったそうだ。
今後は、さらなるにぎわいづくりを視野に入れていて、壁面にアートを施したり、イルミネーションを灯すなどして、周辺に明るさと楽しさをプラスしたいとアイデアを温めている。
「まだまだ商店街としてできることはたくさんある。そういった意味では完成形ではない」(エイトデザイン株式会社担当者)と、地域貢献に意欲を見せてくれた。
また、「サクマチによって人の流れをつくったことで、この地区の注目度が上がった」と話すのは、名古屋鉄道株式会社の担当者。以前からマンション開発が進んでいたエリアだけに、商店街はプラス材料になったのは確かといえよう。
至便な交通アクセス、優良な住宅立地、そして高感度と利便性を併せ持つ商店街の効果で、清水・尼ケ坂界隈のポテンシャルはより高まった。名古屋では知名度は決して高くはないが、長期的な視点で発展していく可能性は秘めており、穴場な物件を探す好機かもしれない。
健美家編集部(協力:アンズコミュニケーションズ)