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東京一極集中完全復活。若い女性集中の東京と人口減少続く地方の格差はより拡大方向へ

調査(不動産投資)/人口 ニュース

2023/02/20 配信

2020年4月の新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言以降、行動制限が続き、その間に人口の移動には異変が見られた。これを受け、東京一極集中の終焉か!という予測が飛び交ったが、2022年3月に行動制限が無くなって以降、事態はコロナ禍以前の人口移動に戻った。いや、戻ったどころか、加速したと言ってもよい。

天野馨南子氏。人口動態について目から鱗の鋭い分析は必読
天野馨南子氏。人口動態について目から鱗の鋭い分析は必読

その状況と、それが意味する問題についてニッセイ基礎研究所生活研究部人口動態シニアリサーチャーの天野馨南子氏に聞いた。

バブル崩壊後以降、東京への人口集中は続いている

2021年にコロナ禍で東京への転入超過が1万人を切った!と大きな話題になったが、そもそも、東京への人口集中は1997年以降(女性は1996年以降)ずっと続いてきており、コロナ禍で一時鈍化し、男性のみ2021年は転出超過するも、男女合計では転入超過となっており、東京圏に拡散したものの流れは止まっていないと天野氏。

天野氏は2022年11月に「東京一極集中、ほぼ完全復活へ」と題して2本のコラムを書いているが、そこには「筆者にとっては予想通りの『コロナ禍前の人口移動の復活』」という言葉がある。2021年はコロナで一時人が動かなくなっただけで、東京への人口集中にはもっと根深い、日本の多くの地方をさらに衰退させるような底流があるのだ。

東京への人口集中が始まったのはバブル崩壊後。一般には1991年から1993年頃の景気後退気をバブル崩壊としているが、それに少し遅れて1996年には女性の、翌1997年には男性の東京への転入超過が始まる。景気後退の影響が少し時間を置いて表出してきたと思えば分かりやすいだろう。

地方創生、女性活躍推進が集中を加速させた

景気動向でいえば次のきっかけは2008年のリーマンショック。2009年以降は常に女性の転入が男性の1.2倍となっており、東京都への男性を超える恒常的な女性集中が明らかに見られるようになっている。この男女の集中格差がさらに加速したのが2015年以降である。

2015年前後に何があったか。

2つある。ひとつは首都圏への人口集中を是正し、地域におけるワーク・ライフ・バランスを確保して将来にわたって活力ある日本社会を維持していくための「まち・ひと・しごと創生総合戦略」のための本部が設置されたのが2014年9月。同年11月にはまち・ひと・しごと創生法が公布・施行されており、地方創生が本格化した時期といえる。

「日本を挙げて地方が消滅する、なんとかしようと言われたわけですが、そういった状況で何か明るい就職判断材料が明確に地元に示されていれば話は別ですが、就職を検討する学生がこれまで以上に地方を選ぶ判断をするでしょうか。東京の転入超過している人口の属性は圧倒的に20代人口、そのうち特に20代前半の就職期の移動人口が圧倒的です。地方創生を言えば言うほど若い人は地方から出て都会へ向かう。当然ではないでしょうか」。

もうひとつは2016年4月に施行された女性活躍推進法。この法律では透明性を意識、国や自治体、企業などの事業主に対して、女性の活躍状況の把握や課題分析、数値目標の設定、行動計画の策定・公表などが求められた。

「この時、公開が義務とされたのは301人以上の事業者。国は中小企業に配慮したのでしょうが、法施行時において301人以上規模の会社は4割が東京に集中していました。その後、法改正で2022年からは101人以上の事業者にも義務化されましたが、それでも地方ではこれだけの規模の企業はそれほど多くはありません。

結果、若い人たちにとって地方はどうやら危ないらしいと思うエビデンスとなり、さらに女性にとっては安心、安全に働ける会社は地方には少ないというエビデンスともなり、若い人達は就職を機に都市、特に東京に出ていくようになったのです」。

地方創生を、女性活躍を言えば言うほど地方から若い人、女性が出ていくという皮肉な現象が起き、この時期には女性の転入超過が男性の1.3倍から1.4倍にも及ぶように。地方の仕事のバリエーションの無さや、それを業種構造のせいにして抜本的な働き方・雇用改革に着手しようとしない逃げの姿勢が女性を都市に向かわせたのである。

「地方創生では仕事の創出もテーマのひとつですが、その時の仕事は基本的には男性向けの雇用。女性の仕事を増やす話はほとんど出ておらず、女性に向けての施策は子育て支援か、夫と一緒に移住してきた女性が対象。私は東京一極集中がさらに加速化し、男性を超える女性の集中がさらに拡大した2015年以降を『男女集中格差拡大期』と呼んでいます」。

コロナ禍で働きやすさの格差拡大

その後にコロナが到来するわけだが、2020年には男性の2.2倍の数の女性が東京に転入している。さらに2021年。東京への転入者数がぐんと減り、転入者数では神奈川県がトップになった年だが、この年、東京で転入超過した5000人超は実は全部女性(女性が約6000人増加し、男性が約1000人減少した結果)。東京への人口集中を支え、止まることを許さないのは女性の移動なのである。

以降、現在では移動が自由になった。その結果、感染前ほどではないにせよ、人口流入は続いており、しかも、男女比はさらに拡大、コロナ前の1.4倍から1.6倍にまで及ぶようになっている。ほぼ20代の若い女性が主役となって東京に集まっているのである。

居住都道府県別でみたテレワークの状況
居住都道府県別でみたテレワークの状況。慶應義塾大学とNIRA総合研究開発機構による第8回テレワークに関する就業者実態調査報告書より

「コロナではさらに東京と地方で働きやすさにも差が出ることになりました。慶應義塾大学とNIRA総合研究開発機構による第8回テレワークに関する就業者実態調査報告書(速報 2023年1月31日)を見ると東京圏とそれ以外ではテレワーク利用率は大きく異なります。東京都では3割近くなのに対し、低い県では10%以下、現在ではゼロに近くなっているところもあります」。

前述の調査中の産業別テレワーク利用率のデータ
前述の調査中の産業別テレワーク利用率のデータ。産業構造もテレワーク利用率には影響がある

テレワークは働く人が働く時間、場所を選択できる仕組みであり、育児や介護など制約があっても働きやすくなると考えると、男女ともに、特に家庭の負担が女性に大きく傾斜しがちな日本の雇用環境を鑑みると、女性の働きやすさにも寄与することがお分かりいただけよう。テレワーク、リモートワークが可能になればなるほど、制約があっても働ける人が増えるのである。それができる可能性が高い東京とそれ以外。差が出て来るのも当然だ。

こうした流れの結果がこの表である。これは2022年に転入超過(社会増)だった都道府県の男女合計ランキング。女性の転入超過が
こうした流れの結果がこの表である。これは2022年に転入超過(社会増)した都道府県の男女合計ランキング(人)。東京都が圧倒的トップに返り咲き、男性の1.6倍の女性が転入してきている。それ以外でも女性の転入が多い自治体が大半。茨城県の場合には男性のみが増え、女性は減っている

ライフスタイルの変化についていけていない

もうひとつ、ライフスタイルの変化も女性の東京集中を考える上では欠かせないポイントである。

「国立社会保障・人口問題研究所が国内の独身者ならびに夫婦の個別、共通課題を調べるためにほぼ5年ごとに行っている出生動向基本調査という全国標本大規模調査があるのですが、この独身調査の結果を見ると18歳から34歳の未婚男女の理想とするライフスタイルが大きく変化していることが分かります。

一例を挙げると、最新の第16回、2021年の調査では未婚の男性(2023年時点で20歳から36歳)が結婚後の妻に専業主婦を望む割合は6.8%ですが、第9回1987年(2023年時点で54歳から70歳の、その昔の若者の回答)では37.9%。専業主婦ではなく、仕事も子育ても両立する妻を希望している未婚男性が今では39.4%もいますが、1987年では10.5%。女性がこうありたいという割合以上に若い男性は子育て期でも妻に仕事を辞めないで欲しいと思っているのが令和時代。今の50代以上男性とは妻に求めるライフスタイルが真逆になっていることが分かります」。

ところが現在、地方で社会の実権を握っているのは当然、昔ながらのライフスタイルを良しと考えている世代である。となるとそこにさまざまな齟齬、衝突が生まれるのは想像に難くない。それを敬遠して東京へ出ていく女性がいるのも分かり過ぎるほど分かる。

「多様性教育をしっかり受けて育っている今の若い人達は、親や地元の理想ではなく、自らの理想のライフデザインが実現できるかどうかを考えて移動しています。現在の日本では50代前後の人口がもっとも多く、20代はその7割もいません。ですから地域を変えれば雇用先に悩むことなく、引く手あまた。地元に残りたいけれど仕事がないなんて落ち込んだりはしません。悲壮感のひの字もなく、やりがいのある、やりたい仕事がないので、と笑いながら地元を出ていきます」。

若い女性が活躍できる地域、女性に選ばれる物件を

以上、今、日本で進んでいる人口集中の背景にあるものを聞いた。表面的な数字を見るだけでなく、流れの底にあるものを知ることが現在の状況を理解、これからを考える上で役に立つと思う。

では、不動産に関わるものとしてはこの現象をどう考えれば良いか。ひとつ、東京以外の地域を見る際に若い女性を呼び込もうとしている地域には今後可能性があるという見方があり得る。

「雇用改革、働きやすさを意識、考えている地域であれば若い女性の流入はあり得るのではないかと考えています。特に現在ではまだ、その視点で人口の流れの実態を正確に捉えた製作ができている自治体が僅少という状況ですから、先発特権は大きいといえるでしょう」。

実際に首都圏近郊、地方でも若い人、女性が増えている地域がある。数字だけではなく、どういう人が増えているかという観点で地域を見てみると新しい発見があるかもしれない。最近ではまちづくりに関わる不動産所有者が出てきているが、その際には若い女性にとっての視点を取り入れることも大事だろう。

また、東京圏で単身者向け、カップル向けの住宅を提供する際にはここまで述べてきたようなライフスタイルの変化、意向を意識することで選ばれやすい住宅を作ることもできるのではないかと考える。東京圏市場での若年女性の単身割合の高さを意識し、安心・安全、それに付随して男性以上の職住近接、買い物のしやすい立地などはもちろん、女性が気にする水回りの使いやすさなどにこだわった住宅などが考えられるだろう。

カップル向けであれば共働き世帯に向けて無駄のない家事動線を意識する、夜間でも利用できるゴミ置き場を設置するなどの配慮があり得る。もちろん、そうした配慮をした場合にはきちんとそれをPRすることで選ばれやすくすることも必要だ。

最後にぜひ、天野氏のレポートの一読をお勧めする。ここでは取り上げなかったが、今後の人口動態に影響する合計特殊出生率の勘違いその他、目から鱗な分析が多く、将来を考える上では非常に勉強になる。人口動態、労働市場は住宅市場にも大きく影響するものである。正しい知識を身につけておきたいものだ。

東京一極集中、ほぼ完全復活へ(1)-2022年1-9月「住民基本台帳」転入超過人口都道府県ランキング
東京一極集中、ほぼ完全復活へ(2)-2022年10月まで社会減37エリア、男性の1.4倍の女性減で出生の未来に暗雲

東京一極集中、女性主導で復活へ-2022年・東京都は男性の1.6倍の女性増、男女減少格差27倍のエリアも

2022年 東京一極集中・「人口属性別」ランキング-統計的実態に即した科学的人口政策を-

激変した「ニッポンの理想の家族」-第16回出生動向基本調査「独身者調査」分析/ニッポンの世代間格差を正確に知る

都道府県の合計特殊出生率、少子化度合いと「無相関」-自治体少子化政策の誤りに迫る-

健美家編集部(協力:中川寛子(なかがわひろこ))

中川寛子

株式会社東京情報堂

■ 主な経歴

住まいと街の解説者。40年近く不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービス、空き家、まちづくり、地方創生その他まちをテーマにした取材、原稿が多い。
宅地建物取引士、行政書士有資格者。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会会員。

■ 主な著書

  • 「ど素人が始める不動産投資の本」(翔泳社)
  • 「この街に住んではいけない」(マガジンハウス)
  • 「解決!空き家問題」「東京格差 浮かぶ街、沈む街」(ちくま新書)
  • 「空き家再生でみんなが稼げる地元をつくる がもよんモデルの秘密」(学芸出版)など。

※ 記事の内容は執筆時点での情報を基にしています。投資等のご判断は各個人の責任でお願いします。

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