マンションリサーチ株式会社は、2022年10月価格改定レポートvol1を発表した。価格の高騰が続くエリアがある一方で、一部地域では変調の兆しが見られたという。
中古マンションを売買する際に、購入者・売却者の双方が最も気になるポイントの1つが「相場価格の変動」。今後、同レポートでは、独自の指標を用いて中古マンション価格のトレンドを予測していく。
同レポートでは、2022年9月までの次のエリアの価格推移・在庫数・在庫回転率・価格改定数から、今後の中古マンション価格を考察した結果、次のような兆候がみられた。
・東京都23区→ 価格高騰継続
・神奈川県横浜市→ 価格高騰継続
・神奈川県川崎市→ 注意:短期的には現状維持、中期的には下落も
・埼玉県さいたま市→ 注意:短期的に下落の兆候
・千葉県千葉市→ 短期的には不安定な状況
■中古マンション価格はなぜ変動するのか?
不動産には定価がなく、売主と買主の「合意形成」によって価格が決まる。買主に高いと思われれば売れず、逆に安過ぎても売主の利益が損なわれてしまうため「両者が納得できるライン」に価格を調整する必要がある。この“ライン”は「需要」と「供給」のバランスが大きく影響する。
・買いたい人が多く、売りたい人が少ない:需要>供給??中古マンション価格は高騰
・買いたい人が少なく、売りたい人が多い:需要<供給??中古マンション価格は下落
これが、市場の原理だ。
■「在庫回転率」と「価格改定数」を見れば短期的な価格変動が予測できる
価格の変動は、基本的に、ある程度、長期的な価格推移を見たうえで判断される。すなわち、過去の価格推移を見ただけでは、短期的な相場価格の変動は予測しづらい。
しかし、価格が動く前には“予兆”がある。それが「在庫回転率」と「価格改定数」だ。この2つの指標を見ることで、短期的な価格変動が予測しやすくなる。
○在庫回転率 トレンドを示す数値。その時の「売り手」の数からみて「買い手」がどのくらい多いかを示す指標。この数値が高ければ高い程、需要が高いといえる。
○価格改定数 価格改定数は、不動産仲介担当者の行動を示す数値。売り出してから売却されるまでに、平均何回価格調整が行われたかを示す指標。この数値が高ければ高い程、売出からの価格下落幅が大きくなる。
中古マンションは、一般的に売主が希望している価格より高い価格で売り出され、売れ行きを見ながら価格を改定し、最終的にはその時の相場価格前後で売却される。価格改定数は、需要が高い時期には少なく、需要が低いときに多くなる。
価格改定時に参考にされるのは、類似物件の成約価格や売れ行き。つまり、需給トレンド=在庫回転率だ。
マンションリサーチでは「在庫回転率」と「価格改定数」を用いて、短期的な中古マンション価格の変動を予測している。
■【2022年10月】東京都23区 中古マンション今後の価格予想
東京都23区の中古マンション価格は、短長期的に価格高騰が継続することが予測される。
グラフ1:東京都23区の在庫数と在庫回転率

上記グラフの青色の棒グラフは在庫数を、灰色の折れ線グラフは在庫回転率を表している。
在庫数はコロナ禍になってから減少傾向が続いていたが、2021年6月頃を起点に上昇に転じ、2022年度に入ってからはまた下降傾向にある。2022年9月の在庫数は、近年でも最も少ない水準だ。
一方、在庫回転率は変動はあるものの、コロナ禍以降、高い水準を維持している。
グラフ2:東京都23区在庫件数と価格改定数

上記グラフのオレンジの棒グラフは在庫数を、青色の折れ線グラフは価格改定数を表している。
価格改定数は、在庫数とほぼ連動していることがわかる。2022年9月には、在庫数が近年で最も少ない水準になったことから、価格改定数も同様に大きく下がっている。
グラフ3:東京都23区の販売価格推移

東京都23区の中古マンション価格は、コロナ禍でも下落することなく高騰を継続している。
□東京都23区2022年9月の兆候と今後の予測
・在庫数が再び減少し、近年でも最も少ない水準に
・在庫回転率は高水準を維持
・価格改定数は大幅下落
ここまでお伝えしたように、東京都23区では需給トレンドに即応した価格形成がみられている。現在の価格高騰局面および上記のような兆候を考慮すれば、短中期的にはまだ価格が高騰するものと推察される。
■【2022年10月】神奈川県横浜市 中古マンション今後の価格予想
神奈川県横浜市の中古マンション価格も同様に、短長期的に価格高騰が継続することが予測される。
グラフ4:神奈川県横浜市の在庫数と在庫回転率

東京都23区同様、在庫数は再び減少に転じている。在庫回転率は、多少の変動はあるものの、コロナ禍以前と比較すると現在も高い水準を維持している。
グラフ5:神奈川県横浜市の在庫件数と価格改定数

価格改定数も、東京都23区と同様、在庫数とほぼ連動している。2022年9月は近年で最も低い水準になっており、トレンドを即座に反映していることがわかる。
グラフ6:神奈川県横浜市の販売価格の推移

神奈川県横浜市の中古マンション価格は、東京都23区と比較すると多少、変動幅が大きいが、高騰傾向を維持している。
□神奈川県横浜市の2022年9月の兆候と今後の予測
・在庫数が再び減少
・在庫回転率は高水準を維持
・価格改定数は近年、最も低い水準に
神奈川県横浜市でも、需給トレンドに即応した価格形成がみられている。価格改定数は、近年で最も低い水準になっていることから、短中期的には価格が高騰するものと推察される。
■【2022年10月】神奈川県川崎市 中古マンション今後の価格予想
神奈川県川崎市は短長期的には短期的には現状維持、中期的には下落も予測される。
グラフ7:神奈川県川崎市の在庫数と在庫回転率

在庫数はいまだ低い水準で推移しているが、増加の傾向がみられる。また、在庫回転率は、東京都23区や横浜市と同様、コロナ禍以前と比較すると現在も高い水準を維持しているものの、在庫数の推移とは逆の動きをしている。従って、現況のように在庫数の増加に伴い、在庫回転率は低下していくことが予想される。
グラフ8:神奈川県川崎市の在庫件数と価格改定数

価格改定数も、東京都23区、横浜市と同様の傾向を示しており低水準にある。在庫数および在庫回転率の高さとほぼ連動していることから、トレンドを即座に反映していることがわかる。従って、在庫回転率の減少に伴い上昇していくことが予測される。
グラフ9:神奈川県川崎市の販売価格の推移

神奈川県川崎市の中古マンション価格は、2022年に入ってからほとんど下落することなく高騰しているものの、増加率は逓減している。
□神奈川県川崎市の2022年9月の兆候と今後の予測
・在庫数は上昇傾向
・在庫回転率は高水準を維持が、在庫数の増加に伴い減少することが予測される
・価格改定数は低水準を維持しているが、在庫回転率の減少に伴い増加することが予測される
神奈川県川崎市でも、需給トレンドに即応した価格形成がみられている。価格改定数は、近年で最も低い水準になっているものの、すでに価格の増加率は逓減しており、価格改定数の上昇が予測されることから、短中期的には現状の価格を維持しながら中期的には下落局面に入るものと推察される。
■【2022年10月】埼玉県さいたま市 中古マンション今後の価格予想
埼玉県さいたま市の中古マンション価格は、短期的にも下落の兆候がみられる。
グラフ10:埼玉県さいたま市の在庫数と在庫回転率

在庫数は低い水準を維持しているが、横ばいで推移している。一方で、在庫回転率は減少傾向がみられる。
グラフ11:埼玉県さいたま市の在庫件数と価格改定数

価格改定数は、在庫回転率の減少に呼応するかたちで上昇傾向にある。これは、需給トレンドが価格改定数に反映されていることを意味している。
グラフ12:埼玉県さいたま市の販売価格推移

埼玉県さいたま市の中古マンション価格は、2022年に入ってから変動を繰り返しながらも、ほぼ横ばいで推移している。
□埼玉県さいたま市の2022年9月の兆候と今後の予測
・在庫数は低い水準だが、横ばいで推移
・在庫回転率は高水準にあるが、減少傾向にある
・価格改定数は上昇傾向に
在庫回転率の減少を受け、価格改定の多さが価格高騰にブレーキをかけているものと考えられる。ここ数か月マンション価格はほぼ横ばいで推移しているため、価格改定数の増加はすでに短中期的にも見ても価格下落圧力となりえる。
■【2022年10月】千葉県千葉市 中古マンション今後の価格予想
千葉県千葉市の中古マンション価格は、短期的に不安定な状態にあり非常に予測しづらい状況となっている。
グラフ13:千葉県千葉市の在庫数と在庫回転率

在庫数は低い水準を維持。2022年以降は横ばいで推移している。在庫回転率は、その他のエリアと同様、高い水準ではあるものの横ばいと減少の間にある。
グラフ14:千葉県千葉市の在庫件数と価格改定数

価格改定数は、2022年から上昇傾向が見られたが、2022年9月は近年で最も低水準。在庫回転率が横ばいと減少の間で推移しているのため、本来なら横ばいに近い形で推移するはずだが、それとは異なった動きをしている。従って、需給トレンドが価格改定数に反映されていないものとみられる。
グラフ15:千葉県千葉市の販売価格の推移

千葉県千葉市の中古マンション価格は、一都三県の中で最も価格変動が大きく、短中期的にはその動きは不安定で予測しづらい状況だ。
□千葉県千葉市の2022年9月の兆候と今後の予測
・在庫数は低い水準だが、横ばいで推移
・在庫回転率は高い水準だが、横ばいで推移
・価格改定数は近年、最も低水準
千葉県千葉市では、需給トレンドに即応した価格形成がみられなかった。価格改定数も予期せぬ方向に変動するため、価格の変化を予測する事が難しい状況となっている。
■【まとめ】一都三県都市部でも徐々に市場の様相が変わりつつある
価格高騰一色だった、一都三県の中でも、高価格で取引が行われる東京都23区・神奈川県横浜市では、いまだ価格の高騰が予測される一方で、川崎市、さいたま市、千葉市では不確実性や変化の予兆が徐々に現しつつある。
とくに、さいたま市は下落局面に入りつつあることが予測されるため、今後の定点観測は必須となってくるだろう。
今後もマンションリサーチは、中古マンションの価格推移および価格変動の予兆を定期的に発信していくという。
健美家編集部