投資用不動産を扱う株式会社グローバル・リンク・マネジメントは、(1)東京という都市を分析しその魅力を世界に向けて発信すること、(2)不動産を核とした新しいサービスの開発、等を目的に、明治大学名誉教授 市川宏雄 氏を所長に迎え、「グローバル都市不動産研究所」を2019年1月1日に設立した。
◎過去のレポート一覧
同研究所では、調査・研究の第19弾として、全国の投資用不動産保有者400名を対象に、ESGに対する意識調査を実施した(同調査は2021年から毎年実施。3回目)。
??【01】不動産のESG投資 認知度・重要性 ともに3年連続で向上
不動産投資のESGの認知度 2021年の24.3%から3年連続上昇し33.0%に「重要だと思う」も2021年の25.0%から31.3%にアップ
■不動産投資のESGの認知度が向上
(1)ESGの知名度
そもそも「ESG」という言葉を聞いたことがあるかを尋ねた結果、聞いたことが「ある」は47.5%だった。第1回から約14ポイント上昇しており、「ESG」という言葉が不動産投資家に浸透してきていることが分かった。
(2)不動産のESG投資の知名度
ESGとは別に、「不動産のESG投資」の認知を尋ねた。この結果、「知っていた」は33.0%で、およそ3人に1人が不動産のESG投資を認知していることが分かった。3年連続で不動産のESG投資に関する認知度が向上している。
(3)不動産のESG投資の重要度
不動産のESG投資の認知を問わず、その内容について、投資先を判断する材料・要素として重要だと思うかを尋ねた。この結果、「重要だと思う」は31.3%、「どちらかというと重要だと思う」は46.3%で、合計77.6%が「重要だと思う(計)」と回答した。昨年と比較すると、「重要だと思う」「どちらというと重要だと思う」の両方が増加している。
この設問は不動産のESG投資を認知していない層にも聞いている。ESGという言葉を知らなくても、投資先判断において環境・社会に対する好悪の影響の考慮が重要だと考える不動産投資家が増えていることが確認できた。
(4)重要だと思う理由
不動産のESG投資が重要だと思うと回答した人に対して、その理由を複数回答で尋ねた。
この結果、「中長期的な資産価値の維持に寄与すると思うため」「賃料収入などリターンに好影響をもたらすと思うため」が5割前後を占めていた。昨年との比較では、全体的な傾向に変化はなかった。
【02】ESG対応の重要分野は「気候変動への対応」が初の1位
不動産のESG投資を「必ず意識する」が3年連続で増加
投資目的も賃料や資産価値の向上を期待する傾向が顕著に
(5)重要だと思う分野
不動産のESG投資が重要だと思うと回答した人に対して、どのような分野で重要だと思うかを尋ねた。もっとも回答率が高かった項目は、2021年は「地域社会・経済への寄与」、2022年は「健康性・快適性」だったが、今年は「気候変動への対応」が47.1%だった。これに「健康性・快適性」が続いている。
「気候変動への対応」がトップになった背景は、環境認証物件の増加など物件が変化していること、東京都が新築戸建の屋根に太陽光発電設備設置を義務付けるなど、環境規制強化に繋がる動きが具体化していること、電力などエネルギー価格の高騰をもとに省エネに対する意識が高まっていることが考えられる。
(6)今後の不動産投資でESGを意識するか
今後の不動産投資で、ESGを意識するか尋ねた結果、「必ず意識すると思う」が23.0%で過去最多となった。4つの選択肢の中では、「投資目的によっては意識すると思う」が最も多く43.0%だった。「投資対象となる物件によっては意識すると思う」は19.0%だった。
理由を問わず「意識する」は合計で85.0%で、前年の数値よりも微減(-0.3ポイント)しているが、「必ず意識する」が毎年増えていることから、不動産投資においてもESGを意識するべきとの考え方が色濃くなってきていることが分かる。
(7)どのような目的であれば意識するか
今後の不動産投資でESGを意識すると回答した人に対して、どのような目的なら意識するか尋ねた。この結果、「不労所得・売却益の獲得」が2年ぶりに1位になった。ESG物件に対して賃料や資産価値の観点で注目している様子をうかがうことができる。
【03】ESG対応物件 価格上乗せ許容率 3年連続増加
「購入費用増額を許容」が76.7%
増額許容の度合いは3〜8%で半数を超える
(8)ESG対応物件の購入額
ESG対応を進めている物件の価格に対する影響を探るため、ESG対応物件の購入額の増額に対する意識を尋ねた。この結果、「意識はするが、購入費用に差が出ることは許容できない」が最も多かったものの、年々この値が減っている。この回答を除いた76.7%は、増額を許容する結果になっている。
増額の許容額については、「1〜2%」が15.3%で昨年から4ポイント程度減少する一方、「3〜4%」が24.1%、「5〜6%」が21.8%、「7〜8%」が10.0%で、この3つで全体の約55%を占めていつ。全体的に価格の上乗せを許容する意識が強まっている。
(9)ESG投資を意識する物件
今後の不動産投資でESGを意識すると回答した人に対して、どのような物件なら意識するか尋ねた。この結果、「ワンルーム区分マンション」が40.0%で最も高い結果。前年より2.2ポイント減少しているが、他の項目と比べると顕著に高い結果に。これに「ファミリー向け区分マンション」が次いでいる。
レジデンスが上位を占めているが、「商業施設」「事務所店舗」「物流・倉庫」「一棟ビル」「データセンター」など非レジデンスの選択肢の回答比率が前年よりも増えている。
【04】都市政策の専門家 市川宏雄所長による分析結果統括
行政の気候変動の取組み本格化や省エネの必要性が身近になり
不動産においても「気候変動」がキラーフレーズに
世の中で環境問題への意識が高まる中で、「ESG」という言葉が不動産投資家に浸透してきている様子がうかがえる。認知度もその重要性に対する意識も2年前は四分の一であったのが、現在は三分の一に増えている。
不動産のESG投資がなぜ重要なのかは「中長期的な資産価値の維持に寄与する」「賃料収入などリターンに好影響をもたらす」という回答が5割前後を占めていることから分かるように、環境配慮をした不動産は価値が高まるという世界の常識が日本でも受け入れられつつある。
こうした意識の変化の背景にあるのが、東京都が新築戸建の屋根に太陽光発電設備設置を義務付けるなど、行政の気候変動への取り組みが具体化してきたことや、ウクライナ危機に端を発したエネルギー価格の高騰による省エネの必要性が身近なものになっていることがあげられる。それまで、ESGは地域社会・経済への寄与や、健康性・快適性に意味があるとの認識が多かったのに比べると、「気候変動」は人々に訴えるキラーフレーズであることが分かる。
では、不動産投資でESGを意識するにあたって、どのくらいの費用増を許容するかだが、1%〜8%が全体の約55%を占めている。以前よりは価格負担を受け入れる姿勢は見えているが、それでも一割以内と答えるのは、ESG配慮によって具体的にどれほどの付加価値があるのかが分からない中では仕方がないとも言える。また、ESGを意識する物件として、マンションに加えて商業や事務所、物流倉庫など非レジデンス系の施設にも目を向け始めていることが分かった。
健美家編集部