不動産という資産の価値を把握する指標はさまざまある。地価の上昇に伴いマンション、店舗、商業施設などの売買価格も上昇していくが、その価格が上がれば、賃料収入との見合いでキャップレートが低下して割高感高まっていく。
不動産調査会社の東京カンテイでは、足元の資産価値を把握する方法として、毎年「マンションPER」という指標を発表している。今年も5月8日に独自調査として公表しているので、そこから見える状況を追ってみたい。
同調査は、分譲マンションの新築価格が、同勢圏内の分譲マンション賃料の何年分に相当するかを求めた数値だ。PERの数値が小さいほど賃料との見合いで割安で買いやすい状況にあり、反対に数字が大きくなると割高で購入しにくくなっていることを意味している。
郊外に行くほど割安感が増している
2022年の新築マンションを対象に調べたところ、首都圏のPER値の平均は25.67だった。つまり、物件を購入してから投資回収までに25年以上を必要とするという結果である。首都圏128駅を対象に調べており、前年の調査から1.1ポイント上昇している。
新築の平均価格(70u換算)は前年比で8912万円(13.8%上昇)となり、分譲賃料の平均が28万2417円(同8.2%上昇)となったが、同社では「賃料も上昇しているが、価格上昇率が大きく上回ったことで回収に要する時間が前年よりも1年以上長期化する結果になった」と分析している。つまり、価格上昇に家賃水準が追い付いていないことを意味している。
賃料との見合いで新築価格が比較的割安を示す地域は例年同様に東京都下や神奈川県、埼玉県、千葉県の周辺県となっている。
調査対象の128駅を割高感と割安感でランキングにしたところ、PERが低い(割安感が強い)駅のトップはJR京葉線「検見川浜」で15.96だった。賃料換算での回収期間は首都圏平均よりもおよそ10年も短い。
この賃料水準に対して価格が割安な駅で2位以下トップ10は以下の通りである。
2位 JR総武線「津田沼」(15.97)
3位 JR東海道本線「辻堂」(16.33)
4位 JR中央線「国分寺」(16.87)
5位 JR横浜線「鴨居」(17.50)
6位 JR総武線「千葉」(17.53)
7位 小田急小田原線「相模大野」(17.66)
8位 JR京葉線「海浜幕張」(17.66)
9位 小田急小田原線「本厚木」(17.79)
10位 西武池袋線「練馬」(17.97)
家賃水準が分譲価格に追い付かない
一方で、最もマンションPERが高かった(割高感が強い)駅のトップは、前年に続いて東急東横線「自由が丘」(45.56)となり、賃料換算では首都圏平均と比較して約20年も回収に要する時間が余計にかかる結果となっている。
もともと人気の高いエリアであることから、平均価格は約1憶5000万円超と軽く1億円を超えており、なかには1戸価格が3億円に及ぶ100u以上のプレミアムな住戸も見られ、賃料見合いでの割高感を押し上げている。価格に対しての家賃水準は追い付くどころか、引き離され続けている。
この賃料水準に対して価格が割高な駅で2位以下トップ10は以下の通りである。
2位 東京メトロ丸の内線「西新宿」(42.98)
3位 横浜高速鉄道みなとみらい線「元町・中華街」(41.25)
4位 東京メトロ半蔵門線「半蔵門」(36.96)
5位 東急東横線「祐天寺」(36.70)
6位 東急田園都市線「三軒茶屋」(35.43)
7位 東京メトロ日比谷線「神谷町」(35.34)
8位 東京メトロ千代田線「代々木公園」(34.68)
9位 JR山手線「駒込」(34.58)
10位 JR京浜東北線「大宮」(32.90)
投資回収までの期間に45年、40年、35年などを要するマンションがトップ10にひしめく。これら圏域内での新築マンションから今後もさらに高額な賃料事例が発生する可能性もあると想定し、同社では「この圏域内のマンションのPERは30ポイント台後半とみるのが妥当であろう」と分析している。
コロナ禍の3年間に賃貸住宅市場は構造変化を起こしている。筆者の雑感としては、特に独身者が居住するワンルームやコンパクトサイズのマンションはコロナ前に比べて人気が落ちたのが否めないが、家族で居住するファミリー向けの広い賃貸住宅が人気となっている。
しかし、その広めの賃貸住宅は供給不足が指摘されていることから、その受け皿として賃貸に出される分譲マンションの家賃が上昇に向かう可能性もある。言い換えれば、家賃を支払う能力の高い人に選ばれる賃貸住宅の供給が不足している現状が顕著になっている。
健美家編集部(協力:
(わかまつのぶとし))