不動産業界や資産家、不動産投資家、金融機関などから注目を集めていた「相続マンション評価見直し」で最高裁は4月19日に国税庁が再評価して追徴課税した処分を適法と認めた。
各種報道等によれば、このケースは、東京都と神奈川県のマンション計2棟を2012年に相続した原告人が路線価に基づいて約3憶3000万円と評価し、銀行からの借り入れがあったため、相続税額をゼロと申告していた。
これに対して国税当局の不動産評価額は約12億7300万円と再評価し、路線価による評価は妥当ではないとして約3億円を追徴課税したため争いになっていた。相続する前に故人が購入した価格は約13億8700万円だった。
恣意的な適用 VS 行き過ぎ節税
マンションの相続を巡る税務訴訟であるが、マンションなどの不動産を取得して相続税を節税する方法が一般的なだけに今後の不動産取引に影響が出ないかを懸念する不動産業界の関心は高い。
相続税や贈与税の算出では一般的に路線価を使う。路線価は、国土交通省が発表する公示地価の8割程度とされ、実勢価格よりも低く設定していることで実勢価格との差を利用しての節税対策は広く知られているところだ。富裕層が都心のタワーマンションなどを節税目的で購入する例は多い。
2019年8月の東京地裁判決(一審)と2020年6月の東京高裁(二審)までの相続人側の敗訴判決を覆す可能性も注目されたが、富裕層による税務申告に国税当局が厳しい姿勢で臨んでいる姿勢を認めたことで、これから富裕層を狙い撃ちするのでは、と伝家の宝刀を恣意的に使われるのではとの懸念が高まりそうだ。
原告側としては、税の公平性から見ておかしいと反論している。この意味から今回の訴訟では、国税庁長官の指示を受けて著しく不適当とされる財産価額を再評価する「財産評価基本通達の総則6項」の適用の是非も争われた。
この例外規定である伝家の宝刀を使い方については、「合理的な理由がない限り違法」としており、路線価評価と実勢価格に大きな差があるだけでは「相続税法に反しているとはいえない」と判決で指摘しているものの、実質的に例外規定の適用を追認した形となった。
国税側としては、路線価を画一的に評価手法として使うことで、形式的な平等を行うことで、逆に税負担の公平を欠いてしまうという判断である。路線価と実勢価格の差を恣意的に活用することに、とりわけ短期間での売買に待ったをかけたいという思惑がみられる。
国税当局の忍び足、タワマン節税に「待った」か
タワマン節税では、高層階ほど物件の価格が高くなるので路線価との価格差を利用する場合に高層部分が購入者から人気だ。
ちなみに日本と類似する不動産取引システムを持つ台湾では、マンションの実勢価格が高層階よりも1階部分の価格が高くなるのが特徴で、固定資産税を算出する基になる台湾版路線価は1階から最上階までどの区分住戸までどれも同じ。このため1階の店舗物件を購入して機械的にはじき出された路線価と実勢価格との開きを利用しての相続節税に臨んでいる。
実勢との価格差を利用して節税は日本でも定番である。都心部のマンション価格は高層部分ほど高くなり、路線価の数倍に跳ね上がることが珍しくない中で、今回の判決で例外規定の明確な適用基準は示されていない。
都内で賃貸マンションを運用する投資家や賃貸オーナー、物件を販売する不動産事業者などからは、「相続対策での物件選びに影響を与えないか」「タワマン人気に影響しないか」などの声が聞かれる。
相続財産は不動産が4割を占める
また、最高裁判決の影響は富裕層だけではないとの指摘もある。大都市部に持ち家などの不動産を所有している人も今回の判決に注目したようだ。
東京湾岸に居住する初老の夫婦は、「ここら辺りは、東京五輪などで開発が進んで商業施設やマンションが次々に建てられた。地価相場もかなり上昇している」と将来の子どもへの相続に心配気だ。
相続財産に占める資産の割合は、国税庁の調べでは土地が約35%を占めており、家屋も5%程度を占める。東京23区内に土地を持つ人は相応の相続税がかかる可能性が高い。
「小規模宅地特例」を使うことで居住用の宅地(上限330u)は評価額を8割下げられ、事業用の土地(上限400u)も8割減額でき、貸付用の土地(上限200u)も対象となって5割減額される。
今回の最高裁判決は、富裕層にとどまらず大都市部での相続税対策や投資物件の運用方法の意識を高める結果になったと言えそうだ。
健美家編集部(協力:
(わかまつのぶとし))