国税庁は、毎年、税務調査の状況を公表しているが、最新の調査実績を令和4年11月に公表した。公表資料から、国税庁がどのような調査に力を入れ、どのような方法で調査しているかについても伺い知ることができる。
不動産投資家も、大口の不動産を所有している方や、インターネット取引をおこなっている方、海外投資をおこなっている方などは注意が必要だ。
また、国税庁は、今年初めて、所得税の不正還付への対応についても公表した。還付申告となる方は注意したい。
最新の所得税等の調査状況にみる国税庁の主な取組み
令和4年11月に、国税庁が「令和3事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」を公表した。令和3年7月から令和4年6月までの最新の税務調査実績をまとめたものだ。毎年公表しているデータであり、その年度の調査件数、追徴税額などを知ることができる。その他、その年度の調査において、力を入れている取組とその実績を紹介している。
公表データによると、積極的に取り組んでいるのは、富裕層、海外投資、インターネット取引に対しての調査だ。
富裕層の調査は、有価証券や不動産の大口所有者、高額所得者などに対しておこなっている。富裕層の資産運用の多様化、国際化を睨んでいる。令和3事務年度の富裕層への追徴税額は、238億円で過去最高となっている。
海外投資の調査は、国外送金等調書、国外財産調書やCRS情報などに基づいておこなわれている。CRS情報とは、OECDが定めた基準に基づいて、非居住者の金融口座情報の交換を各国の税務当局が自動的におこなう制度だ。個別の納税者についての調査において、外国税務当局に情報提供を要請することもできる。令和2事務年度には、日本居住者の約191万件、口座残高12.6兆円のCRS情報を、87か国・地域の税務当局から受領したと発表されている。
インターネット取引の調査は、シェアリングエコノミー等のインターネット上のプラットフォームを介しておこなう商取引、暗号資産等の取引が該当する。シェアリングエコノミーには民泊やアフィリエイト、ギグワーク(インターネットを利用して受発注がおこなわれる単発の仕事)なども該当する。
シェアリングエコノミー等への適正課税の対応
インターネット取引については、令和元年6月、国税庁は「シェアリングエコノミー等新分野の経済活動への的確な対応」としてその取組内容を公表し、適正課税に向けて対応強化の姿勢を打ち出している。
それによると、国税庁内でプロジェクトチームを設置し、インターネット等の公開情報、情報照会手続等を活用して、課税上問題があると見込まれる納税者を把握、行政指導や厳正な調査をおこなっている。
情報照会手続については、令和元年の税制改正で、インターネット取引やシェアリングビジネスなどの取引の相手方や取引の場を提供する事業者などに対して、必要な場合には協力要請・報告の求めができる制度が整備されたところである。このような手続を活用して積極的に調査をおこなっている。
具体的な調査事例として、動画配信者に視聴者からプレゼントされたポイントの申告漏れ事例、暗号資産の売買利益が無申告であった事例、親族名義の口座を利用するなどしてネットオークションの売却益申告を逃れていた事例、アフィリエイト報酬の無申告事例が紹介されている。
不動産投資家の中にも、こうしたインターネットを活用したシェアリングビジネスを手掛ける方も多いだろう。該当する場合には、適正な申告をしているかどうかチェックしたい。
行政指導は、お尋ね文書などでおこなわれることもある。税務署からのお尋ね文書には、真摯に対応するようにしたい。
不正還付申告への対応
国税庁は、所得税の不正還付申告の対応も強化している。令和4年11月に公表した「所得税還付申告に関する国税当局の対応について」によると、近年、架空の源泉徴収税額や各種控除額を記載し、不正に所得税の還付を受けようとする還付申告が相次いでいるとされる。
このため、国税庁は、必要があると認めるときは、還付金の支払いを保留し、申告内容が適正であるかの確認調査をおこなうとしている。
具体的には、給与等の支払実績をその支払われたとされる勤務先に確認したり、申告した納税者の自宅に直接赴いて実地調査をおこなうこともあるという。
個人事業主の場合、支払先から源泉徴収されても支払調書が発行されないこともある。源泉徴収税額を自ら計算して確定申告をおこなう納税者も多いだろう。還付申告となる場合は、源泉徴収税額の計算が適正かどうか、注意したい。
各種控除額についても、近年、配偶者控除の所得制限や所得金額調整控除など改正が目まぐるしい。該当する人は、適用要件を満たし控除を受けているかどうかチェックしたい。