不動産所得を効率的に節税するには、帳簿作成が非常に重要である。
不動産投資の会計税務基礎シリーズの2回目は、帳簿作成で不動産所得の所得税を節税する方法についてみていく。不動産所得の収入を貸付期間に対応させて所得税を抑える方法、そして青色申告による節税について説明する。
不動産所得の収入計上の取扱いにみる帳簿作成の重要性
所得税では、所得の性質によって税を負担する能力に差があると考え、その発生原因に応じて所得を分類してそれぞれの所得計算をする。不動産所得は、資産を運用することによって生ずる所得のうち、不動産などの貸付けによる所得だ。
不動産所得の金額は、「総収入金額-必要経費」の算式によって計算される。総収入金額や必要経費の範囲は、基本的には他の所得区分と同様だが、不動産所得の性質に応じた取扱いがある。
一例として、不動産所得の総収入金額の計上時期は、契約や慣習によって定められた支払日に計上するものとされている。年をまたぐような場合、たとえば、翌年の1月分の家賃をいつ収入に計上するのか、が問題となる。
通常の会計理論の考え方からすると、サービスや商品を引渡した時に収入を計上するから、貸付期間に対応する年(翌年1月分は翌年)に計上すると考えるのが普通だ。しかし、不動産所得では、契約上の支払日、つまり翌年1月分の家賃は前年12月の収入になるのが原則だ。
ただし、例外的に、帳簿書類を備えて継続的に記帳していること、継続的に貸付期間に対応する年に収入計上していること、帳簿上前受収益や未収収益の経理を行っていること、などを条件として、期間対応による収入計上も認められている。
つまり、法令に沿って帳簿を作成して適切な記帳をすることで、税金のかかる収入額が1月後回しになって計上されることになる。翌年1月分の家賃にかかる税金の支払いは、1年後の確定申告時でよいのであるから、その差は大きいといえる。
青色申告に必要な帳簿と簡単な記帳の仕方
一般に、適切な帳簿作成を行うには、青色申告制度を遵守すればよいといえる。青色申告制度は、一定の帳簿書類を備え付け、それに基づいて正確に所得計算をする納税者に対し、税制上の特典を与えるものだ。
所得税の法令において、青色申告の備え付け帳簿は、複式簿記に基づく帳簿もしくは、簡易帳簿(現金出納帳、収入帳、経費帳、固定資産台帳)とされている。複式簿記による場合には、貸借対照表を作成するため、仕訳帳、総勘定元帳、売掛帳、買掛帳が必要となる。
簡易帳簿では、前受収益や未収収益の経理をおこなうことができない。そこで、上述した貸付期間に対応する収入計上をおこなうには、原則として複式簿記に基づく帳簿を作成することが必要となる。
しかし、借方と貸方の仕訳を日常取引から積み重ねていく、仕訳帳やそれを勘定科目ごとに集計した総勘定元帳を作成するには簿記の知識が必要になる。会計ソフトを利用するにしても、費用や手間がかかる。
そのため、実務でしばしば用いられるのが、入居者ごとに1月から12月までのそれぞれの月分の家賃が、いつ、いくら入金したのか分かるような不動産収入一覧表だ。
【不動産収入一覧表の一例】
1月から12月分の枠とは別に、未収金と前受金の枠を作成し、それぞれ、入居者ごとの家賃収入合計額から、プラスあるいはマイナスできるようにする。上記掲載の例は、前受金を12/25に受け取っているため、収入から除外しているケースだ。なお、1月分は、前年に受け取って前受金処理をしており、これを1月分としてある。
簡易帳簿に加えて、このような不動産収入一覧表を作成することで、貸付期間に対応させる収入計上の条件を満たすことができるだろう。
青色申告のメリット
最後に、青色申告の主な特典を整理してみておきたい。
青色申告の主な特典は、専従者給与の必要経費算入、青色申告特別控除、純損失の繰越控除・繰戻還付、少額減価償却資産の必要経費算入特例、である。
このうち、所得税法の法令によるものは、専従者給与の必要経費算入と純損失の繰越控除・繰戻還付である。専従者給与の必要経費算入は、予め届け出た範囲内で、親族への専従者給与の支払いを必要経費に算入することを認めるものだ。
白色では、一定額しか認められないから、青色申告の大きなメリットといえるだろう。純損失の繰越控除・繰戻還付は、赤字が発生している場合、前年1年間と翌年以降3年間分の赤字と、今年の黒字の相殺を認める。
青色申告特別控除と少額減価償却資産の必要経費算入特例は、いずれも青色申告者に限って認められる強力な優遇税制だ。青色申告特別控除は最大55万円(一定の場合65万円)までの所得圧縮を認め、少額減価償却資産の特例は、30万円未満の減価償却資産の一括必要経費算入を認める。ただし、これらは措置法によるもので、有効期限がある。期限経過後の制度廃止に注意したい。
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取材・文:
(さとうえいいちろう)