賃貸経営を営む個人事業主が、不動産所得を圧縮して節税を考える際、重要なポイントの一つとなるのが、専従者給与の計上である。
専従者給与とは、青色申告をおこなっている事業主の事業に携わっている家族に対する報酬を、事業所得や不動産所得の必要経費として控除できる制度である。法令では、青色専従者給与の金額はあらかじめ届け出た金額の範囲内で、実際に支払った金額を必要経費にできるとしている。
しかし、法令では具体的な専従者給与の金額の基準が定められているわけではない。不動産賃貸業で必要経費として認められる専従者給与の判断基準はどのような点にあるのだろうか。国税庁調査や不服審判所裁決などを基に考察してみる。

青色専従者給与の条件とは
青色専従者給与が必要経費として認められる条件には、主に次の3つがある(なお、白色申告の「事業専従者控除」という制度もあるが、これは法定額を一律に控除する制度であり、控除額は少ない)。不動産賃貸業の場合、事業的規模(5棟10室以上)であることも条件となる。

青色事業専従者(副業をしている場合、専従条件が問題となることもある)や届出書の条件は、かなり明確であるが、給与額の「相当と認められる金額」とはいくらぐらいなのか、は不明確であるといえる。そこで、青色専従者給与額の適正額が問題となる。
法令の規定によると、適正額の判断にあたって、労務の従事期間、労務の性質、労務提供の程度と、同種同規模の事業に従事する者の給与の状況や、事業の種類・規模が基準となるとしている。
青色専従者給与額の具体的な適正額はいくらぐらいなのか?
青色専従者給与の適正額がいくらぐらいなのかを考える際、国税庁がおこなっている「申告所得税標本調査」が参考になる。実際に申告された所得税のデータから、所得金額や税額、所得区分ごとの所得金額などを統計としてまとめたものである。令和元年分の調査によると、不動産所得者の青色専従者給与額は、下表のようになっている。
不動産所得階級 | 専従者のある者の平均専従者数 | 専従者平均給与額 |
〜70万円 | 1.07人 | 133万円 |
70万円〜100万円 | 1.07人 | 99万円 |
100万円〜150万円 | 1.08人 | 112万円 |
150万円〜200万円 | 1.08人 | 121万円 |
200万円〜250万円 | 1.11人 | 129万円 |
250万円〜300万円 | 1.09人 | 135万円 |
300万円〜400万円 | 1.09人 | 143万円 |
400万円〜500万円 | 1.09人 | 152万円 |
500万円〜600万円 | 1.08人 | 163万円 |
600万円〜700万円 | 1.08人 | 171万円 |
700万円〜800万円 | 1.08人 | 179万円 |
800万円〜1,000万円 | 1.08人 | 190万円 |
1,000万円〜1,200万円 | 1.08人 | 205万円 |
1,200万円〜1,500万円 | 1.08人 | 219万円 |
1,500万円〜2,000万円 | 1.08人 | 240万円 |
2,000万円〜3,000万円 | 1.07人 | 270万円 |
3,000万円〜5,000万円 | 1.09人 | 317万円 |
5,000万円〜1億円 | 1.06人 | 354万円 |
1億円〜2億円 | 1.04人 | 478万円 |
2億円〜5億円 | 1.00人 | 500万円 |
5億円〜10億円 | 1.00人 | 300万円 |
※平均専従者給与額は、専従者給与額合計額を専従者数で割って算出した。端数は四捨五入した。
不動産所得の規模が大きくなるにつれて、必要経費に計上されている専従者給与額が徐々に増えていることが分かる。しかし、不動産所得が100万円台であっても、110万円程度の専従者給与額が計上されているのに対し、1,000万円台の規模になっても専従者給与額は200万円台である。12カ月支給されていたとすると、月額20万円程度となる計算である。不動産所得の規模が大きくなった割合と比べると、専従者給与額の増額割合は、非常に低いといえる。
なお、不動産所得者全体の1人当たり専従者数は1.09人で、青色専従者平均給与額は、172万円となっている。12カ月支給として、月額約14万円である。
これらのデータからすると、不動産賃貸業の青色事業専従者の給与額は、月額10万円〜20万円程度が目安といえるだろう。
不動産賃貸業で青色専従者給与の必要経費計上が争われた事例
上述した青色専従者給与の統計は、標本調査のデータである。納税者が自主的に確定申告で計上した金額であり、厳密には税務署が正式に認めたものとまではいえない。そこで、税務署当局と争われた事例をみてみたい。
国税不服審判所で、不動産賃貸業における青色専従者給与の計上が争われた事例から、2つの裁決を取り上げる。
平成7年5月30日裁決は、不動産賃貸業及び理容業を営む者が、平成3年分不動産所得4700万円につき青色専従者給与407万円、平成4年分不動産所得6000万円に対し青色専従者給与693万円を必要経費に計上した事案につき、その青色専従者給与額の全額を否認することを認めている。裁決では、青色専従者がおこなったとされる業務の内容、分量を事細かに精査している。駐車場の賃貸料の現金集金業務や、契約書の作成業務、駐車場の見回り業務などは、いずれもごくわずかであり、従事時間は極めて短時間と認められ、専従していたとはいえないと判断している。
これに対して、昭和52年1月27日裁決は、貸付不動産が遠隔地に散在し、賃貸料の集金、名義書き換え及び契約更新の交渉等を、専従者がおこなっていた事案につき、青色専従者給与の必要経費算入を認めている。
青色専従者給与全般について判例や税務調査の傾向
不動産賃貸業以外も事業も含めて、青色専従者給与の必要経費算入が争われた判例ではどのように解釈されているのだろうか。
まず、労務の対価として認められるには、専従者が専従していたといえるような労務提供をしていたことが条件となる。富山地判平成22年2月10日では、防水工事業を営む事業者の青色専従者給与が争われた事案につき、青色専従者給与についての事実の立証責任は、納税者側にあると解するのが相当とした。
さらに、労務の対価として適正額である必要がある。広島高判平成25年10月23日では、税理士業を営む事業者の青色専従者給与が争われた事案につき、労務の対価として相当な額とは、類似同業者における青色専従者給与の金額との比較において認定することが相当であるとした。
このように、青色専従者給与の必要経費算入について、判例では類似同業者との比較によるとしており、上述で紹介した同業者の標本調査のデータと比較して相当額が認定されるといえよう。不動産賃貸業では、一般的に管理業務の業務量は多くなく、管理業者が入っているケースも多いことから、専従者が実際に行う業務の分量はさらに少なくなる。そのような事情があり、必要経費として認められる青色専従者給与額が少なめになっていると考えられる。専従者がおこなっていた業務の内容についても納税者側で立証することが求められるため、業務の記録を残しておく必要があるだろう。
ただし、青色専従者給与の必要経費算入が争われた事案の中で、納税者側は税務調査で青色事業専従者性について指摘を受けたことがない、と主張しているケースが多々ある。税務調査では、青色事業専従者について、金額の修正を勧めることはあっても専従性を否認することは少ないといえるだろう。
取材・文 佐藤永一郎