確定申告と賃貸繁忙期が終わり、一息つかれている不動産投資家の方々も多いだろう。
しかし、確定申告のベースとなる会計処理や税務は、日々の作業の積み重ねである。特に入退去が多かった場合は、来年の確定申告に向けて、適切な処理、節税ができるよう、今から準備をしておきたい。
契約金、敷金精算の明細書を発行してもらい、
収入になるものを適切に区別して処理
まず、新規の入居があった場合に注意したい事項をみていきたい。
賃借人の入居が決まると、契約金は、管理会社や仲介の不動産会社から一括して振り込まれる。契約金には、収入にならない敷金や保証金も含まれているから、入金額をそのまま収入に計上すると所得を過大計上することになる。
通常は、内訳を示すための入金明細書が送られてくることが多いが、無い場合には請求しておきたい。確定申告間近になって慌てて請求しても間に合わない場合もある。
敷金とあっても、賃貸借契約書で返還不要となっていないかどうかもチェックしておきたい。解約時に敷金が差し引かれる、いわゆる敷引きは権利金扱いとなり、預かり時に収入に計上する。
退去があった場合は、さらに注意が必要である。実際の入金額や支払額と、帳簿上の収入額や必要経費の額が一致しないことが多いからだ。
収入関係では、敷金の精算で、返還しないことが確定した部分を雑収入などとして不動産所得に計上する必要がある。退去時にクリーニング代を差し引いて入居者に敷金を返還することになっているようなケースなどが該当する。
たとえば、クリーニング代80,000円に対し、敷金100,000円を充当し、賃借人に20,000円を返還したとする。このケースをオーナー側からみると、実際に支出している金額は、クリーニング代80,000円と敷金返還20,000円であるのに、帳簿上は、雑収入を80,000円計上するため、収入と経費が両建てされて不動産所得は変化しないことになる(以下、【参考仕訳例参照】)。
【参考仕訳例】
確定申告時までにはこのような帳簿上の処理が必要になるため、退去があった場合は、その精算書の明細を早めに必ず請求しておくようにしたい。
クリーニング代を敷金から定額で差し引くといったケースもあり、その場合は、実際にかかったクリーニング代との差額をオーナーが負担することもある。明細がないと、適切な会計処理は困難だろう。
必要経費にならない原状回復、
資産計上する場合の耐用年数
退去があった場合に、節税面からポイントとなるのは、原状回復費の処理だ。原状回復であっても、工事内容によっては資産計上しなければならない支出がある。
税務上、資本的支出と呼ばれる支出である。当初の資産の利用期間を延長させたり、価値を高めたりするような支出があった場合には、その部分を資産計上しなければならない。
資本的支出に該当するかどうかは、フローチャートによって判断していくのが一般的であり、原状回復工事は修繕費として経費にできることが多い。
しかし、中には資本的支出に該当し、資産計上しなければならないものもある。システムキッチン、ユニットバスなどの設備交換や、フローリングの全面張替えなどは、資産計上する必要がある。
原状回復工事をおこなった場合、工事業者によっては、「原状回復工事一式」といった請求書で済ましてしまい、内容の明細は省略することもある。だが、資産計上となる原状回復工事のうちにも、振り替えるべき資産の種類が異なるものが複数混在しているケースがある。
フローリングの全面張替えと、システムキッチンの交換を同時におこなった場合は、一般的には資産の種類が異なる。それぞれ、振り替える資産と、その法定耐用年数は下表のようになる。資本的支出の耐用年数も、新規取得として法定耐用年数を用いるのが原則である。
【資産振り替え例】
「原状回復工事一式」となっていた場合、建物の法定耐用年数を用いることになるだろうが、内容明細を明確に分けることで、法定耐用年数の短い建物附属設備の部分を切り分けて振り替えることが可能になる。法定耐用年数が短ければ、その分、一年間の減価償却費が大きくなるため、節税になる可能性が生じる。
ただし、中古物件の資本的支出は経過年数に応じた簡便法によることができるので、建物のフローリングを全面張り替えした場合は、その年数を用いればさらに節税になり得る。なお、従来の取得価格の50%を超えるような資本的支出の場合、簡便法によることができない。
このように、減価償却を利用した節税をおこなうためには、入退去に伴う原状回復工事をおこなった場合は請求書を確認し、内容明細がなければ記載してもらうようにしたい。
少額資産や一括償却資産の特例を利用するために、
1単位の金額を意識
資本的支出や減価償却資産についての節税方法として有用なのは、少額資産の特例および一括償却資産の特例である。
少額資産の特例は、青色申告をおこなう個人は、取得価格が30万円未満の少額の減価償却資産については、その全額を必要経費に算入できるというものである。一括償却資産の特例では、10万円以上20万円未満の減価償却資産については、その全部または一部を一括して、合計額の3分の1ずつを3年間にわたり必要経費に算入できることとしている。
これらの特例を利用できれば、資本的支出であっても、全額をその支出した年の必要経費に算入できることになり、節税効果は高い。そのためには、取得価格が30万円未満であることが必要であるが、この価格基準を判断するための資産の単位が問題となる。
税務実務では、1単位の基準を「通常1単位として取引される単位」、「社会通念上一の効用を有すると認められる単位」としている。この1単位の解釈については、判例(最三小判平成20年9月16日)でも示されており、取引の単位と機能の観点から判断するとしている。
つまり、原状回復工事について、これらの特例を利用して資本的支出となる工事を必要経費に算入するには、取引と機能が1単位と認められるものが、30万円未満あるいは20万円未満であることが必要になる。
特に注意したいのは、取引の単位も重要な判断要素となるということである。たとえば、アパートのフローリング全面張り替え工事を、2部屋同時におこなった場合、フローリングは機能的には建物と一体とみなされることから、あくまでもこの2部屋分の経済的取引という単位で判断されることになる。
このようなことから、少額資産の特例を利用することを睨んで、退去後の原状回復工事は、1部屋ごとに発注する方がよいだろう。同時に発注する場合であっても、依頼業者を異なる業者にすれば、別々の取引となる。
また、工事の明細書を請求しておけば、その明細をみて機能面から1単位に切り分けることができる可能性が高くなり、少額資産の特例や一括償却資産の特例を利用する際にも有利となる。
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取材・文:
(さとうえいいちろう)