「700万円未満」「〜900円未満」「900万円以上」で税率3段階
若年・子育て世代の京都市内への居住を促す
観光都市の古都・京都が、空き家を手ごろな価格で手に入れやすくなる絶好の場所になるかもしれない。京都市議会は3月25日、日常的に人の住んでいない空き家や別荘の所有者に課税する新税導入の条例案を可決した。
税金を課されることをいやがって空き家や別荘を手放す人が増えて値ごろな住宅が市場に流通し、若者や子育て世代が住宅を取得しやすくなる環境を整えるのが目的だ。不動産投資家も京都で値ごろな空き家を購入するチャンスが増える。若者や子育て世代に貸し出せば、京都市が実現しようとしている目的に合致する、間接的な貢献になるのではないだろうか。
新税の名称は「非居住住宅利活用促進税」。課税されるのは、毎年1月1日時点で「市街化区域に存する専ら居住の用に供する者のない住宅の所有者」だ。住民票の有無にかかわらず、居住実態があるかどうかで判断する。
今後、総務省による認可や必要なシステムの整備が必要になるので、条例の実際の施行は2026年以降になる見通しだ。

税率は、家屋の固定資産評価額に応じて3段階に分け、評価額が低いほど税率も低くなる仕組みとなっている。
基本的な税額計算の仕組みは次の通りだ。
「@家屋の評価額の0.7%」+「A1平方メートル当たりの固定資産評価額(土地)×建物の床面積(平方メートル)×税率(0.15%〜0.6%)」。
このAの税率が、家屋の固定資産評価額に応じて3段階に分かれる。
家屋評価額700万円未満=0.15%
同700万円〜900万円未満=0.3%
同900万円以上=0.6%。
家屋の評価額100万円未満や「京町家」は課税されず
事業用に使用または使用予定も課税の対象外
ただし、課税が減免されるケースがある。
まず、免税されるケース。税率計算のAのとこりにかかわってくるが、当初5年間、家屋の固定資産評価額が100万円未満のものは免税にするという。
また、個別指定の「京町家」「景観重要建造物等の歴史的建造物」などは対象とならない。
次に、すでに事業用に使用しているものや、使用を予定しているものも課税を免除する。ただし、後者については1年間のみだ。
また、賃貸または売却を予定しているもの(事業用を除く)も対象外。ただし、1年を過ぎても契約にいたらなかった場合は免除しない。
このほか、固定資産税において、非課税または課税免除とされているものも対象外だ。
一方、次のような場合も減免となる。
「転勤中、海外赴任中のため,居住していないもの。ただし、5年間のみ」
「入院・施設入所中のため、居住していないもの」
「介護等などが必要なため、一時的に親または子と同居しているもの」
「DV(ドメスティックバイオレンス)の被害者。ただし、自己の居住の用に供していた非居住の住宅のみ」
「固定資産税において、災害、生活保護など、減免の対象となるもの」
京都市全体は「転入超」も、若年・子育て層は「転出超」
マンションなど高騰で若者購入できず空き家に期待
京都市がこのような新税導入に踏み切るのは、大きく次の2つの理由があるという。
一つ目は、京都市では若年層や子育て層を中心に市内に居住を希望する者が住宅を購入できず、市外へ転出しているケースがあるからだ。京都市全体では転入超過であるものの、社会を担う就職期の20歳代が東京都・大阪府に、結婚・子育て期の30歳代が近郊都市に出る傾向にあり、これらの世代は転出超過であるという。

加えて京都は市街地の面積が限られており、空き家など非居住住宅の存在が、潜在的な住宅供給の可能性を狭めているとする。
2018年住宅・土地統計調査(総務省)によると、京都市の空き家率は12.9%に上る。

一方、公示地価の上昇率やマンション価格は周辺の都市と比較して高い傾向にあり、若い世代は住宅購入に手が出ない状況となっている。だが、空き家に課税すれば、所有者はそれをいやがって空き家を売りに出す可能性がある。価格が低めの空き家が流通すれば、若い世代が購入できるようになり、京都市内への居住が進むことになる。
このような状況は不動産投資家にとってビジネスチャンスの拡大となるだろう。数百万円規模の家屋なら、現金で購入できる投資家も多いはずだ。投資戦略の選択肢の一つとして検討してみてもいいのではないだろうか。
取材・文:
(おだぎりたかし)