相場よりやや安く売られている物件を見つけたら、崖地や擁壁近くの物件だったということもあるだろう。そこで注意したいのが、土砂崩れである。
2月10日には横浜市保土ヶ谷で、2月13日には東京都世田谷区で土砂崩れが発生した。過去に、逗子市で斜面が崩れ、高校生1名が亡くなる被害が発生したのも2月だった。
この時期の土砂崩れの特徴と、崖地や擁壁近くの物件で、注意すべき点について、シンクタンク「だいち災害リスク研究所」を運営するさくら事務所の住宅診断士、田村啓さんに話を聞いた。
梅雨時・台風シーズンだけではなく、
土砂崩れの危険は年間を通してある
2月10日午後、横浜市保土ヶ谷の住宅地で土砂崩れが発生し、12世帯に避難指示が出されたとの報道があった。当日に雨が降ったものの、警戒が必要な降水量には及んでいない。
発生4日後に、だいち災害リスク研究所の横山芳春所長が現地を訪れている。土砂崩れが発生した現場は、斜面に位置しており、本来の土留めではない塀などを用いた可能性や植栽、地下水の影響などが考えられるそうだ。塀であれば、擁壁として土圧を支えることは考慮されていないため、擁壁など土留めとして機能を持つ構造物が必要になる。
2月13日の午後には世田谷区成城の道路沿いの工事現場で、「コンクリート製の擁壁」が崩れたとの報道があった。冒頭の写真の現場であるが、こちらも横山所長が訪れ、現場を確認している。現地は「国分寺崖線」と呼ばれる台地斜面の崖にあり、崖ぎわで工事・造作が行われていた影響が大きいようだ。
通常、土砂災害というと、梅雨時期から台風シーズンに多いイメージがある。2月10,13日は、10日に保土ヶ谷で雨が降ったものの、特段、気象が悪かったというわけでもない。取材した田村氏は次のように考察する。
「どちらの現場を見ても、土砂崩れが発生してもおかしくはないような危険な斜面です。土砂崩れは、『まさかこんなところで』というような場所で起こりにくく、危険が想定される場所で発生しています。
また、雨の多い夏場だけではなく、危険は常にあるといっていい。雨が降ってすぐに崩れるケースもあれば、複合的な理由で、大雨の被害から半年後に崩れるようなケースもあります」
2020年2月に逗子で発生した土砂崩れに関しては、国総研が、「?による流動・崩壊ではなく、乾湿、低温等による風化を主因とした崩落」との見解を出している。
冬場は、このように乾燥や低温等による風化を招きやすいのかもしれない。
斜面のひび割れや地下水の流れに注意!
崖地や擁壁のチェックすべきポイント
土砂災害にあっても、建物の場合は、保険でカバーできるケースがあるが、「土地」までは保険で対応できないことが一般的だ。
もしもすでに所有している物件が崖地や擁壁近くであったら? もしくは、これから崖地や擁壁近くの物件の購入を検討する場合、どのようなことに注意すべきだろうか?
「土砂災害の危険は、土砂災害ハザードマップで確認できます。土砂災害については頻繁に更新されており、たった今も現在進行形で崖地の調査が進んでおり、年々該当エリアが増えているため、購入時に確認したからといって安心せず、定期的に見直す必要があります」
今回土砂崩れがあった、保土ヶ谷の現場はハザードマップで、土砂災害警戒区域と急傾斜崩壊危険個所(傾斜度30度かつ高さ5m以上の急傾斜地で、人家等に被害を与える恐れのある箇所)に該当している。世田谷区の現場は、周辺が土砂災害警戒区域に指定されているものの、警戒区域外に位置している。
「近年崩れている崖や擁壁の共通点は、崖を擁壁で覆っていても、とても古いケースが多いです。土がむき出しになっている場合や、平時に変な場所から地下水がしみ出ていたり、擁壁自体が湿っぽい場合は、土砂災害の危険が増し、緊急性が高いケースが想定されます」
土砂災害には、前兆現象がみられることがある。崖・斜面に亀裂、ひび割れが発生したり、落石があったり、地下水の変化がある場合は、注意が必要だ。
「どんな物件にもリスクがありますが、崖地や擁壁近くの物件は、ハイリスクではないかどうかの見極めが重要です。ハザードマップのほかに、国土交通省による『我が家の擁壁チェックシート』も参考にして、擁壁の状態をチェックしてみるといいでしょう」
とはいえ、斜面や擁壁の状態を素人が見て正しく状況を判断するのは難しい。少しでも不安に感じる場合は、専門家の知見を活かしたい。
たとえば地盤災害の専門家が知りたい場所の災害の危険度を個別に診断し、電話コンサルティングに応じるサービス『災害リスクカルテ』を利用するのも1つの手段だろう。
収益物件だけではなく、自宅や実家、子供の通う学校なども、土砂崩れの危険がないかどうか改めて確認しておきたい。それも1度チェックするだけではなく、定期的に見直す必要がありそうだ。